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田舎のショタと殴り合うRPG――DLC後編『藍の円盤』感想【ポケモンSV】

 深呼吸をすると、潮風の香りが鼻を抜けた。不思議と心が落ち着く。

 ……ああ、そうか。緊張ばかりで海の風情に全然浸れていなかったんだ。自嘲気味に笑みを作る。きっと口の中がやたらと乾いているのは、塩気を含んだ風を吸い込んでいるから。身体が火照るのは、強い日差しに肌を焼かれているから。そう自分に言い聞かせながら、じっとりとした汗を拭って歩を進める。

 そうして見た目以上に長く感じられる連絡橋を渡り歩いていると、目的地であるその校舎にようやく辿り着いた――

 ブルーベリー学園。あたしは林間学校でお世話になったゼイユの推薦を受けて、オレンジアカデミーの姉妹校であるこの学園の交換留学生に選ばれた。聞くところによれば、この学園はポケモンバトルの教育に力を入れており、イッシュ地方特有の文化も相まってダブルバトルが隆盛しているらしい。何よりも驚きなのは施設の大部分が海中にあることだ。恐らく目の前に見えている建物は施設全体のごく一部分に過ぎず、この海面の下に広がる巨大な建造物の中で、生徒たちが勉学や部活に励んでいるのだろう。

 長い歴史を持つオレンジアカデミーとは、地理も校風も環境も全く異なり、独自の特色を発揮している。まさに新進気鋭の学園だ。シアノ校長から留学の話を聞かされた時は期待に胸を膨らませて、その場で二つ返事で快諾したけれど……いざこうして校舎を目の前にすると、やはり気圧されてしまう。

 あたしはうまくやっていけるだろうか。林間学校とは違って今回は独りぼっちだ。未知の環境に高まる興奮、でもそれと同じくらい、どうしても拭い切れない不安が――

研究者気質で何かと苦労人

ん?

ふわふわとした雰囲気
グイグイ迫ってくる

待って。

優しくて面倒見がいい

待って待って待って。
こんな状態でそんなに優しくされたら……

意外と高身長
耳元で囁かれる

スグリ❗❗ ゼイユ❗❗
た、助けて❗❗
あたしこの子好きになっちゃう❗❗


<前編の感想記事はこちら>


テラリウムドーム、再会

 『ポケットモンスタースカーレット』DLC『ゼロの秘宝』後編にあたるあおの円盤』をプレイしました。真っ先に言いたいのはマップの良さ。いやもう見てくださいよこの絶景。海中庭園・テラリウムドーム。海の中にこんな大自然が広がっているなんてロマンの塊じゃないすか。

 広大なパルデア本土、神秘的な雰囲気が漂うエリアゼロ、田舎の風景が楽しめるキタカミ地方に続き、今度の舞台はさながら水族館やサファリパークを思わせる人工的な箱庭。どのマップもそれぞれ特色が現れている。やはり今作はマップ探索が楽しくてしょうがない。

「ん? 何だあれ?」と思って近づいたら、ナックラーが作ったありじごくだったのでニコニコなっちゃった

 そして、そんな大自然の中で暮らしているさまざまなポケモンたち。特に今回のマップで嬉しかったのは、リージョンフォームも含めて、さまざまな地方のポケモンたちが共生していることだ。

 たとえば北東にある南国風のコーストエリアでは、アローラ地方のベトベターやナッシー、ガラル地方のヤドンといったリージョンフォームのポケモンたちが同じエリアに生息している。他エリアでは、現代では生息していない化石ポケモン(ズガイドス)までいる。作中設定としては人口庭園だからこそ古今東西のポケモンたちを連れて来ることができ、メタ的にはDLCという追加要素だからこそ、ここにはパルデア本土以上に多種多様なポケモンたちがひしめき合っている。

/ナッシー!\
(ポケモンセンターオキナワにて)

 それと個人的にめちゃくちゃ嬉しかったのは、ブルーベリー学園がイッシュ地方にあることから、BGMが『ポケモンBW』のアレンジ。ちょうど私がBW世代なので、トレーナー戦BGMのイントロを聞いた瞬間に「こ、これは……!!」ってなりました。なんかもう魂がこの曲を覚えてんだなって。

