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SIFCA TALK vol.3 : Inherit Skills

シフカのデザイナーが、デザインに関することを取り留めもなく話すシフカトーク。普段は業務として答えを出すことに専念しているメンバーに、敢えて答えの出ないようなテーマを与えて話してもらう企画です。

第三回のテーマは「デザイナーへの教育」

今回は、デザイン会社におけるデザイナーへの教育について取り上げてみます。デザイナーへの教育は奥が深く、全ての人に同じ手法が適用できるわけではありません。特に新人デザイナーに対する教育について、ベストな形を模索しているデザイン会社も多いのではないでしょうか。

それはシフカも例外ではないようです。さっそく、シニア・中堅・若手のデザイナー三人に語ってもらいましょう。


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デザイナーへの教育とは

シニア よろしくお願いします。今回もまた、簡単には答えの出ない主題について話をしてみましょう。

中堅・若手 よろしくお願いします。

シニア さっそくだけど、テーマの「デザイナーへの教育」と聞いて、どんなものが思い浮かぶ?

中堅 まず思い浮かぶのが、デザインツールの操作方法の習得ですね。アイデアがあっても外に出せないと評価できませんので、ツールの習得はまずデザイナーとしての土俵に上がるために必要なスキルとも言えます。

若手 当たり前ですが、業務で必要になるデザインツールが使えないと作業に加われないですからね。

シニア 単にツールが使えるというレベルを超えて、より早く正確に使えるようになってもらう必要があるね。

中堅 次にデザイナー的な思考に関するレクチャーでしょうか。基本的なデザイン原則や倫理、オーソドックスな表現や定石パターンなどの基礎を身につけることで、アウトプットが一定の品質を担保できるようになります。更に進んでユーザーファーストの設計、共感的な表現、洞察の獲得の理解も必要になります。

シニア なるほど。

中堅 またデザイナーは単なる作業者ではなく、依頼者から実現したいことを引き出したり、自ら提案するデザインについて説明するなどのコミュニケーション能力も重要になります。社内でのやり取りでもコミュニケーション能力は欠かせない要素です。そういった面のトレーニングも必要になります。

若手 コミュニケーション能力が大事なのは日々実感していますね。

中堅 それ以外にも情報収集やアイデア出し、資料作成、予定通りに仕上げるためのスケジュール管理、データ形式の知識といった面での指導も必要になるはずです。

シニア 単に成果物を仕上げるためのスキルだけでなく、もっと幅広い分野での教育がデザイナーには必要になるということだね。実際に教育してみた感じ、どう?

中堅 よく感じるのはデザイナーへの教育を実施した際の効果を測ることの難しさですね。ツールの習得については習得度合いが目に見えて分かるので、指導が効果を上げているのか判断することができます。しかし、デザイナー的な思考のレクチャーは実際に効果を挙げているのか傍目には把握しづらいので、上手く出来ているのか心配になってしまいます。コミュニケーション能力に至ってはまだ指導方法自体、模索中です。

シニア なるほど。確かに難しいね。


デザイナーに必要なもの

シニア 今回はデザイナーへの教育を「デザイナーとしての質的向上を目的としたもの」と捉えているけど、そもそも何を持って「デザイナー」と言えるのだろうか?

若手 デザイナーといっても名乗るために必要なライセンスや国家資格などは無いですよね。どんな技術を身に着けているか、いわゆるスキルセットが基準になるのでは?

中堅 単にスキルがあっても、マニュアル通り、フォーマット通りに作るだけならオペレーターに近く、デザイナーとは違う気がする。そのスキルを組み合わせて、相手に合わせた提案ができるかどうかがデザイナーの条件じゃないかな。もちろん、どの程度の提案ができればデザイナーと呼べるのかの閾値は、人や分野によって違うと思うけど…

シニア スキルを組み合わせて相手に合わせた提案をする。なんだか「しつらい」と「もてなし」を大切にする侘び茶の精神みたいだね。

中堅 手持ちの道具を組み合わせて相手に最適な一杯を提供する侘び茶と、手持ちのスキルを組み合わせて相手に最適なデザインを提案するデザイナーは確かに似ている部分があるかもしれませんね。相手との一体感を重要視し、相手に合わせた提案が一期一会である点も侘び茶の「もてなし」に通じると言えそうです。

