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想いでに浸り過ごす時間をあなたはどう思いますか?甘酸っぱいような思いで、後悔の波が何度も押し寄せる想いで、いろんな思い出があります。その中でも、どしても忘れることのできない思い出があるはずです。あなたのそれはどんなものですか?8/5 「ねずみ色の雨」

雨降る夜、俺は何時もの様に日が変わるか変わらないかの瀬戸際に家路に就いた。
ドアを開けて部屋の中へ入ると、何時もの黄色い匂いが鼻腔を襲い、呼吸困難に陥りそうになる。
俺は何時もの様に台所の換気扇を回し、黄色い匂いから逃げるようにして着ている服を脱ぎ棄て風呂場へ入る。そして勢いよく飛び出す熱いシャワーで一日かけて背負い込んだストレス、それを煽る体臭を流し終え、湯けむりが立ち込める風呂場を後にする。
すると、せっかく綺麗に全てを流し終えた体に、黄色い匂いがまとわり付いて来る。
「ふぅ~……」
幾分かさっきよりは換気扇が回っている分、マシになった気がするが、それでも鼻に付く匂いが気になり、久しぶりに匂いのもとになる生ゴミだけをゴミ袋へ放り込み、マンションの下に有るゴミステーションへ捨てに行った。
部屋に帰ると即座に冷蔵庫の扉を開けて冷えたビールを取り出し、プルタブを引き一気に喉へ流し込み喉の渇きを潤した。
すると俺は、何時もと違う部屋の雰囲気に気が付き耳を澄ます。それは隣の家から微かに聞こえる、何時もとは違う甘いノイズ……
「ふぅ~、やれやれ……」
俺は大きなため息を吐いた後、冷蔵庫から冷えたビールをもう一本取り出し、力強くプルタブを引き、一口、冷えたビールを口に含むと俺の頭の中に何故か昔の若き日の生活が蘇って来た。
「今夜は綺麗だね……、何時もよりずっと魅力的だよ――」
「そう思う――、多分この香りのせいでしょう。ほら――、良い香りでしょう……」
「堪らないよ、この香り……」
俺は妻に覆い被さりながら、手に余るほどの乳房を鷲掴みにすると、おもいっきり優しく啜りながら乳首を舐めころがした。
妻は静かに押し迫って来ていようビリビリを必死に堪え、それを押し殺す。
しかし、意志とは別の何かが暴れ出し、白くて細い両腕が、俺の首に纏わり付いて来る。
そして今度は妻の体が俺の体に覆い被さり優しくキスをしながら舐めまわす。ゆっくりと股間の方へとざらついた舌を滑らせてゆき、俺の硬くなった部分を舐めながらしゃぶる、そしてゆっくりと味わい、楽しむと、俺の体に跨り熟れきった果実の様な尻を俺の下半身に押しつけながら薄笑いを俺に向けた。
やがて妻のいやらしく動く、まるで別の生き物の様な尻は、激しくうねり始め、静かに暁美に漂う様な吐息を吐かせる。それがやがてゆっくりと喘ぎ声へと変わってゆき、二人は二頭の獣へと変化し互いを激しく求めあう。
やがて一度目の扉を開ける。二人はそのまま先へとすすんで行く。
その後、何度となく扉を開けながら二人の想いを確認し合う、やがて二人は力尽きて……
何時の間にか万年床で眠ってしまった俺は、目覚めたが意識はまだはっきりとはしない。
そして昨夜の夢を想い浮かべながら、あの頃は妻とも上手く行っていたなぁっと、思いながら、枯れ果てた心の中に懐かしさを感じるのであった。
「オハヨウゴザイマス」
「おはようございます」
俺の心の中には昨夜の事など微塵も残って無かった。
今日は今日で何時もの俺であった。隣の婦人も何時もと変わりない様子である。
俺は思わず顔半分を歪ませながら鼻で笑った。

続く



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