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SIFCA TALK vol.1 : Dance with AI

シフカのデザイナーが、デザインに関することを取り留めもなく話すシフカトーク。普段は業務として答えを出すことに専念しているメンバーに、敢えて答えの出ないようなテーマを与えて話してもらう企画です。

第一回のテーマは「デザイナーとAI」

ここ最近のAIに関する技術の進歩は目覚ましいものがあり、専門知識を持たない人でも気軽にAIを使ったサービスを利用できるようになりました。楽しくAIで遊ぶ人たちがいる一方で、イラストを描くAIの是非を巡る議論も活発です。

イラストを描くAIへの評価は人によって大きく異なっています。今まで描きたくても描けなかった人にとっては福音である一方、苦労して身につけた技術をAIが自動でやってしまうことへ否定感情を持つ人の気持ちも良くわかります。

今後AIの性能が加速度的に向上し普及が更に進んだとき、もはやイラストを描く人がいなくなってしまうのではないかと危惧する論調も目にするようになりました。そしてAIの進化に影響を受けるのはデザイン分野も同じです。

AIと一緒に仕事をするデザイナーの未来について、シニア中堅若手のデザイナー三人に語ってもらいます。


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シニア よろしくお願いします。普段から色々なことを社内で話しているけど、新しい企画として記録に残しても面白いんじゃないかと思って、このトークセッションを設けました。記録に残すとは言ってもあまり固くならないで、普段通り気軽な感じでお願いします。

中堅・若手 よろしくお願いします。

シニア みんなはAI系のツールはもう触ってるよね。

中堅 有名どころは一通り触るようにはしていますね。


デザイナーの仕事が無くなる?

シニア AIが仕事を奪うという意見をよく見聞きするけど、実際のところ、AIの影響でデザイナーの仕事が無くなることはあると思う?

中堅 ある程度ルールが決まった中でランダム的に生成されたものをチョイスすればOKという案件であれば、AIが作るもので完結することもありそうですね。でも、デザインを必要とする人が強い思いを持っているときには、デザイナーの必要性は変わらない印象です。

若手 私はAIが作業をフォローしてくれることで誰もが及第点のデザインを作り出せるようになると思いました。それどころか、デザインを必要とする人が自分の考えをAIに伝えると、それっぽいデザインの候補が瞬時に生成される日が来るかもしれないなんて考えたりもします。

中堅 デザインを必要とする人、つまりクライアントが自分でAIにプロンプトを入力しても、頭の中で思い描いたとおりのデザインが出てくるとは限らないし、仮に思い描いたものに近いデザインが出てきても、何かが違うと感じてしまうこともあるんじゃないかな。

クライアントが満足するデザインにたどり着くには、クライアントの要望を正しく把握している必要があるし、そのデザインを作るにあたっての要望や目的、ゴールを正確に把握することが重要になってくると思います。デザインをするにあたってクライアント自身が気づいていないポイントが重要だったということもありますしね。

シニア 出来上がったデザインにクライアントが満足するだけでは正解とはならないこともあるね。多くの場合、クライアントにはデザインでメッセージを届けたい相手、つまりターゲットがいる。そのターゲットとする人が満足することでデザインの目的は果たされる。つまり、クライアントが満足するだけでなくターゲットの満足もあわせて考える必要がある。

こういった部分は今もデザイナーの役割として期待されているところだけど、その重要さが今後一気に増してくるんじゃないかな。デザイナーの仕事はクライアントにヒアリングをして要望を聞き出すカウンセラーに近づいていくのかもね。

中堅 結果として「AIに渡すまで」の部分がデザイナーの領分になるのかもしれませんね。その時も考えるべきはプロンプトではなくユーザー体験であって、こうしたほうがより良い、という部分にデザイナーの意思が入ってくるはずです。

若手 AIがデザインの仕事に入ってくるのであれば、面倒な作業はAIに任せることでデザイナーの考える時間が増やせるというくらいの心持ちで受け入れたいなと思いました。


どのようにAIは入ってくるのか

シニア AIがデザイナーをそのまま置き換えられなさそうなことはわかったけど、現実的な流れとしてデザインの現場にAIはどのように入ってくるかな?例えばPhotoshopにAI機能を追加するとしたらどんな形になると思う?