 色んな地方のポケモンしかり、BGMアレンジしかり、歴代シリーズを楽しんできたプレイヤーへのファンサービスも含んでいることが窺えて非常に良い。子どもの頃にポケモン遊んで、今は大人になった世代の人間が、あの頃のワクワク感を思い出せるような作りにもなっている。BW以降の作品は触れておらず、剣盾で久しぶりに復帰した私にはドンピシャでした。大人になった今でもポケモンを楽しめるってのは本当にすごいことですよ。ありがとうポケモンSV、ありがとう藍の円盤。

 ……と、これだけでもDLC後編としてすでにお腹いっぱいですが、もちろんストーリーも忘れてはならない。

当初はよそ者を嫌っていたゼイユが、今ではこの歓迎っぷり。会いたかったよお……!!

 林間学校で出会ったゼイユとスグリ。その兄妹が在籍しているこの学園にこうしてやって来た。

 ゼイユは相変わらず元気で安心したけれど……スグリは「何でも持ってる物語の主人公みたいだな」とあたしを評し、無力な自分をひたすらに呪い続けているようだった。そのきっかけとなったのは、誰よりもオーガポンを慕い続けていた彼が、さまざまな経緯から仮面を取り戻す冒険に加わることができず、そして最終的にはあたしが仲間にしたことだ。

 今さらあたしが何を言ったところで、スグリにとってのあたしは、大好きな鬼さまを奪い取った人間でしかないのかもしれない。それでも。もう一度話をしてみたい。オーガポンがキタカミの里で安心して人前に出られるようになったのは、あなたが住民たちを説いて回ったおかげだということを。あなたにはあなただけの強さがあることを――

❗❓

 お、おおう……マジか……男子三日会わざれば刮目して見よとは言うけど、これまた随分と……

スグリを心配しているものの、無理やり矯正しようとはせず信じて見守る
いいお姉ちゃんですね

 ゼイユの話によれば、スグリは林間学校での出来事があって以来、すっかり人が変わってしまったらしい。何もできなかった自分の弱さに向き合った結果、ひたすら強さだけを追い求めるようになった。そしてブルーベリー学園最強のポケモントレーナーにまで登り詰めることができたが……

「それが……いつの間にやら 変わっちまって」
「自分も まわりも 責め立てて 追いこんでらぁ」

 根本的には自分の弱さへのコンプレックスが肥大化したままなのだろう。他者に弱さを――「あの頃の弱い自分」を見出しては、「本気になれない奴は俺の部活にいらない」と性根を叩き直すかのごとく、周囲の人間に当たり散らしているようだ。

「スグは お子ちゃまだから
悪的な存在に あこがれちゃうのよねー」

 とても真面目な話なので、こんなことを言うのもなんですが、見た目までイキっちゃうのは正直かわいげありますね。たとえるなら高校生になって初めての夏休み、周囲に置いて行かれまいとピアスをしてみたり、古着屋で買った黒い服を着崩してみたりして背伸びをする男の子の感がある。スグリくんもお年頃だもんな。髪をオールバックにしてみたくもなるよな。私もナップサックは家庭科のドラゴンだったからわかるよ。

 髪を無造作に伸ばしたままの病的な状態になっていたらどうしようくらいには思っていたので、むしろ今の状態の方がエネルギッシュで回復の余地があって安心感を覚える。負のエネルギーが創作意欲に繋がることも案外あるわけで。

 しかし、後方ママ面になって「かわいい」「反抗期」「お子ちゃま」という言葉だけで片付けていい問題ではない。それでは本人の気持ちを軽んじているのと同じだ。それに、他者に攻撃的な言動をするようになっているあたり、今回ばかりは暴走して良くない方向に走っている。実際、彼の周囲ではさまざまな問題が起きているようだ――


リーグ部四天王の生徒たち

 ブルーベリー学園には「ブルベリーグ」というランク制度があり、生徒のポケモントレーナーとしての強さが格付けされている。そして、このランク制度の下でポケモンバトルの腕前を鍛え合うのが「リーグ部」。あらゆる地方のポケモンリーグがそうであるように、四天王と、その頂点に立つチャンピオンがいる。

 現在チャンピオンを務めているのはスグリ。しかし、あんな状態の彼が頂点に君臨しているため、誰とも足並みを揃えることができず、不穏な雰囲気が漂っている。四天王の面々はこの現状を何とかしたいと切に願っていた。そこで白羽の矢が立ったのは、スグリに因縁があるあたし。四天王戦を勝ち上がり、チャンピオン戦でスグリに挑むことになった。言葉だけでは伝えられない思いを届けるために。

