見出し画像

【オタクのガクリ Vol.2】リズムをもっと楽しもう! Part.2「よくあるコールの表現効果」

こんにちは、蜷川です。

普段はアイドルとポップスを主食としながら社会人をしています。

この連載は、普段聴いている音楽に対する解像度をちょっとだけ上げて、楽しみ方をちょっとだけ増やしていこう、という目的の連載記事となります。

今回は連載 2 回目として、前回の内容を踏まえてオタク現場でよく聴くコールのリズムがもたらす表現効果、つまりコールのリズムによってどのような印象が与えられるのかを実例を見ながら考えていこうと思います。

さらっと前回の復習

復習知識としては、前回 Vol.1 で注目した「表と裏」の概念を思い出しておきましょう。

表拍が持っている表現効果は安定感のある・地に足の着いた印象なのに対して、裏拍はテンションがあがる・ノリノリな印象を与える効果がありました。

さらに、この表拍と裏拍の表現効果は、2分音符、4分音符、8分音符……いろいろな音の長さの単位で考えることができることが重要なポイントでした。

いろいろなコール

合いの手の基本は裏拍

前回の記事中でも見ましたが、「 ハイッ ハイッ」や「 オイッ オイッ」の合いの手は基本的に裏拍です。

裏拍のテンションが上がる効果を活用し、曲の中でボルテージをふつふつと上げていく表現効果を観客側からも作り出し、行くぞ行くぞというテンション感へ会場全体で上げていくことができます。

声でのコールが入るのは、バンドサウンドだったりかなりハイテンポな曲であることが多いのですが、逆にそこまでハイテンポではない曲だったり、ロック調ではない場合には声ではなくクラップになることがあります。

ド級のしっとりバラードでない限り、現場に行って曲にノる、リズムにノるといったら基本裏拍でやっておけば大コケすることはない(はず)です。それぐらいライブにおける裏拍の表現効果は演者と観客の一体感を作るための超基本的な共通感覚になっているとも言えるでしょう。

いわゆるスタンダードMIX、日本語MIXも基本裏拍→最後に表で着地

スタンダードMIXは以下の内容を叫ぶコールの一種です。(MIXをコールに入れるか入れないかという問題はいったんさておいての話をしていきます)

タイガー
ファイヤー
サイバー
ファイバー
ダイバー
バイバー
ジャージャー
※尺により追加される場合がある↓
ファイボー
ワイパー

スタンダードMIX

よく 1A メロの前に使われます。それぞれの単語を日本語(の当て字のような単語)で叫ぶ MIX は日本語 MIX と呼ばれ、こちらはスタンダード MIX の後や 2A メロなどで使われるなど、微妙には配置シーンが異なります。あと重要な派生形 MIX としてはアイヌ語 MIX があるのですが、それぞれを深堀していくと今回の内容へ戻るまでに時間がかかってしまうので、スタンダード MIX に注目して話を進めていこうと思います。

さて、それでは早速表拍と裏拍に分けて考えてみましょう。

前回の色分けを踏襲して、表拍を赤、裏拍を青としてみました。

一目瞭然だと思いますが、基本的には裏で MIX が打たれますが、最後の「ジャージャー」のところだけ表になっています。

ここだけ表になることで、表の表現効果である着地した感じからMIXとしての一区切りを感じさせ、イントロが続く場合は次の MIX に進み、そのまま Aメロに入る場合は「オタクが叫ぶのはここまで」という曲のでの句点のようなオチをつけることでステージ上の演者にターンを渡すことができるなど、そのカタマリの終わりをしっかりと演出することで次の表現の始まりをくっきりとさせることができるところが印象的です。

PPPHがもたらす効果

さて、次に PPPH についてみていきましょう。こちらもかなり有名・代表的なコールで、現代のアイドルに限らず、さかのぼれば昭和の歌謡曲までさかのぼって確認できる伝統的な合いの手と言えるでしょう。

映像としては次の TUBE『あー夏休み』の B メロがわかりやすい例だと思います。

このリズムを譜面に起こしてみると次のような形になります。

ここで、PPPH がもたらす 2 つの表現効果についてみていこうと思います。

Ⅰ. 表拍に重きを置くコールの表現効果

先ほどほとんどのコールは裏拍で大丈夫、と言いましたが、PPPH は早速それを裏切る例となっています。B メロの位置づけ的に A メロからそのまま裏拍のテンションを引き継いでノリノリでゴリゴリ進めるパターンも結構ありますが、その一方で B メロでいったんクールダウンというか、壮大な印象を与えて、B メロで溜めて溜めてのサビでの解放というカタルシスを演出するための仕掛けとして使われることも多分にあります。

