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コタツに潜って気軽にシーズンオフを語る

衝撃の監督交代

「ロティーナとの契約を更新しないセレッソフロントは正気か?」というのが恐らくまともに19〜20シーズンのセレッソを観続けたサポーターの感想だろう。セレッソサポーターでなくともJリーグに詳しい人ならそう思っている人が大半のように思える。感覚的な数字になって恐縮だが、8割超は同じ意見だろう。

監督の仕事

商材や顧客の攻め方に違いはあれど、営業の仕事が「金を稼ぐこと」でしかないのと同様に、監督の仕事もひっくるめると「チームが勝点を稼ぐこと」である。チームが勝点を得ることに全責任を負い、コーチ/スタッフと協働して相手チームの分析と自チームのトレーニングを施す。時にはファンサービスや強化部との協議、出られない選手のケア等もするだろうが、どの仕事も勝点獲得に通じている。
裏を返せば、勝点を獲得できない以上は責任を取る立場でもある。勿論、監督だけの責任と言うつもりはなく、資金不足なら営業に原因があるし、育成不足/選手補強不足や監督人選ミスなら強化部も連帯責任を負う。そしてピッチの選手は常に責任があるし、社長には執行面での全責任が問われる。
この点に立って考えると、ロティーナはセレッソ歴代でもトップクラスの勝点を稼いでいた。ただ、優勝には手が届かなかったのもまた事実である。

ロティーナ流のサッカー

ロティーナのサッカーは面白い。ただ「面白さ」と言っても「分かりやすくパンチのある面白さ」ではなく、「噛めば噛むほど旨味がするスルメのような面白さ」である。
クラシックに例えるなら、誰もがパッと聴いて美しく感じるモーツァルトの室内楽ではなく、弾き込んで楽譜を見まくってやっと美しさがわかるブラームスの交響曲だろう。
そんなロティーナの構築したセレッソでは、非保持時にゾーンディフェンスを徹底し、立つべき位置に立つことで飛んでくるボールをシャットアウトし、保持時は無理して一気呵成に前進せず、ロジカルに数的優位/質的優位/位置的優位を作って相手のラインを超えてゴール前に迫る。そしてポジトラ(非保持→保持の切り替わり)では適正な配置を取るように各自が配置に付き直し、ネガトラ(保持→非保持の切り替わり)ではまず各々が埋めるべき位置を近場から埋めて行く。
ロティーナが来た当初は保持/非保持/ポジトラ/ネガトラにおける手札が浸透しておらず、ピッチの現象を見ていてもわかりにくかったが、何度も何度も現地で観ることで流麗にパターン化されたロティーナ流のセレッソが朧気ながら見えてくるようになって行った。そんな現地組サポーターは恐らく僕だけではないはずだ。
ここまでオーガナイズされた戦術を持つ監督に出会ったことはなく、お気持ちサッカーが根付いた極東の国のエレベータークラブのファンにとって、戦術/オーガナイズの重要性を嫌と言うほど知らされた2年間であった。

(小休憩)シャープレシオ

ここでちょっと休憩。このワードとセレッソのスポンサー某社は無関係です。
投資の世界には「シャープレシオ」という指標がある。これを簡略化した数式で示すと「シャープレシオ=リターン÷リスク」と表せる。
例えば世の中には原油のように業績が大きく動く業界があり、一般的には変動が大きい株のリスクとリターンは大きい、と言われている。一方、日本国債のようにリターンも少なければリスクもほとんどない投資先もある。
さてあなたは何に投資しますか?
「儲かった時の金額だけ比べれば前者の方が良いな。でも損失が出た時を考えると後者の方が良いかも。イヤ、そもそも本当は日本の財政は破綻してる、とも聞くぞ?ゴチャゴチャと色々考えるのも面倒なので、とりあえず安全な定期預金にしておこう」
と言うのがお金があるのに投資しない人の考え方だろう。
さて、ここでシャープレシオを思い出して欲しい。投資を考えるにあたって大事な事は「リスクに見合ったリターンを得られるかどうか」、つまり「同じリターンならリスクが少ないかどうか」である。どっちが良い投資かについて考える場合、リスクとリターンは切り離せないのである。これらを要約すれば、シャープレシオが高い方が一般的に良い。(ただしシャープレシオが高いからと言って確実に儲かるわけではないです)

(注:本稿は投資を勧めるものではなく、投資は自己責任の下、余剰資金で行ってください。私自身は投資信託を購入しており、月々少額の投資をした方が良いと考えていますが、それは各々の考え方次第です。また一部説明を簡素化して正確ではない点もありますが、本論の要旨と乖離しますのでご容赦ください)

一般小市民の個人的見解

話をサッカーに戻そう。
僕はロティーナセレッソが優勝するためには幾ばくかの運が必要だと思っていた。ただ運が傾けば2020年は優勝できる、と信じていたし、盲目的なセレッソサポーターの素性が全面に出た時は「よし!これはもう優勝や!」なんて嬉々としたツイートもしていた。
そして優勝に必要な「運」とは相手が決定機を外す、相手に当たったボールの軌道が変わってゴールになる、上位対決時に相手のキーマンが累積を食らっている…などであるが、シーズン途中には審判のジャッジも必要なのか、と痛感した。