「言いたいこと あるなら 直接 言えっての! やれっての!」
「戦いたいから 戦う! それで いーじゃんか!!」

 四天王の生徒たちがポケモンバトルに込める思い。年長者であるカキツバタ曰く、かつてのスグリは、ポケモンを戦わせるのは誰よりも楽しんでいたのだという。そんな青春の日々を取り戻したい。かくして、あたしはポケモンバトルを通じて、四天王の生徒たちと親交を深めていくのであった。

みんないいキャラしてんだこれが

 ……「さて、どの子のルートに行こうかな」じゃん。親愛度が高ければエンディング後に個別の追加シーンが見れる恋愛要素ありの学園RPGじゃん

なんだそのかわいい動きとかわいいクイズは

 特にこの女ですよこの女。タロ。何なんすかこの化け物は。「こっちはコータスとオーガポンが先発。フェアリー半減だから余裕で押し切れるやろ」とタカをくくっていたらあっさり負けちゃったけど、別の意味でも負けそう。無自覚。あざとい。魔性の女。ちゃらんぽらんなカキツバタ先輩やシアノ校長には意外と当たりが強い。勘弁してほしい。好きになっちゃいけないのに好きなっちゃう。「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんですが……勘違いさせちゃいましたか……?」って言われてゲロ吐くほど泣く未来が見えた。

悩んだ末に「そんなことない」を押しました。
同じショタに狂わされた者同士。抜け駆けせずに対等な関係を築きたい。 

 主人公←スグリ←ネリネか……想像すらしてなかったなこういう矢印。一見すると気難しそうな子に見えるけど、あの・・ゼイユと仲が良かったり、スグリに思いを秘めていたりと感情豊か。ギャップがかわいらしいですね。帰郷して学園に戻ってきたスグリがああなってたらそりゃ辛えでしょ。林間学校の最初の頃にイチャイチャして有頂天になっての申し訳ない。

「誰かが あいつの目 覚ましてやらねえと よくねえ」
「楽すんのが 板に ついちまった オイラにゃできなかったからよ
……キョーダイまかせで 悪いな」

 3回留年中のカキツバタ先輩。何かとテキトーな言動ばかりだけど、リーグ部を、そしてスグリのことを誰よりも客観的に俯瞰した上で、主人公に思いを託す。

 いいよね。普段は軽いノリだけどいざって時は頼りになる先輩キャラ。私はかなり好きなタイプなんですが、知人曰く、「たまに顔を出して、大して何もしないくせにあれこれ口を出して先輩風を吹かせる嫌な先輩みたいでなんかちょっとやだ」とのこと。う、うーん、言われてみれば確かに……? まあでもそういう妙なリアルさまで含めて、どの子もキャラが立ってて良いですね。アカマツくんも子犬感あって好き。

 同じ部活に入部して、部員たちと親交を深め合って、解散の危機に立ち向かう。ある種、パルデア各地を駆け巡る大冒険となった本編よりも「キャンパスライフ」としての色が濃い。別の角度から『ポケモンSV』という作品を、「宝探し」をまた楽しむことができる。ただでさえジムリーダーも先生も四天王もアカデミーの生徒もみんな好きだと言うのに、こんなにも魅力的な生徒ばかりで、またお気に入りの子がどんどん増えていく。所詮はDLCだと思って油断してました。嬉しい誤算だ。


チャンピオン戦、代弁者

 みんなのためにもスグリには負けられない。豹変の原因の一端を担っているのはあたしでもある。この戦いできっちり清算しなければならない。スグリ。もう遠慮も建前もいらない。思いの丈をぶつけ合おう。

 ……それにしても、マジで強いトレーナーばかりなんですよねブルーベリー学園。当然のようにダブルバトル用のギミックを組んでいるし、タイプ統一パとして苦手なタイプにはしっかり対策を練っている。四天王戦ではコータスで晴れ展開してオーガポンでゴリ押せば勝てるだろうと思ってたけど、追い風で上を取られてボコられたり、不利タイプ対策がガン刺さりして成す術なく敗北したりしていました。そういえばランクマッチでもスカーフ水ウーラオスでスイープする脳筋プレイばかりしてたわ。どうやら単体のパワーでゴリ押しするのはシングルバトル以上に難しいようだ。