中堅 AIと聞いてすぐに思い浮かぶような「自動で絵を作る」機能よりは、プラグインで個々にやっている作業を補助してくれるような機能のほうが現実的じゃないでしょうか。例えば色覚シミュレーションを分かりやすくフォローしてくれる機能とか、コントラスト比を簡単に確認できるみたいな。

もし日当たりなどユーザーの利用環境を設定すると現実での見え方をシミュレートしてくれる機能とかなら今すぐにでも使いたいと思います。

若手 ダミーデータをAIが作成するサービスも気になります。実在しない人物の顔写真を生成するサービスは既にあるし、年齢や性格から生い立ちまで、プロフィールを生成してくれるAIがあると便利そうだと思いました。

シニア Webサイトやアプリなどのモックに表示するダミーデータは自分で考えて作ると意外と時間がかかるからね。FigmaではアイコンをAIで生成するプラグインが出てるし、「人に頼むほどではないけれど自分で作るには面倒なもの」を代わりに作ってくれるところからジワジワ入ってくるのかもしれないね。

中堅 既にAIを利用したデザイン関連のサービスや機能はたくさん世に出ています。例えばデザインの好感度をAIが比較するサービス。デザイナーが作った複数のパッケージを比較してその優劣を提示してくれるものだったり。

そしてこの仕組みを基盤に、複数のデザイン案を与えると構成する要素を元にして別のデザインを大量に生成してくれるサービスに発展しています。例えば1000種類のデザイン案となったら、必要かどうかはさて置き、人間の手ではコストが全く合わないですよね。

シニア コーディングの世界でもAIによる生成機能は出てきているね。XDやSketchのデータを渡すとAIがそれっぽいコードを書いてくれる。今までも各要素に付けた名前から判断する仕組みはあったけど、AIがデザイン上の見た目で機能を推測してより適切なコードを生成するそうだ。当然ながら生成されたコードの手直しは必要だろうけど、例えば10日かかっていたコーディングが新人でも3日で実現できるとなればインパクトは絶大のはず。

若手 将棋のプロ同士の対戦では形勢をAIがリアルタイムで評価することが行われています。勝負を中継する画面に先手後手のAI評価値が表示され、一手打つごとに変化する点数がギャラリーの理解を助けているんです。

UIデザインの世界にも同じような場面が出てくるのかもしれません。例えばアイコンの位置を少しずらすだけで採点が大きく変わるような機能があったらどうでしょうか。

中堅 点数で評価できるならAIが考える最適の位置を提案することもできそうですね。いや、それなら最初から最適な位置に自動で配置されるほうが早いかな。デザイナーが画面に要素を並べたらあとはオートでレイアウトされ、少し手直しするだけで完成です、みたいな。

シニア もちろん、デザインするにあたって考慮すべきルールや要素同士の優先順の定義といった仕込みは必要なはず。このボタン同士は近くにする必要があるとか、このメニューのほうが必ず手前に無いとダメとか、そういったルールの「仕込み」もデザイナーの大事な仕事になるのかもしれないね。


AIの進化はまだ始まったばかり

シニア ここまで夢のある未来を想像してきたけれど、今のAIは課題も多いのも事実だね。その辺はどう?

中堅 AIを業務に使うとなると、出力されたものに著作権などの問題が無いのかは気になりますね。技術の発展のために制約が少ないほうが良いことは理解していますけど、職業柄そういった中でも可能な限り権利を担保して欲しいという気持ちも否定できません。

若手 元データが全てクリーンなもので学習したAIなら問題ないんじゃないですか?でも権利的に安心という意味では問題ないのかもしれませんが、結果として出てきたものが偶然何かにソックリだと結局は問題になってしまいそうですけど…

中堅 AIをツールとして使う以上、使う側がその出力物に責任を持つ必要はあるはずで。ただ、これはAIではなく人間のアシスタントに作業してもらうときと同じですよね。将来的に多くの人が納得できる仕組みができることを期待したいです。

シニア AIが作ったデザインが本当に良いものなのか、現状は人間が判断する必要があるよね。その際はその良し悪しを判断した理由を説明できないといけない。これって今と同じだよね。

中堅 そのうちAIがデザインを点数で評価してくれる仕組みができたとき、それを活用するには発注側とデザイナー側でそのAIの点数が信頼に足るものだと合意していることが大事になるんじゃないかと思います。

