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米国を超えた日本の第一次所得収支

日本の国際収支動向の中でも第一次所得収支に注目が集まっている。第一次所得収支は直接投資や証券投資といった対外投資に係る配当金・利子の受け払いである。外貨の稼ぎ頭だった貿易収支が赤字に転落したのを尻目に、第一次所得収支の存在感がかつてないほど高まっている。第一次所得収支は為替相場の先行きを占う文脈で言及されたりするが、今回は別の観点から深掘りする。

日本が世界一に

第一次所得収支について日本の動向を客観的に見るには国際比較するのが手っ取り早い。ドイツ、フランス、米国と比べてみよう。いずれも第一次所得収支で黒字を計上している国々である。実は第一次所得収支は日本が米国を追い抜き、2022年は世界一である。米国はドイツにも追い抜かれ3位に転落した。

単位:百万ドル
データ出所:Balance of Payments and International Investment Position Statistics

こうした伸びを牽引したのはなにか。2012年と2022年について収益の構成項目が分かる図を作成した。

日本は金額の伸びが顕著である。その中身を見ると、稼ぎ頭が証券投資収益から直接投資収益へ交代している。東日本大震災後に日本企業による直接投資が増えたことが背景にある。

単位:百万ドル
データ出所:Balance of Payments and International Investment Position Statistics

米国については直接投資収益の金額に大きな変化は見当たらない。米国は世界最大の純債務国であることから配当金・利息の支払いが受取りを超過し赤字である。2022年からの政策金利の上昇にともなって支払いが増えたため米国は第一次所得収支が3位に転落した。

貿易で稼げなくなった日本にとって対外投資の収益性が関心事となる。お金儲けが苦手な印象がある日本であるが、実は日本は対外投資の収益性は4カ国の中でもっとも高い。各収益額を投資残高で割って各国の収益率を算出してみた。

2022年の収益率は、直接投資について日本が10.2%、続く米国は6.9%である。証券投資では日本の収益率は3.5%、こちらも米国が続いて3.3%である。金額、収益率から見て日本における第一次所得収支は外貨の稼ぎ頭として盤石の印象を与える。

手放しでは喜べない

しかし、こうした状況を手放しで喜ぶわけにはいかない。企業は海外進出によって国際競争を生き延びることができた。しかし、生産拠点がなくなったことにより国内雇用が失われた。技術力を維持できなくなるというデメリットもある。国内に立地していれば、利益は賃金として幅広く還元されたはずだ。納入業者への注文も失われた。

直接投資では利益の分配はどうなるだろう。全てが日本に還流するわけではない。2022年について確かめると、収益の半分は再投資される。還流した利益は従業員へは賃金、株主には配当金として分配される。証券投資の利益還元を実感できるのは海外資産へ投資した一部の人たちである。

直接投資に関係する企業に勤務していない人たち、海外資産を保有していない人たちは世界一の第一次所得収支から排除されていることになる。

マスメディアで報じられることはないが、経済的に国民が分断された状況にあると言える。これは国際収支の構図が変化したことで出現した新たな形の国民分断である。この問題に対しては低所得者層に対する給付金のばらまきではなく、賢い再分配政策が求められる。

参考文献


内閣府(2019)「長期的にみた日本の貿易・投資構造や経常収支の変化」、令和元年度経済財政白書、第3章

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