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日本医師会でコロナ禍におけるとねっとの活用経験と課題について報告してまいりました。

日本医師会館からオンラインで講演でした。オンライン講演は少し寂しかったですが、全国のコロナに対応されている医師会の先生方へ発信できたことは大変光栄でした。
まずはとねっとの概要です。とねっとは行政と医療機関が協働で運用している点、そして市民が病気を持ち患者になる前から加入することができる点、そして今回のテーマである災害について当初から想定してデザインされたシステムであることが特徴といえるでしょう。


とねっとの概念図です。
杉戸町では、東日本大震災直後から富岡町などからの被災者を受け入れ、行政と医師会が一体的に避難所の健康管理などで共同した経験があります。写真は震災関連死を防ぐために全国で最初に行われた被災者を対象とした検診の様子。この取り組みの後、全国で検診の取り組みが広がっていきました。
こうした経験を風化させないために、杉戸町では毎年、行政や民間企業、災害支援団体、学術経験者、医療機関などが集まり、協働型災害訓練が行われています。このような経緯があり、とねっとは設計当初から災害時を想定して開発が行われていました。
新型コロナウイルスワクチンの安全で迅速な接種を行うために、とねっとの活用が諦観されました。
加須市、幸手市、杉戸町ではとネットを活用したワクチン接種の副反応対策を講じました。写真は加須市で接種会場にてアナフィラキシーショック患者が発生したという想定で行われた救急隊とのシュミレーション訓練です。
幸手市のホームページでとねっとカードを接種会場に持参するよう市民に呼びかけています。
同じく杉戸町のホームページです。
こちらは幸手市のワクチン接種会場での掲示です。
地域の医療機関から新型コロナウイルス治療の中核病院への切れ目のない情報連携は、とねっとにとって特別なことではありません。リアルタイムで中核病院の治療状況を把握しながら、落ち着いた頃に、再度、逆紹介を受けるための準備を整えていくことで効率的な病床運営を行うことができます。
いわゆる第五波では幸手杉戸地域においても、多くの感染者が増えて、保健所や医療機関も逼迫した状況に追い込まれていきました。
現在は解消されつつありますが、当時はPCR検査や医療機関へのアクセス、保健所からの支援が届きにくい状況が続いていました。地域には医療機関への受診やPCR検査を受けられない住民や、多忙を極めていた保健所から十分な説明が得られなかったり、数日間連絡が療養のための物資や連絡来なかったりして、自宅で孤立し、不安を抱える市民が増えていました。
基本的に都道府県(保健所を含む)が主導していたコロナ療養でありましたが、幸手市と杉戸町、医師会でもこうした支援が行き届かない市民への支援が求められました。しかし、予算もない中でどれだけのことができるか、という現実的な問題がありました。その際、既に地域住民やコミュニティらときめ細かい繋がりを気づいていた地域包括ケアシステムを担う専門職らとの連携に白羽の矢が立ったのでした。
特に幸手市や杉戸町では問題の種類にかかわらずに相談できる相談窓口が稼働しており、これらを流用する形で特に保健所からの公的な支援から漏れた市民への支援を行うことになりました。実際、市の広報やSNSなどのメディアで市民へ周知が進むと、保健所からの連絡が途絶えて不安を抱え、感染症に怯える市民からの連絡が届くようになっていきました。
とねっとを使ったコロナ療養は主に濃厚接触者やPCR要請の軽症者がほとんどでした。病院や保健所で十分とは言えな説明がなされて、不安や恐怖に恐れおののいていました。とねっとを用いて、定期的にバイタルサインの情報共有やテレビ電話等のオンラインでの面接を行いました。とねっとは宿泊施設など医療機関以外でもリストを用いた効率的な管理が可能であるため、埼玉県医療整備課や保健所にも同様な運用を提案したが、残念ながら実現することはありませんでした。この点に関して、とねっとは県の事業でもありますが、県のコロナ対策計画の段階で会議の遡上に上がらなかったことは大変残念なことです。とねっとを活用すれば、保健所、宿泊療養施設、自宅療養、そして医療機関がひとつにつながることができ、効率的な運用を行うことができたと思われるからです。
感染リスクを高めないようにオンラインで担当者会議を行う様子です。地域の多職種もオンライン会議を行うための環境とスキルアップを積極的に行ってくださった。
患者の健康管理にはセキュリティの高いSNSやとねっと健康記録などのバイタルサインの情報共有などを用いるが、得られた情報をまとめて閲覧できる機能も有している。とねっとは日常的に稼働しているICTであるので、既往歴やアレルギー歴、ワクチン接種歴などの過去の情報を参照できるだけでなく、コロナ療養の状況も今後の生涯で活用することが可能です。具体的には患者自身の後遺症の問題やその後の医学の発展にも役立てることが可能でしょう。
こうしたとねっとを活用した自宅療養支援を行う際、療養に必要となるアプリや情報などを準備するのが困難であるという声が寄せらました。ダウンロードするサイトやアクセスしなければならない情報が散在していたことが原因と考えられました。そこで、普及が進むLINE公式アカウントを活用して、必要な情報やツールに一元的にアクセス可能な支援のためのポータルサイトを作成しました。この方法によりコロナ禍だけでなく、今後も日常的な支援に活用することも可能となります。
市民へ配布されているパンフレット。菜のはな公式LINEへQRコードからアクセスすることができる。現在も自宅療養中の支援セットの中に含まれています。
以上のように、とねっとを活用したコロナ療養への支援では、新たな費用をほとんどかけることなく、継続して支援できる仕組みを構築することができました。また、10年間、安定的に運用されてきたシステムは信頼性も高いといえるでしょう。コロナ渦といえども、市民が罹患する病気は多種多様です。コロナ対策にも、日常の診療にも活用できる仕組みは重要と考えられます。
以上、経験と課題のまとめです。

<あとがき>

災害時には新たな仕組みづくりも重要ですが、既に稼働しているシステムを活用することで、相当な範囲をカバーすることができると思います。

コロナ禍の予算を活用して高額なシステムを構築するのも良いですが、それまで構築して安定的に運用できる実績を持ったレガシーともいえるシステムを活用していくことも同じくらい大切だと思います。ちなみに、今回のシステム構築にかかった新たな費用はLINE公式アカウントのサブスク代、月額約5千円だけです。この費用も事業費として幸手市と杉戸町行政が措置してくださいました。

本当にありがとうございました。

市民にとって大切な情報となるでしょう。





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