シニア 入力したテキストから絵を生成するAI「Dream」の描く絵が話題になってからまだ1年ほどしか経っていないのに、一部のイラストレーターからは敵視されてしまうほどのレベルにまで一気に成長してきた。進化のスピードには本当にびっくりするね。デザインツールとしての進化のあっという間なんだろうね。

中堅 AIの影響はイラストやデザインだけでなくあらゆる分野に及び、その成果がフィードバックされ進化を更に加速するはずです。そう考えるとAIの進化はまだ始まったばかり。課題が多くてもやがては解決され、頼もしい相棒になってほしいですね。お願いだから、謀反を起こして敵にはならないでほしい。

一同 笑

若手 マンガやアニメで定番の「バディAI」が早く実現して欲しいですね! もしかしたら、「あれ」「これ」と言うだけで全て察してやってくれる「オカンAI」になってしまうかもしれませんけど…


社会の受け入れ

シニア これまでデザインを作る側の視点で見てきたけれど、受け取る側はどのように変化するんだろうか? 個人的には、AIが作ったデザインを受け入れられるのかも気になるところなんだけど。

中堅 出来上がった成果物だけを見れば、AIが作ったものと人が作ったものとで違いはないはずです。極論を言えばクオリティに納得できるかだけなので。でもイラストを描くAIに対する評価を見る限り、心理的な壁を持つ人が一定数いる可能性は否定できません。例えばマンガがAIで全て作れるとなったときに受け入れがたいという人はいそうです。

若手 そうでしょうか。誰もAIが作ったかなど気にしないようにも思えます。マンガの話で言えば、内容が面白ければ誰が描いたかは特に気にしないのではないかと… コンビニのお弁当を人手を介さず工場で作っていても誰も気にせず美味しく食べているのと同じではないでしょうか?

シニア デザインはマンガほど作家性が前面に出てこないのでAIへの忌避感は薄いかもしれないね。使いやすいUIを褒める中でその作家性を話題にすることはあまりないし、駅に貼られたポスターを見たとき、誰が作ったのかよりはポスターが伝える内容のほうが気になるよね。

中堅 デザインを見る側にもAIではなく人が作ったデザインが良いという反応が多く出るのか、それとも全く気にされないのか。どちらも有り得そうでとても興味がありますね。


デザイナーの仕事はどう変わるのか

シニア そろそろ時間なので最後の話題に。デザインをする際にAIを利用することが当たり前になったとき、デザイナーの仕事に何が起きると思う?どんなふうに変わるのか、もしくは変わらなくてはいけないのかな?

若手 デザインの各工程、企画 → ラフ → デザイン → コーディング → 評価 → 調整の全てでAIがフォローするようになると、どの場面でどのAIをどのように使うのかも大事なスキルになってきそうです。

中堅 AIのおかげでデザインが簡単に作れるようになると、目的設定がより重要になってくると思います。見た目が心地よければ良いとは限らないのがデザインの難しいところですよね。

例えば座り心地の良い椅子が全ての状況で最善とは限らない。リラックスしすぎては困る場面では椅子に別の役割が期待されることもあります。このように、求められている状況によって最善なデザインが異なりますよね。そういった求められる状況や目的を汲み取れる力がデザイナーに今以上に重要になってくるに違いありません。

シニア 先程の「デザイナーの仕事が無くなる?」で考察したような、カウンセラーに近い立ち位置が増えてくるのだろうね。それはAIがメインではない今でもデザイナーが大事にしないといけないスキル。そう考えると、結局のところ本質的な部分は大きく変わらないのかもしれないね。

若手 AIがフォローしてくれることで面倒な作業から解放されたデザイナーには考える時間が増えますよね。そして考えることが勝負の土俵になるなら、個人が会社レベルのことを出来るようになってくるのではないでしょうか。実際に音楽の世界では匿名の個人がメジャーを圧倒することすら起きていますし。そういった個人がチームを組んで活動することも増えそうです。

シニア 個人の出来ることが増えるのと同様、AIのおかげで大きい会社にしか出来なかったことが小さい会社でも出来るようになる可能性も出てくるかな。そんなときにデザイン会社はどう動くべきなのか、よく考えておく必要があるね。

さて、時間になったので今回はここまでにしようか。


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SIFCA TALK 第一回は「デザイナーとAI」について語ってもらいました。

次回もお楽しみに。

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