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卓上遊技再演演技 楊範・鄭令蔓伝

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本作は2000年8月から2004年12月にかけて発行された、卓上遊技再演演義シリーズ「楊範・鄭令蔓伝」(巻1~10)、サークル25周年記念として加筆修正・挿絵等のイラストを大幅に… もっと読む
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卓上遊技再現演義『楊範・鄭令蔓伝』あとがき

ジーぽん(文章担当・GM) さきもりのおさ文章担当のジーぽんです。「楊範・鄭令蔓伝」完結しました。  それなりに長い完結したストーリーをちゃんと仕上げたので、ここであとがきのようなものを書いてもバチは当たらないでしょう。 1 キャンペーンの立ち上げについて  さて、楊範・鄭令蔓伝もシリーズ名に卓上遊戯再現演義シリーズとある通り、TRPGリプレイが元になっています。当時、ヤン編と呼ばれていたこのシリーズは、筆者が関東に出てきた後の、最後にプレーしたキャンペーンでした。  

卓上遊技再現演義『楊範・鄭令蔓伝』とは③

前回に引き続いて、2001年8月に発行した「楊範伝映像的中原導覧」の記事を元に、「楊範・鄭令蔓伝」の小説中では詳しく語ることができなかった設定や、TRPGとしてプレーされた時の様子などを紹介したいと思います。 4:現王朝の関係者「楊範・鄭令蔓伝」の舞台となる中原の現政権、劉衛の王朝とその関係者について紹介する。 皇帝劉衛 中原南部を支配する政権の皇帝。ただの貴族ではなく、彼自身が中原の大神の一柱である太陽神祝融を背負う英雄でもある。陽気で開放的な性格だが、狡猾さも持ち合

卓上遊技再現演義『楊範・鄭令蔓伝』とは②

前回に引き続いて、2001年8月に発行した「楊範伝映像的中原導覧」の記事を元に、「楊範・鄭令蔓伝」の小説中では詳しく語ることができなかった設定や、TRPGとしてプレーされた時の様子などを紹介したいと思います。 3:『帝国』ヤン達の前に立ちふさがる強大な敵「帝国」…本編内でも中原に強大な影響を及ぼすだけでなく、テレマコスたちの故郷を既に滅ぼしたという事実が語られている。ここでこの「帝国」について説明する。 『帝国』と中原の位置関係  ヤン達の住む中原から遙か西方、およそ一

卓上遊技再現演義『楊範・鄭令蔓伝』とは①

「楊範・鄭令蔓伝」全4巻が完結したところで、ここでは2001年8月に発行した「楊範伝映像的中原導覧」の記事を元に、今まで小説中では詳しく語ることができなかった設定や、TRPGとしてプレーされた時の様子などを紹介したいと思います。 1:中原の現状 「楊範・鄭令蔓伝」の舞台となる中原世界。ここではその簡単な解説を掲載する。本書を読むときの参考としてほしい。 <中原の地理>  中原地方はカナン世界の中でも東部に位置する広大な地域である。東西に数千キロにわたる中原地方には北側に

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 十四「楊範将軍の居場所は判りまして?」

十四「楊範将軍の居場所は判りまして?」  炎帝祝融氏が都をおいた南都開陵府は元々高陵とよばれる地方都市だった。幸い大河に近く水陸の便がよいこと、周囲に穀倉地帯が広がっていることもあって中央政府の都となったのである。元々は西方の地方政権に過ぎない祝融氏が中央政権としてまがりなりにも成り立っているのは、この開陵府を都としたためにほかならない。  この街が中央政権の都となってから人口は急増し、今や人口は数十万人である。世界でもこれだけの人口を持つ都会は少ない。おそらく伽難国…「帝

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 十三「うむ。勝負を決めるか!」

十三「うむ。勝負を決めるか!」  夕方までに「山頂に向かって登っていったにもかかわらず、降りてこない」連中の人数は二十人以上だった。途中で神隠しにでも会わない限り、つまりは麻薬の一味はその人数というわけである。しかし実際には荷物を持っているのだから即座に戦闘に加われる人数は多くはないだろう。  どう考えてもヤンやユウジンほどの凄腕の戦士はそうそういるものではない。ヤンは弱冠十六歳で天覧試合に優勝して爵位をもらったほどの実力だし、ユウジンはそのヤンが認めるほどの剣士である。よ

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 十二「奴等を挟み打ちにしよう」

十二「奴等を挟み打ちにしよう」  関子邑が直接乗り出してくれたことで、ヤン達の情報収集は随分楽になった。リンクスはその後も毎日のように王氏の屋敷に忍びこんで、密売品が次にいつ運びこまれるのか、そしてそのルートがどうなるのかを探りつづけていたし、子邑は部下や食客を通じて密売人の動きはおろか、中央政府の高官…つまり王氏とつるんでいると言う噂の車騎将軍陳当の動きまで調査しはじめたからである。これで情報が入ってこないほうがおかしい。やはり個人の力よりも一族の力は大きいのである。そう