「はいねこを 見返したくて 俺 努力したんだ」
「吐くほど 勉強して ポケモン 強くして」

 このガチ環境で勝ち上がるのは相当な努力を要しただろう。……スグリ、お前もまたランクマの闇を知る者か。

 無策で挑めば敗北は必至。ダブルバトルに不慣れで、選出画面が無いので相手の出方もわからない中、確実に勝利をもぎ取るにはどうすればいいのか。厳しい四天王戦をくぐり抜けて勝利のピースを掴むことができた。①初動で相手の動きを徹底的に妨害して戦略プランを崩壊させた上で、②こちらのやりたい動きを押し通す、だ。戦闘のテンポをこちらが掌握する。シングルバトル以上にギミックが肝要となるダブルバトルでは、恐らくこの動きが最適解。なんかマスターデュエル(遊戯王)を思い出しますね。先行取られて制圧盤面敷かれたら突破難しいもんな。

 ということでこちらの先発は――

 デカヌチャン(みょるにる)とハバタクカミ(みだれがみ)。スグリはカイリューとニョロトノを選出。これカキツダバタ戦で似たようなの見たな。カイリューはマルチスケイルで確実に耐えて追い風、さらにニョロトノで雨を展開して後続に繋げる算段だろうか。

 よし、それならデカヌチャンのねこだましでマルチスケイルを潰して……

 マジカルシャインで仕留める。そしてデカヌチャンが倒れたところで、

 コータス(ジーランテス)で晴れ展開。これで妨害と下準備は完了。さあ、ここからは独壇場だ――

行けえ❗ オーガポン❗
晴れで炎技1.5倍❗
テラスタルでタイプ一致1.5倍→2倍❗
おもかげやどしで攻撃1.5倍、技威力1.2倍❗

暴力的な火力指数で全てを粉砕しろ❗💪

「よくも…… 今! ここで!!
鬼さまさ!! 出せたよな!?」


うるせええええええええええ❗❗

さっきから黙って聞いてれば❗
マウントを取るためだの❗
強さだけを基準にして「俺は間違ってない」だの❗

そんな邪な考えのせいで❗
オーガポンはお面を奪われて
独りぼっちになっちまったんだろうが💢

カキツバタの言う通りだ❗
てめえには灸を据えてやらにゃなんねえ❗

フルパワー・ツタこんぼう❗❗

オラァ❗❗
一・撃・粉・砕❗❗

「残念だったねぃ」
「元 チャンピオン」

 あ~~気持ちえぇ~~……調子に乗ったクソガキを一方的にボコして衆目にさらすの気持ちええわぁ~~……😊

「はいねこ…… 俺……
おれ…… う うぅぅ……」

 ……あっ、ご、ごめん。い、今のは本気じゃないからね。

「勝ちに こだわれんのは すげえ いいことだ
誰だって 勝ちてえは 勝ちてえ」
「でもよ…… こだわりすぎて 自分の首 しめんのは 違うだろ
……見てるこっちが 苦しいぜ」

 スグリ、お前とポケモンバトルやるの息苦しいよ。カキツバタは「前みたいに楽しくやろうや」と言葉を贈る。

 このあたりのカキツバタの台詞は、第四の壁を越えて、プレイヤーとして響くものがありますね。ポケモンに限らず、私もさまざまな対戦ゲームを経験してきました。どれもエンジョイ勢ですが、カキツバタの言う通り、勝ちたいかと聞かれたらそりゃ勝ちたい。でも上位ランカーの腕前や情熱は自分じゃ真似できないと思うし、真摯な姿勢で取り組んでいる方を実況動画なんかで見ると尊敬する。学園トップになったスグリのことも素直にすごいなと思う。

 ただ恥ずかしい話だけど、私自身、大人げなくひとりでキレ散らかしちゃうことは何度かあった。それこそスグリが言った「運まで味方につけてズルいよな……」「いい加減倒れてよ! ありったけ全部ぶつけてんのに!!」という台詞は身に覚えしかない。歪んだ鏡を見てるみたいだ。たとえばポケモンで有効急所を引かれた時。マスターデュエルで後攻になり、手札誘発が引けず、相手の展開を黙って見ることしかできない時。環境デッキに全ての妨害を踏み倒されて盤面をひっくり返された時。あらゆる対戦ゲーで似たような心境になることはよくある。

