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通貨価値と経済力③ 成長戦略

一国の経済力を維持・向上させることは、その国の通貨建て資産へ投資する者に安心感を与えるだけでなく、投資によって得られるリターンに対する満足感さえ与えることにつながる。今回は米国、中国、EUにおける成長戦略を取り上げる。

それぞれの成長戦略

① 米国
米国の成長戦略についてメディアから耳にすることはまず無い。実は、バイデン大統領は就任後まもなくであった2021年春に予算総額2.3兆ドルの「米国雇用計画」を発表した。実際にはその後の議会との協議によって1.2兆ドルへほぼ半減してしまったが。

中身は老朽化した道路・橋の補修、生活インフラ(電力、水道、高速通信網)の整備、半導体、人工知能といった製造業に関連した支援である。これらの支出によって雇用創出や中国との競争に打ち勝つことがバイデンの念頭にあった。成長一本槍というのではなく、経済格差の是正や経済安全保障という課題への対策と受け取れる内容である。

② 中国
中国が2015年に発表した「中国製造2025」はいわゆる成長戦略らしい中身である。ロボットや新エネルギー自動車といった10の重点分野を定めて製造業の高度化を目指す。2049年の建国100年に製造強国の先頭に立つため、2025年に第一段階の目標として製造強国の仲間入りを果たすと言う。

具体的な数値目標を掲げており、国産比率を産業用ロボットで70%、移動通信システムでは80%と設定した。こうした中国の野心は技術覇権を競う米国を刺激し、米中経済摩擦を激化させてしまった。しかも、製造業の高度化を目指したものの2010年代後半は中国の全要素生産性がマイナスに落ち込んだという分析もある。

③ EU
EUの成長戦略は米国、中国と方向性が異なる。フォンデアライエン委員長は就任後すぐの2019年12月に「欧州グリーンディール」を華々しく発表した。環境と経済を両立させる野心的な成長戦略である。

2050年にカーボンニュートラルを達成する目標を掲げ、経済のグリーン化とデジタル化を推進する。2020年1月に公表したグリーンディール投資計画は予算規模が5,470億ユーロでありグリーン化とデジタル化に対する投資の呼び水となる。

この戦略に対して私は懐疑的である。グリーン化では動機付けが弱い。投資通貨としての魅力の根源には企業価値評価があり、それを高めるにはグリーン化投資では心許ないと考える。

競争力の現在

いずれの成長戦略でもデジタル分野が枢要となる。そこで客観的な指標によって現状の競争力を確かめたい。

指標としてはスイスの国際経営開発研究所(IMD)が作成するIMD世界デジタル競争力ランキングが有名である。この指標は54の客観的指標、調査結果を正規化してその合計得点を算出して順位を決める。

指標の中身は3つのカテゴリーがある。知識(新技術を構築するために必要な知識)、技術(デジタル技術の発展を可能とする全般的な状況)、将来への準備(デジタル・トランスフォーメーションを活用するための準備)の3つである。

2023年の順位を見ると、米国は総合1位である。中国は猛烈に追い上げている印象があるものの、知識21位、技術22位で総合順位は19位である。2021年の15位が最高であり、その後は順位を下げているのが実態だ。

EU全体としての順位はないので個別国の順位を見ると、オランダ2位、デンマーク4位、 スウェーデン7位、フィンランド8位と北部諸国が上位に入る。一方、スペイン31位、ポルトガル36位、イタリア43位と、ここでも北部と南部とで格差がある。

デジタル分野における競争力の差は投資通貨としての魅力に反映される。テック企業が株価上昇を牽引していることもあり世界の株式時価総額に占める米国の比率は2024年2月に48%にまで上昇した。

一方、中国は2015年には2割近かった比率が現在では1割にまで減っている。人民元の国際化は決済通貨においては様々な動きがあるものの、資産通貨としての信認はかつての輝きを失ってしまった。

参考文献

日本経済新聞、「中国製造2025とは 重点10分野と23品目に力」、2018年12月7日
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO38656320X01C18A2EA2000/
日本経済新聞、「米時価総額、世界5割へ 中国停滞で20年ぶりマネー集中」、2024年2月6日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB025XV0S4A200C2000000/ 
International Institute for Management Development (2023) World Digital Competitiveness Ranking 
https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness-ranking/ 

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