そもそもロティーナのサッカーでは、ボールの通り道に人が立つことで確実に失点を減らすことが約束されている。また、無駄なファールを犯さないのでFKやPKをほとんど与えない。よってセットプレーの主な失点は止めようのないPK/FK/CKくらいとなる。たまに解説が「セレッソは全失点に占めるセットプレーからの失点が多いですからね。ここは要注意ですよ」みたいなことを話していたが、どのチームも流れの中での失点の方がセットプレーからの失点よりも多い。そしてロティーナは流れの中の失点を極小化しているのだから、セットプレーからの失点の占める割合が高まってしまうことは至極当然である。(ちなみに90分間攻め続けてた川崎を除き、失点数が少ない名古屋、ガンバ、広島のセットプレー失点率も概ねセレッソと同じく3割前後。セレッソのセットプレー失点比率は決して高くない)

ただし、FWも含めてチームとして後退することも原則なので、前に出る推進力は本来のポテンシャルから削がれてしまうことは否めない。
とは言えイヴァンを中心に攻撃時のデザインにおいて、相手の守備形態を分析し、敵陣1/3にどう侵入し、どうやって効率よく点を取れるかが設計されている。このサッカーを一言で語って良いものではないことを承知した上で一言で述べると、ロティーナのサッカーはリスクを極小化しつつリターンを極大化させた、「シャープレシオが高いサッカー」なのである。(個人的にシャープレシオが低いチームは得失点の多い横浜FM。でも全てが噛み合った2019シーズンは圧倒的な強さを誇って優勝したし、リスクとリターンは優勝の必要条件ではない)
リーグ戦で上位に立つには勝たなければならないし、負けを引き分けにしないといけない。そのためには相手より多く点を取り、相手より失点しないことが求められる。
その点に立つと「(攻守を分断した上で)攻撃力不足を課題」と捉えたセレッソ首脳陣の見立てはナンセンスだと言わざるを得ない。むしろ監督が原因ではなく、強化部がより攻撃面でも活躍できる選手を獲る必要があった。

色々と話が飛んだり、纏まり切っていないが、総括するとロティーナにはもう1年率いて欲しかった。3年経てばチームが成熟し、これ以上の成長が難しくなった可能性はあるだろう。判断を下すのはそのタイミングだったはず。
たしかにシャープレシオが高いサッカーであっても優勝できると確約できないが、少ない得点で効率よく勝点を稼ぎ、来季も上位に留まれる戦いはできたに違いない。それはコロナの影響で4チーム降格ならば、尚更そうすべきであった。その機会を奪われたことが残念でならない。

また、監督晩年は成績不振で解任が相次ぎ、一時は監督業から引退していたクルピがこれほどまでに緻密なサッカーを作るのは恐らく不可能だろう。ブラジルがサッカー大国であることは間違いないが、それは文化に根付いた形で選手がどんどん出てくるからである。
サッカーの戦術面/分析は経済/教育水準の高いヨーロッパの方が遥かに進んでおり、最先端はそちらにある。現にイヴァンはプロの選手を経ず、大学経由でプロチームのHCを務めているし、他の欧州強豪チームにも同様のコーチが在籍している。
個人的にはその背景は「経済が発展するとただの余暇が学問化されるから」だと見ている。音楽学然り、美術学然り、サッカーもただの余暇から学問に差し掛かりつつある段階だろう。もしかしたらあと50年すると「サッカー学の権威」と言われる、白髭を蓄えた教授が一流大学の教壇に立っているかもしれない。
とは言え、監督が全ての戦術面を作るのではなく、モチベーターの側面が強い監督もいる。そしてその戦術面をコーチがサポートすることはチームが強くなるための選択肢になるだろう。(モウリーニョ、クロップ、ジダンはモチベーターの色が強い監督。もちろん戦術面も相当に優れた監督であり、チームの資金力も違うのでセレッソと比較するのもおかしいけれど)

プロは結果が全てなので、今の段階ではクルピの事をジャッジできないが、「来季は厳しくなってもおかしくない」と身構えておくのはショックをやわらげるために必要な心構えだと思っている。私は「降格しなければ上出来。降格してもおかしくない」と思っているので、期待から奈落に落とされた2014年のような精神的ショックは起こらない。ただJ2に落ちれば経営は蝕まれ、再びJ1に返り咲くのは至難の技。その間にもDAZNマネーで上位陣との差も開く。大宮、新潟、磐田などが苦しんでいる様を見ると、そこに行ったら沼だとしか思えない。そうならないことを祈る。

しかし、瀬古をトップレベルのCBに育て上げ、セレッソが優勝を目指せる監督/コーチ陣を切った上で「マネーゲームはせずに攻撃サッカーと育成型チームへ再度舵を切り、平均年齢も引き下げる」と言いながら、「木本や柿谷をフリーで放出」、「移籍金をかけてJ2や下位チームから選手を獲得」、「育成してきた選手を完全移籍で放出」、「大久保や松井を獲得」と方針に一貫性がないセレッソ。サポーターはプロでもないし、内部の理屈が様々に働いているのだろうが、これで降格して清水が上位進出したら、「外部の人間やサポーターよりも内部のプロフェッショナルがバカだったの?」と言われるだろう。

(公開されたチーム情報や調べられる範囲の記事等から個人的見解を書きましたが、誤りなどあればご指摘ください。謹んで訂正致します)

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