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【オタクのガクリ Vol.3】リズムをもっと楽しもう! Part.3「ラテンのリズム入門」

こんにちは、蜷川です。

普段はアイドルとポップスを主食としながら社会人をしています。

この連載は、普段聴いている音楽に対する解像度をちょっとだけ上げて、楽しみ方をちょっとだけ増やしていこう、という目的の連載記事となります。

今回は連載 3 回目として、世界各地の音楽に特有なリズムの一つとして、ラテンのリズムに注目し、邦楽・J-POPにおいてどのような役割をもたらしているのかを覗いてみようと思います。

前回ちょっとだけ話した『カルメン』について

前回の記事では表拍・裏拍に注目したコールの分析を行いました。その中で、PPPH に対する少し発展的な余談としてサラサーテの『カルメン幻想曲』の Moderato を引用しました。

この曲の元になったジョルジュ・ビゼーによるオペラ『カルメン』およびその元ネタであるプロスペル・メリメの小節『カルメン』はスペインを舞台とした大恋愛の物語で、まだ観たことがない方はぜひぜひ見ていただきたいです。

(普通に恋愛ものエンタメとして面白いし、ちゃんと負けヒロインという概念も出てくるので。洗足のやつが日本語字幕もついててパッと見る分にはいい感じです)

「さーんさーんに」のリズム

さて、カルメン自体への語りはこれぐらいにしておいて、前回とりあげた PPPH のリズムを振り返ってみましょう。

上の数字はこの順に「抜いてはいけない存在感の強さ」を表していて、表拍・裏拍それぞれの効果と他と比べて

ここで、今回はちょっとだけ逆張りをしてみて③を抜いた【①②④】のリズムを見てみようと思います。

すると、次の動画のようなリズムになります。音の長さが 3:3:2 になっているので「さーんさーんに」と口に出しながら手を叩くとノリやすいかと思います。ゆったりとしたバージョンを 4 回、実際の楽譜で観られる表記としては多い早いバージョンを 4 回繰り返します。実際に再生しながら手を叩いてみてください。

このリズムですが、どこかで聴き覚えはないでしょうか。といっても料理でいうトマトぐらいの存在感なので普通に生活しているとどこかで遭遇しているはずです。

邦楽で外せない例としては、やはりポルノグラフィティの『アゲハ蝶』でしょう。ぜひ歌いだしの部分から先ほどの「さーんさーんに」のリズムで手を叩いてみてください。

「漆黒の羽」のあとの楽器のリズムと手元の「3:3:2」のリズムがぴったり合ったでしょうか?

少し近い時期の邦楽では、前回登場した TUBE から『さよならイエスタデイ』でもこのリズムを体験できます。ぜひサビでこのリズムを大量に感じてみてください。

最近の海外で有名なトラックでは、エド・シーランの『Shape of You』ではこのリズムが曲全体を通して流れているので、ぜひ手元で叩きながら MV 終盤の謎力士バトルをご覧ください。

アニソン・アイドルソングの中でも用いられていて、夏を感じさせる曲や、どこか懐かしさを与えてくれる曲に多く見られるかと思います。実例を見ながら身体と耳をなじませていきましょう。

Mermaid festa vol.2 ~Passionate~/高坂穂乃果 (CV.新田恵海)、星空 凛 (CV.飯田里穂)
「くるっとくるっとくるっと」のところ。

太陽キッス/放課後クライマックスガールズ
サビの終盤の「ダウンタウンでマイフレンド大募集 ブレザーで大草原大走行」あたりのリズム(それにしてもここの歌詞すごすぎ!)

しゅがーはぁと☆レボリューション/佐藤心(CV:花守ゆみり)
しっちゃかめっちゃかな曲ですが、Bメロのコーレスやサビのコール入れるところは基本的にこの「さーんさーんに」のリズムです。

White Story/SHHis
ちょっと懐かしさを感じるテイストだとこの曲がオススメ。最初のアコーディオンから始まり、『Shape of You』のように曲全体を通してこのリズムが続いています

ハナムケのハナタバ/コメティック
サビメロのリズムのほとんどが「さーんさーんに」。個人的には先述の『さよならイエスタデイ』のような曲という認識があります。(曲のテーマ的にも)


特に最後に紹介した『ハナムケのハナタバ』は、実際に公開されたのも昨年末(CDリリースは 2024 年 4 月 3 日)で、サウンド的にも最近のボカロ曲的なテイストを持ち合わせているのですが、どこか懐かしい雰囲気を醸し出してくるのはこのリズムがそんな表現効果をもたらしているところも十分にあるかと思っています。