 ある種、スグリという少年は「プレイヤーの代弁者」と言えるのかもしれない。私たちは「主人公」のように何でも持っているわけじゃない、まぶしい冒険の日々を過ごしているわけじゃない。「宝探し」の果てに見つけたものをうらやましいと思う。スグリがオーガポンを仲間にすることができなかったように、私たちは伝説のポケモンと共に冒険をしているでもなく、最強のポケモントレーナーになれるでもなく、平々凡々に感じられる日常を過ごしている。満たされない、妬ましい――そんな負の感情に突き動かされて、スグリのように本当に大切な「宝物」を見落としてはいないだろうか。

あの頃と違って自分のことしか言わなくなった
そこにポケモンへの愛はあるんか

 なあスグリよ。あんたからオーガポンを奪ったあたしがこんなことを言うのもなんだけど……ポケモンは鬱憤を晴らすための道具じゃない。好きなポケモンを健気に応援してたあの頃を思い出そうや――と、やはりこれは私自身に跳ね返ってくる言葉であるように思う。「ポケモン」というコンテンツにどう向き合うべきか、と。


「今度こそ」

 こうしてスグリとの決着はついた。しかし彼の心は曇ったままだ。このままではリーグ部が快方に向かうことは難しいだろう。どうしたもんか……と、そこに思わぬ来訪者が――

「せやなあ 逸材 逸材……」
「いや 逸材 言うて!」
「自分も 大穴ん中 許可も とらんと 入ったやろ!」

で、出たあ❗
チリちゃんのノリツッコミだ❗
きゃー❗ 生で見れて感激……❗😍

チリちゃんに叱ってもらえる最高のDLCです でへへ

 ブライア博士に呼び出されました。そこに偶然オモダカさんとチリちゃんが来訪。最高のサプライズかよ。

 オモダカさん曰く、エリアゼロの再調査をしたいけど人材や時間を捻出できていなかった。そこで白羽の矢が立ったのはアオキさん……じゃなくて、かねてより調査申請をしていたブライア博士。テラリウムドームを構築できたのは彼女の研究成果によるものが大きい。それほどの重要人物。林間学校もこの方が引率してくれました。そんな彼女のエリアゼロ調査に、ポケモンの育成に長けたブルーベリー学園の生徒、パルデアのチャンピオンであるあたしが加われば心強いとの談。

 まあエリアゼロを冒険したことがあるあたしは、案内役としてマストか。ゼイユもこの手の話には飛びつきそうだ。それから……ええっと……(チラッ)

「伝説のポケモン…… いるなら
会いたい…… 捕まえたい」

 そ、そうだよねっ。スグリも来るよね! や、やったあ! また一緒に冒険できるね! はは、あはは……

…………ん?

んんんんんん❓❓❓❓

 ね、ねえ、スグリ。ちょっと待って。「今度こそ」って何? えっ? あたしがオーガポンを仲間にしちゃったから、その代わりに別の伝説ポケモン捕まえて欲求を満たそうってこと? 告白してフラれたから別のかわいい女子と付き合って見返してやろうってこと? ち、違うよね? そんな動機で捕まえようとしてるわけじゃないよね?

「ゼロの秘宝さえ 手に入れれば……
今度こそ はいねこに 勝てる!!」

 …………マジなのかよ。

「俺は…… はいねこが うらやましい……!」
「ポケモン 強くて! どこへでも 行けて! 誰とでも なかよく できて!!」
「俺が ずっと 好きだった オーガポンにも 認められて……!」
「俺には…… 何も ないよ」
「血がにじむ 努力しても
無駄だった!! かなわなかった!!」

 血のにじむような努力の末に手にしたブルベリーグ・チャンピオンの座。しかし敗北。あのチャンピオン戦は、スグリにとっては、これまでの努力の全てを否定されたと言っても過言ではないのだろう。

 テラパゴスは、最初に視界に入った「主人公」に興味を示した。思えばオーガポンに最初に出会ったのも……スグリはそのことを思い出したのだろうか。また奪われてしまう。彼は慌てて、

 マスターボールを投げる。何としてでも自分のものにするという強い意志。もしあの時、オーガポンに最初に出会ったのが俺だったら。俺が無理やりにでもオーガポンをボールに入れていれば。スグリにとってはそんな「if」を達成するための唯一の手段が、テラパゴスだったのだろうか。