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 十一「見過ごせと言うのは無理です」

十一「見過ごせと言うのは無理です」 「間違いなさそうです。王氏の一味が帝国とつるんでいるようです。」 「おお、ユウジン殿のおっしゃる通りか。」  リンクスは二、三日の間子載の屋敷を探った末、そうはっきり断定した。ユウジンやヤンが驚くことに、どうもこの少年剣士は子載邸に何度か忍びこんだらしい。証拠としてちゃんと「白い麻薬」を少々盗み出してきたのだから大変なものである。こいつにかかってはもう警戒網もなにもあったものではないらしい。 「驚くばかりだな、リンクス君は…」 「いや

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 十「あまりいい噂を聞きませんなぁ」

十「あまりいい噂を聞きませんなぁ」 「ううむ…失策でした。やられた見張りの方にはなんと申し上げたらいいやら…」  話を聞いたテレマコスは参ったというように渋い表情でヤンと子良に軽く頭を下げた。あの禹王廟に見張りを立てると言うことがいかに危険なことかというのは、考えてみればあたりまえのことである。必ず麻薬密売組織が荷物の回収に現れるのであるから、子良の部下に任せたのが失敗だった。テレマコスの知る限り、(少なくとも小人数で張りこむとしたら)リンクスぐらいしかこういう危険な仕事

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 九「子良さんの見張りがやられました!」

九「子良さんの見張りがやられました!」  一行が会稽に戻ったのは深夜もかなり遅くなっての事だった。当然ながら街の入り口は閉門になっていたので、兵士に頼んで(多少謝礼も握らせて)通用門から通してもらったのである。  帰りの道々問題となったのは、まずはあの麻薬をどうするかという点だった。もちろんヤンの本音としてはあんな危ないものは焼き捨ててしまいたいのだが、そうしたところで麻薬の取り引きが無くなるわけではない。むしろあれはそのままにしておいて、覆面の男達が荷物を「出庫」しにきた

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 八「悪の魔法使いとその連れというところです」

八「悪の魔法使いとその連れというところです」  一行はかなり急いで山道をおりていった。登りとは違って下りはいやが上にも歩みが早くなる。ゆっくり降りることのほうが難しいほどである。  ところが意外なことに行けども行けども黒覆面の男達の姿はみえてこなかった。まさかいくら降りが楽だといっても荷物を背負ってそんなに早く下山できるはずはない。テレマコスはともかく後の三人はそんじょそこらの戦士など及びもつかないほどの屈強な男達である。どう考えてもおかしい。  そうこうしているうちに彼ら

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 七「あの怪獣が竜ですか?」

七「あの怪獣が竜ですか?」  「帝国」…その名前はテレマコスやリンクスにとっては既にあまりに聞き慣れたものになっていた。カナン世界に君臨する最大の国家…そしてテレマコス達の故郷サクロニア世界を踏みにじり、戦火へと叩きこんだ最強の敵である。いや、テレマコスだけではない。この中原地方においても「帝国」のエージェントが活動し、植民地化を計っているのである。帝国の侵略に対抗しようとした中央政府、共工氏の王朝はクーデターで倒され、その後の混乱の末、帝国軍の支援を受けた現王家である祝融

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 六「あれがこんなところに現れるとは!」

六「あれがこんなところに現れるとは!」 「どういうことだ?禹王の墓にだれか出入りしたのか?」  ユウジンは少し驚きを顔に出した。既に何度か紹介しているように禹王は聖天子である。墓を暴くどころか立ち入ることだってとんでもない不謹慎な話だった。少なくともユウジンのような根っからの中原の人々にとってはそうである。  もっともヤンはそこまで「墳墓は神聖なもの」という意識をもってはいなかった。いや、「神聖なもの」というのは重々承知なのだが、墓荒らしがいるということだって判っている

楊範・鄭令蔓伝 壮途編 五「禹王の塚がどうしたのか?」

五「禹王の塚がどうしたのか?」  馬の上でテレマコスはもうひどい状態であった。揺れる。とにかく馬の背中に揺られるというのが頭に非常に響く。テレマコスは馬という振動の激しい乗り物に乗るということなどそもそも慣れていない。いや、これも酒のせいである。  会稽山参りは普通の場合徒歩で朝早く出て昼前に山登り、夕方には帰ってくるというコースなのである。ところが昨日のらんちき騒ぎのせいで、すっかり寝坊してしまったのが敗因だった。往復を馬でしなければならなくなってしまったのである。