Tresillo とラテンのリズムの広がり

さて、これまで「さーんさーんに」と呼んできたリズムですが、一応正式名称としては "Tresillo"(トリージョ)と呼ばれるリズムで、イタリア~スペイン・ポルトガルからラテンアメリカのブラックミュージックのリズム感が融合していく過程で、その文化において特徴的なリズムとなっています。

詳しい歴史をしてもいいのですが、そこは気になった方が各自で調べていただくとして、最終的な事実としてはラテンアメリカ、特に日本で比較的なじみ深い地域としてはブラジルの音楽でもよく見られるリズムです。

この Tresillo を取り入れたリズムパターンのシリーズとして「クラ―べ」というものがあり、使われる地域や諸々の歴史背景と合わせて「〇〇・クラ―べ」という名称がついています。

それでは早速例を見てみましょう。

ソン・クラ―べ

これはキューバで主に用いられる、クラ―べの中でも最も基本的でポピュラーなリズムになっています。先ほどの例たちのなかでは、『しゅがーはぁと☆レボリューション』でよく感じることができたかと思います。

ボサノバ・クラ―べ

いろいろなクラ―べのパターンがあるのですが、個人的に好きという理由も含め手にはなるのですが、今回はボサノバ・クラ―べをピックアップして紹介します。

ボサノバ自体の歴史に詳細ついては割愛しますが、「なんかカフェとかで流れていそうなアレ」のイメージがあるかと思います。

たとえば有名なところではこの曲とかでしょうか。アントニオ・カルロス・ジョビンの『Wave』はボサノバの歴史を知る上でも必ず押さえておきたい一曲ですが、シンプルに良い曲なのでぜひ聴いてみてください。

さて、話をボサノバ・クラ―べに戻すと、実はこのリズムパターンには 2 つのパターンがあります。

一つは「3:2ボサノバ・クラ―べ」と呼ばれるもので、これは先ほどのソン・クラ―べのリズムパターンのうち最後の音をちょっとだけ後ろにずらしたリズムになります。

もう一つのパターンは「2:3ボサノバ・クラ―べ」というもので、形としては先ほどの「3:2ボサノバ・クラ―べ」の前半と後半を逆にしたものになります。

両方ともちょっとだけ難しいリズムになっているので、もしなじまなかったら以下の練習動画で手をなじませてみてください。

このボサノバ・クラ―べですが、かなり効果的に用いられている曲としてアルストロメリアの『明日もBeautiful Day』を聴いてみましょう。

がっつりセリフが入る曲ですが、イントロからAメロにかけてパーカッションは「3:2ボサノバ・クラ―べ」が、一方でボーカルは「2:3ボサノバ・クラ―べ」が用いられています。

パートごとに別のリズムを感じるのはかなりハードルが高いかと思いますが、ぜひそれぞれのリズムだけを叩くモードになって一つずつ確かに盛り込まれていることを感じてみてください。

この曲の「なんだかカフェで流れていそう」感はサウンドだけでなく、こういったリズムからボサノバ的なイメージの想起をさせる効果によるところも少なからずあるのではないでしょうか。

(ぜひ Off Vocal 版も聴いていってください。サビのベースのリズムはどうなっているでしょうか?)


おわりに

今回は世界のリズムを知る編の例としてラテンのリズムを取り上げました。

各地域の音楽の特徴を考える際に、使われる楽器の違いやメロディ―の違いに目が行きがちですが、リズムパターンにもいろいろな文化的な歴史が詰まっています。(もちろん楽器・メロディーとリズムは引き離せない概念であるので相互に絡んでくるものではありますが)

邦楽や最近の K-POP では世界のいろんな音楽の要素を取り入れた曲が数多く存在します。「この曲は北欧の民謡っぽい」、「あっちはなんだかインドっぽい?」などなど、色々な音楽を聴いていると世界の音楽を感じるかと思いますが、それを感じる理由をかみくだいていくといろいろな側面に文化や歴史が潜んでいることがわかったりします。

いきなりそんな歴史を全部学んで、音楽も勉強して……というのはどう考えても難しすぎで、とにかく体験をするというのが本連載の趣旨でして、この記事をきっかけに曲を聴くうえでのアンテナが1本増えたら嬉しいです。

アンテナで感じ取ったものに興味を持って、そのきっかけから深入りするためにはこんな知識が必要なのか、というのを各々で体験してくれたらと思っています。

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ということで、リズム編「リズムをもっと楽しもう!」シリーズは今回で終了となり、次回は和声・ハーモニーの観点についての入門シリーズを始めます。

コード進行って何?とかそもそも音階ってなんだっけ?というところから始めていき、なんか音楽詳しい人が良くしゃべっている話もちらほらと出てくるので、ぜひそちらもお楽しみに。

それでは~。

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