「いけ! テラパゴス!
はいねこに 力 見せてやれ!」

 …………スグリ、本当に見返すことしか考えてないのか。自分の力を証明することしか考えてないのか。テラパゴスをそのための道具としか思ってないのか――

このクソガキァ❗❗❗❗
目ぇ覚ませ❗❗❗❗

 お前ふっざけんなよ❗ テラパゴスを仲間にしたところで「鬼さまならもっとうまくやれた」「鬼さまならそんなことしないのに」とか言い出すだろ❗❓ 今カノに前カノの面影を押し付けるやつじゃねーか❗ 男子ってほんとサイテー! 自分のことしか考えてないの!? あんたに付き合わされるパゴちゃんの身にもなりなさいよ!

「人間から 仲間外れに されても へっちゃらーって感じで
小さいことから あこがれてて……」
「おれも 鬼さまみたいに かっこよく なりたい」

 鬼さまのことも自分を重ね合わせていただけで、心の底から愛していたわけじゃなかったのか……? そこだけはお前のこと信じてたんだぞ。なのにテラパゴスを代替品にしちゃうのか。この調子だと、スグリがオーガポンを仲間にしたところで、気安くオーガポンに近づこうもんなら「あの時みたいに鬼さまをいじめるかもしれない」とか言い出してみんなから遠ざけたり、バトルに負けても同じことを言い出して敵意を剥き出しにしたりして私物化するんじゃないか。オーガポンがかわいそうだろ。ずっと独りぼっちだったオーガポンに、たくさん友だちを作ってあげることがトレーナーとしての使命じゃないのか。

 私がオーガポンを仲間にしといて正解じゃねーか。見返すことができりゃあ誰だっていいのか! あたしのことはどれだけ恨んだっていいよ❗ でもポケモンは大切にしなよ❗ なあ❗❓

 ……いやーでもやっぱり歪んだ鏡を見せられている気分になりますね。「お前も心のどこかでスグリと同じことを思ってるんじゃないのか。絶対に同じことをしないと言い切れるか」と。そう問われているような。仮に私がポケモンの世界に入り込めたとして、あんな波乱万丈な冒険はしないし、できないだろう。かつてのスグリと同じようにひっそりとした生活を送っていただろう。卑屈になったり、隙あらば伝説ポケモンをマスターボールで強奪しちゃおうと考えたりするかもしれない。


続・宝探しの物語

みょ、みょるにる! ハンマーでかすぎてテラパゴス見えないよ!

 自戒の意も込めてスグリを再びボコりました。チャンピオン戦もそうだったけど、強くなったスグリと、変に遠慮せず殴り合いができたのは嬉しかったですね。やっぱり燃えますよ。腕前が上がったライバルとの再戦は。

ここの絶望感えぐい。あのマスターボールが……?

 フルパワーを発揮させるために、スグリはブライア博士に促されるままにテラパゴスをテラスタル。すると暴走。マスターボールの中に戻そうとするも砕かれてしまう。スグリは茫然自失。俺のせいでこんなことに。

 エリアゼロの奥底に眠っていた秘宝・テラパゴス。しかし、「宝探し」とは、ただ最強のトレーナーになれればいい、ただ伝説のポケモンを捕まえることができればいい、そんな形ばかりのものではない――

 スグリと同じく、「主人公」たちの冒険をうらやましいと口にした人物がいた。彼女は憧れを胸に抱きながら、古代の世界へ旅立った。

 大切な仲間たちと過ごす日々を「宝物」だと言った生徒がいた。

「ひとりでも がんばれるように がんばりたい…… おれ」

 一人前になりたい。いつまでも姉に頼ってばかりではいけない。カキツバタが言うには、彼は誰よりも楽しそうにポケモンバトルをしていたのだという。鬼さまが安心して里を歩いて回れるように住民たちを地道に説くこともした。いわんや、彼が本当に求めていた強さとは、誰かを見返すためという利己的なものではなく――

完璧な道標を示したコライドン

 「守られる」のではなく「守る」ための強さそれが彼にとって本当の「宝物」だったのかもしれない。

 妬ましくてたまらないと思えるほどに本気になれて、しかも頂点にまで登り詰めることができるのは、実際ひとつの才能だ。血がにじむほどの努力ができるポテンシャルもある。それこそ、私はそんな才能を秘めたあなたをうらやましく思う。だからスグリ――