シニア ここで言う「もてなし」は、必要なポイントを抑え及第点をクリアした上で、更に相手に合わせ臨機応変に調整する行為と言えばよいのかな。

若手 自宅に友達を食事に招いたとき、普段は使っていないような「料理に合ったお皿」で出すみたいな感じでしょうか。

中堅 その理解で大きく外してないと思う。私は「もてなし」を「場の空気に合わせたふさわしい提案」という意味で捉えているかな。この「場にふさわしい」というのが具体的な言葉にしづらいので、指導のときに伝えるのが難しい。場の空気は相手や状況によって変わるものであり、その中でみんなが「うん、そうだよね」と思うような違和感の無さ、と言った感じのものなんだけど。

若手 ちょっと難しいですが、なんとなく言っている意味はわかります。

中堅 場にふさわしくない表現だと、見た人にどうしても違和感を持たれてしまう。UI・UXでそんな表現が混じると、触れたときになんとなくザラついた印象と言えばいいのか、そんな違和感を覚えるはず。デザイナーはそういった違和感を肌感覚で分からないとダメだと思うんです。

シニア それもデザイナーの条件なのかもしれないね。

中堅 一方で、手持ちのカード、つまり身につけたスキルセットに発想が縛られてしまう可能性も気になっています。色々なアイデアが生まれる中で、今の自分のスキルでは実現できない案はハナから無理だと切り捨ててしまうというか。できる範囲の表現しか提案しない、出来ないというジレンマですね。

若手 それはありますね。大風呂敷を広げるというのでしょうか、自分が出来もしないことを社内でならまだしも、クライアントに提案するのは勇気がいります。一方で自分の力量に縛られない大胆なアイデアを出せる人を羨ましく思う気持ちも正直あります。

シニア 大風呂敷の功罪といったところかな。提案者の手には負えないけれど素晴らしい提案を実現するには、チームでのフォローが重要になってくるんだろうね。


スキルをどうやって身につける

シニア 相手に合わせた臨機応変な提案がデザイナーにとって大事だとすると、デザイナーへの教育の中でどうレクチャーすれば良いかな。

中堅 相手に合わせた提案だからと言って全ての要素が完全オリジナルというわけではありませんよね。様々な状況を想定したパターンをたくさん身につけることが第一歩になるはずです。ただ、パターンに当てはめただけだとマニュアルに従って接客しているようなものですので、相手に感動してもらえるようなホスピタリティのある接客には届きません。

若手 もちろんマニュアル接客すら出来ないと次の段階のホスピタリティのある接客には進めませんよね。その意味でも基礎を身につけることは大前提ということですね。

中堅 そう、基礎をしっかり身につけた上で、自分なりにアレンジして試してみようというマインドセットが重要になってくるはず。「守る」だけでなく「試す」ことの重要性もしっかりと伝えていく必要がある。とはいえ守るべきものを守らないと怒られるし、挑戦が失敗に終わっても腐らずに育ってもらうにはどうすればよいかを常に考えておく必要がありそう。

シニア 実務だと「どこまでもてなすのか」という問題もあるね。どうしても費用と時間は有限なので、どこかで折り合いをつけるバランス感覚も重要になってくる。これのレクチャーは難しそうだ。

若手 デザイナーに限った話では無いかもしれませんが、よく「良いものを見ろ」「本物を見に行け」といったアドバイスがあります。でも実際にどうすればよいのかが分からないです。

中堅 いわゆる「どう目を養うのか問題」だね。確かに目を養うのは大事で、早めに目が肥えるとその後の経験値が1.5倍になるようなイメージがあるかな。「美術展を見に行く」「高級店に行ってみる」みたいな分かりやすい体験もあるけど、あるゲーム会社ではメンバーが地方のショッピングモールでお客さんの観察をしたりもするらしい。ユーザーとなる人の行動を直接見るという意味ではこれも「本物を見る」なのかもしれない。

シニア 面白い話だね。デザインにおける「生の現場」って何なのだろうか。

中堅 UIなら実際に使われている場面が思いつきますが… 実のところ「見よう」として行動した場面以外にも、たぶん日々の小さな積み重ねが後から効いてくるのだと感じます。普段と変わらない日常風景の中でも、チューニングが合っている人ならアイデアを取り放題になっているんじゃないかと。

若手 今はインターネットで様々なものを見たりアイデアを探したりすることが多いですが、それ以前はどうしていたんでしょうか? やっぱり書籍ですか?

