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「ケモショタ-メタ認知精神療養」のメモを発掘しました

 そのメモは「黒猫くんの飼い方」と題されたイラストから始まる。休職したばかりの頃のメモだ。

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 猫耳、ショタ、黒髪、片目、へそ出し、気弱そう——あからさまに私の性癖が詰め込まれたイラストだ。有り体に言えば、これは私自身を美化させたキャラクターである。ページをめくると、黒猫くんがどんな子なのか説明が書かれている。

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・黒猫くんは内向的で、マイペースな性格です。
・読書や映画鑑賞など、独りでできる趣味を好みます。
・自分のことになると、物事を悪い方向に考え、劣等感を抱きがちです。
 アドバイスを受けると「そうなれていない僕はダメなんだ」「もっと頑張らないと」と強く責任を感じてしまいます。
 ↑これが原因で精神的にまいってしまいました。

 まるで中二病をこじらせた中学生が、自分を主人公にした漫画をノートに書いてるかのような行為だ……が、心労で倒れて心を病んでいた当時の私にとって、これは意外と効果があった。

 このイラストを描くきっかけになったのは「今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気」という本だった。

 本書の第1章は『「自分のトリセツ」を作ってみよう』と題されている。本書の著者によるセッションでは、まず、引きこもりの人が「メタ認知できる」ようになることから始めるのだという。曰く——

 自己客観化を行うことでかなり自分自身の特性が見えてきます
 まず、短期的には嫌なことがあっても、すぐにはキレにくくなります。現実の自分自身をひとつのサンプルとして観察する認知方法だからです。
 そうすると、自分が何につまずき、何に怒りを覚え、何に共感できるかなど、行動や感情をコントロールできるようになるのです。自分を自分で「操縦する」イメージです
「今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気」p.29-30 吉濱ツトム

 (ここからは私なりの解釈であり、吉濱氏の意図するものとは異なることかもしれないが)私は"自分を自分で「操縦する」イメージ"という点に注目した。
 私自身にまつわることだから、ことあるごとに「私はダメな人間だ」と思い込み、思考が停滞してしまう。しかし、"私"を第三者化して"彼"と客観的に捉えたらどうなるか。自分を他者として捉えたらどうなるか。「彼は繊細な人間だ」「彼は何気ない一言で傷つく」と客観的な視点で観察し、「どうすればいいのかな。『気にしなくていいんだよ』と言ったら、気にしすぎな自分を責めるだろうな。かといって放っておいたら余計にひとりで思い詰めそう……」と論理的に解決策を考えることができる。

 note記事を書いている方なら、自分の書いた文章を読み返しているときに「この文章を読んでいる読者」というもう一人の自分が脳内にいる感覚がないだろうか? 「ここ読みにくいわあ(→もっと簡潔な表現にしよう)」「なんか飽きちゃうなあ(→もっと興味が湧くような惹句を付け足そう)」と推敲する感覚だ。
 あるいは、「就活は自己分析」という言葉を思い浮かべる方もいるかもしれない。自分を客観的に観察し、自分の強みを分析する行為だ。

 それに類した発想から生み出されたのが冒頭の「黒猫くんの飼い方」——ケモショタ-メタ認知精神療養だった。私は"私"ではなく、黒猫くんを飼っているだけなのだ。さらにページをめくると、こんなことが書かれている。

◎最近の食生活
・夢中になっているとご飯を抜き、思い詰めていると食欲が出なくなります。
 →「ストレスがかかる環境(仕事場)だから、時間がないから食べられない」と思っていたけど、家の中でも食べられないみたい。
・食べる量が少なく、栄養も偏っているので、常に身体がだるいです。それが原因でまた思い詰めてしまう悪循環になっています。
・1度に少しずつ、時間をかけてなら食べられるようです。

 当時の私は食生活も就寝時間もめちゃくちゃだった。それが原因でまた精神が摩耗する悪循環に陥っていた。それを"私"ではなく「黒猫くんの現状」として捉えた。この子を元気にすればどうすればいいのだろう、と考えた。これなら自己嫌悪に陥らずに済む。感覚としては、そもそも"私"のことではないのだから。

○食生活の改善案
・一日三食を維持しましょう。
・6~8時頃に起こしましょう(夜ふかしに注意!!)
・読書やゲームの合間に食べさせてあげましょう。
 →夢中になっていると、水分補給も忘れてしまいます。常に手元に水筒を置き、合間に飲めるようにしましょう。
・「身体的症状が改善すれば読書にも集中できるよ!」と黒猫くんにとってプラスになることを強調しましょう。
・栄養が偏らないようにしましょう。タンパク質の摂取を怠らないように!

 記憶が定かではないのだが、「手元に水筒を置き、合間に飲めるようにしましょう」というのは実際に行っていた。今では昼夜逆転もしておらず、一日三食を維持できている。

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 最後のページには「遠くから愛でましょう」という言葉を添えて、黒猫くんを見つめるお姉さんのイラストが添えられている。私(黒猫くん)を客観視する"私"はポニテのお姉さん。"私"を題材にしておねショタを創作していたことになる。私自身がおねショタになることだ

 これが効果を発揮したかというと……まあ復職しても長くは続かず退職してしまい、「黒猫くんの飼い方」というメモの存在すら失念していたのだが……基本的な考え方は今でも受け継がれていると思う。

 先月、とある求人に応募した。しばらくすると「週5で7時間勤務……片道40分……そんなの無理だ……ああ私はダメな人間だ……」と、久しぶりに食事が喉を通らないほどに落ち込んだ。
 しかし、人と会話して、自分がどこに不安を抱いているのかを客観的に捉えることで症状は改善された。「時間的拘束がしんどいなら、それを上回るインセンティブを見つけるか、別の条件の職場を探しましょう」という結論に達した。採用担当の方には時間を取らせてしまって申し訳なかったが、結局は辞退することにした。現在は自分でもできそうな条件・職種を探して求職している。
 普通の社会人は週5で8時間働いているのにな……でもまあ今の私には無理だし、まずは慣れることから始めるかあ、と思うことで心の平静を保った。昔の私だと自分を責めるだけで思考が止まり、さらに体調を崩していたかもしれない。そうした意味では、「黒猫くんの飼い方」を無意識のうちに踏襲することで、実際に効果を上げていると言えるかもしれない。

 自分のことが嫌いなら、自分を"他者"として捉えるか、前回の日記のように自分を好きになるための工夫するか。そんなちょっとした行為が、自己肯定感を上げるためのヒントになるのかもしれない。そんなことを思った。