 手に入れよう。本当の「宝物」を。独りシングルじゃなくて、二人ダブルで。

今作で初めてマスターボールを使いました

 「やっとあきらめられる」とスグリは口にする。決して後ろ向きな発言ではない。清々とした気持ちもあるのだろう。自分は「主人公」になれない。鬼さまと一緒にいることはできない。しかしそこに固執するのではなく、自分にとって何が本当に大切なことなのか気づいた。これが彼の新たな船出になるだろう。なんせブルーベリー学園最強のトレーナーになれるほどの実力は秘めているのだ。可能性に満ち溢れている。

 こうして、もうひとつの「宝探し」の物語は幕を閉じた。スグリの件に片がつき、テラパゴスの暴走も無事に食い止められたのであった――













「私のせいで 皆を 危険な目に あわせてしまったね」
「本当に…… 申し訳なく 思うよ」

…………いやほんまやぞお前❗❗

言いたいこと全部言ってくれた

 でも、むしろホッとしましたね。前編でもてらす池の調査をしていて、なんか怪しげだったじゃないすか。だから実はこの博士が黒幕で「ククク、きみたちはもう用済みだ。これで我が野望は成就する……!!」って言い出すかと思ったら、ただただ純粋無垢なドジっ子研究者でした。愛おしいな。


完走した感想

前編にもまして「お姉ちゃん」してたので好感度爆上がりでした

 待った甲斐があった。ありがとうポケモンSV。

 悪い方から先に感想を述べていくと、ストーリーに関しては消化不良感が否めないですね。エリアゼロやスカーレットブックについてなんか掘り下げあるのかなーと思ってたら、テラパゴスがいて、捕まえて終わりというのは何だか味気ない(謎は謎のままの方が趣があるとは言えますが)

モノローグだけで語られるのはもったいない

 スグリや四天王の生徒たちについても、たとえばここから剣盾のクリア後ストーリーみたいなものがあって、あの頃の雰囲気を取り戻していく過程を見ることができればよかったのですが、スグリは休学して退場。スター団は各々に回想シーンがあり、最後も全員が再集結したからこそ、切ない幕引きに泣かされっぱなしだったのですが、それに比べると今回は演出や掘り下げが不足気味。改心したスグリをリーグ部四天王が迎え入れるところを、ムービー付きで見たかったですね。欲を言えば。

 本編は単体で大満足だったのですが、DLCに関してはつまみ食いしたせいで余計に空腹を覚えてしまった感。あくまでもDLCだから仕方ないと言えば仕方ないか。それに、物足りないと思ってしまうのは、それだけ魅力的だったから。この舞台にもっと浸りたいと思えるから。マップ、BGM、追加ポケモン、ストーリー、総合的には非常に満足度の高い内容でした。足りない部分はうまいこと脳内補完しておけばいいか……ん?

 記事執筆中に番外編の情報が来ました。おいおい、いつメンでまた冒険できるの嬉しすぎるって……!! せっかくキタカミが冒険の舞台なら、スグリの「その後」や、あの姉弟がこの3人に出会うとどんな化学反応を起こすのかも見てみたいですね。

 閑話休題。しかし、後編で何よりも意外だったのは、スグリの捉え方が180度変わったことだ。前編ではスグリに脳を破壊されていた私だが、後編では「プレイヤーとしての自分」を彼に重ねていた

 私は「主人公」じゃない。最強にはなれない。どこへでも行けて、誰とでも仲良くできて、自分がずっと憧れていたものを手にするような人物が身近にいれば、少なからずうらやましいなと思ってしまう。私は間違いなくスグリ側の人間だ。あの「宝探し」の冒険の外側にいる人物、眺めていたプレイヤーすら含めたこのアフターストーリーは、SV本編を補完するような物語であると言えるだろう。誰にでも、どこにいてもできることなんだよ。あなたにはあなたの「宝探し」があるんだよと。

 教訓、なんて言い方は憚られるが、私も自分の「宝物」を探していきたいと思う。夜明け前が一番暗い。もし間違えてしまったのなら――

「ゼロから また 俺と……」
「友達に…… なってくれる?」

 スグリ、またゼロからやり直そう。……やっぱり好きだ、『ポケットモンスター』という作品が。これからクリア後要素を遊んできます。それではまた番外編で。