シニア インターネットが世に出る前は、雑誌は大事なアイデアの元だったね。本屋で洋書を買い漁ったこともあった。日本では目に出来ないデザインを取り入れたり、制作手順の記事を食い入るように見ることもあったね。私よりさらに上の世代のデザイナーは、デパートの中を歩き回ってアイデアを探したりもしたそうだ。

中堅 その場の空気にあった提案、つまりもてなしの能力も日々の積み重ねでしか向上しないものですよね。世の中のマニュアルとは別の、数をこなした経験から自分だけのマニュアルを作る感じでしょうか。色々なことを試しては失敗することを積み重ねるしかなさそうです。

若手 「試してみて喜んでもらえた、これはよかった」「試してみたけど不評だった、これは駄目なんだ」。そんな感じの繰り返しですよね。

中堅 経験を積むには数をこなすしかないとなれば、どれだけ打席に立てるのかが重要になってきます。たとえ打てなくてもまた打席に立たせてもらえる、何かあったら先輩がフォローしてくれる、そういう文化が根づいていれば安心して打席に立てるはずです。

シニア 失敗を恐れずに任せることが大事だね。そして失敗するにしても、本人も会社も大怪我にならない範囲にコントロールする必要があるかな。ではデザイナーに大事だとされるコミュニケーション能力はどう磨こうか。

中堅 コミュニケーション能力もやはり指導が難しいスキルですね。個人的な意見ですが、最初のうちは先輩の付き人のようになり、意味も分からないまま打ち合わせに同席するだけでも得られるものが大きいと思います。打ち合わせでクライアントとどう話を進め、どんな内容が振られ、どう提案して納得してもらうのか。その場面ごとに必要なコミュニケーションを肌で感じるのが一番近道ではないかと。

若手 今はリモートワークになってしまったので、先輩の作業風景や外部とのやりとりを後ろから覗いたりすることもできなくなっていますよね。

シニア 案件が合わない先輩とは接点が無くなってしまうのはリモートワーク特有の問題だね。


効率化の影響

シニア リモートワークの話が出たけれども、こういった効率化によってデザイナーへの教育にも変化が必要になるよね。

中堅 リモートワークを導入している中で、例えば新人に教育をするとなると、最初の一定期間は対面で指導したあとにリモートでの指導に移行する、という考えが多いと思います。ただ実際のところ、最初の段階ではまずツール操作を覚えてもらう必要があり、この部分は対面の必要が薄いように感じています。むしろ、そのあとの段階のほうがコミュニケーションを密にする必要があるので、対面にしたほうがよさそうです。

シニア なるほど、思っていたのとは逆だったと。

中堅 はい、場合によっては、ツール操作の習得は外部の講座に通ってもらったほうが、教える講師もプロなので却って向上が早いかもしれません。

若手 たしかに、普段使っている機能は説明出来ますが、あまり使わない機能は正直教えられないです。

シニア 最近導入されたフレックス制の影響はどう?

中堅 フレックス制のおかげで実際に勤務の柔軟性は増しています。例えば一時期に過大な業務時間だった場合、作業が手薄になったら業務時間を減らす判断が可能になります。結果として自身の心身健康維持に寄与しますし、会社としても業務時間の最適化に繋がるため、これ自体は問題ありません。

シニア そうだね。

中堅 ただ、以前なら手が空いた場合も定時まで勤務する必要があったので、その時間を気になっていたことの調査や新しい技術の習得に宛てていました。そんな感じで以前は「空いた時間」が降ってくる場面があったのに対し、フレックス制のもとでは作業が手薄になっても意識的に時間を捻出しないと「空いた時間」が手に入りません。かといって残業が必要なほど忙しくなれば自分のスキルアップに充てる時間の確保は更に難しくなります。

若手 いわゆる「木こりが斧を研ぐ時間が無い」ってやつですよね。会社の業務の一環としてスキルアップの時間を指定してもらえると助かるんですけど…

シニア デザイナーへの教育については、手取り足取り教えられるモノ、日々の中で掴み取ってもらわないとダメなモノがあって、教える側はそれぞれに合ったレクチャーの仕方を研鑽する必要があるということだね。そしてリモートワークやフレックス制といった新しい勤務形態にあった形を模索する必要もありそうだ。これは簡単には答えが出ない難しい課題だね。

さて、時間になったので今回はここまでにしようか。


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SIFCA TALK 第3回は「デザイナーへの教育」について語ってもらいました。

次回もお楽しみに。


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