PPPH はそんな凹のシーンとよく合うのですが、1 拍目と 3 拍目の表拍それぞれに手拍子が入るために表拍の落ち着いた、地に足の着いた表現効果が色濃く出るコールになっています。

ただ、単純に表拍だけだともったりと重くなってしまうため、裏拍のスパイスも入っています。3 拍目の手前の八分音符と 4 拍目の四分音符があり、そのおかげで重くなりすぎないようになっていますね。

しかし、もしこのリズムを簡素化しなさい、という問いが出された場合に、消去法的に残しておかなければいけない優先度

① 1拍目の四分音符
② 3拍目の四分音符
③ 4拍目の四分音符
④ 2拍目裏の八分音符

の順になっています。試しに①②③④全部、①②③、①②、①と要素を 1 つずつ残して手を叩いてみてください。

このように、優先度で生き残りやすい①②はともに表拍と、PPPH のエッセンスは表拍にあることがわかるでしょう。

Ⅱ. 1 小節にわたる長い単位のコールがもたらす雄大さ

PPPH のもう一つの特徴として重要なのが、コールの最小単位(繰り返しの 1 カタマリ)が 1 小節にもわたっていることです。

これまでの裏拍の合いの手と比較すると、単純にコールの繰り返しの 1 カタマリは以下のように PPPH の方が長さが 2 倍になっています。

このようにコールの長さの単純に大きくなっており、この大きさは聴いている立場のなかで雄大さ・壮大な大きいスケール、包容力のある印象を与えてくれます。

用いる内容としては少し異なるのですが、似たような表現効果をもたらす技法としてハーフテンポと呼ばれるものがあり、これは特にドラムのリズムパターンをこれまで細かかったリズムから裏拍などの細かいリズムをなくすことで、同じ BPM ながらリズムの最小単位が 2 倍になってゆったりとした曲に聴こえるようにするものになります。好例としては、『Palette』や『Resonance⁺』のサビがあげられるでしょう。

ハーフテンポについてもそうですが、我々の感覚は、このようにリズムの最小単位を無意識のうちに感知して、それが長いとゆったりと壮大なイメージ、短いとテキパキとしたハイテンションなイメージを感じるようになっているのです。

以上をまとめると PPPH は

Ⅰ. 表拍の落ち着きの効果
Ⅱ. コールの最小単位が 1 小節と長くなるテンポ認知の効果

の 2 つの観点からその壮大さ、そしてサビに向けた「溜め」の効果を演出することができるといえるでしょう。

余談:PPPH と「カルメン」

早速ですが次の曲を聴いてみてください。

おそらくどこかで聴いたことがあるかと思うのですが、これはサラサーテの『カルメン幻想曲』の Moderato と呼ばれる部分で、譜面上では PPPH と同じリズムが繰り返されて使用されています。

が、あまりそのように感じない方が多いかと思います。それはどうしてでしょうか?

この原因の一つに、カルメン幻想曲と PPPH では同じ(相対的な)音価の並びでもその繰り返しの始点を別にとらえることで別のもののように認識していることがあげられると思います。

同じリズムパターンではあるのですが、PPPH とカルメン幻想曲では以下の図のように異なるカタマリとして認識しているでしょう。

上が PPPH の 1 カタマリの自然な認識、下がカルメン幻想曲の Moderato での典型的な認識
※今回は表示を統一して比較しやすくするためにカルメン幻想曲の Moderato は本来 4 分の 2 拍子であるところを 4 分の 4 拍子として表記しています。

このように同じリズムパターンでも、メロディーラインだったり、鳴らすパーカッションによる効果によって、どこをパターンの始点やアクセントとするかを変えることができ、その選択によっては同じリズムパターンでも異なった表現効果をもたらすことが可能になるのです。

演習問題

今回は合いの手の基本と PPPH の表現効果の復習かつちょっとした応用的な例題として以下の曲、放課後クライマックスガールズ『ハナサカサイサイ』のコールを分析してみましょう。

Ⅰ. イントロの「セイッ」と「イェーイ」

ここは基本的に裏拍の「セイッ」とそのほぐしである「セイヤー」が裏で入り、A メロの直前には表の「イェーイ」で締めくくって A メロに引き渡す形になっています。

なお、1 サビ後の同様のパートでは 7 小節目にさらに「セイッ」の裏コールが追加され、2A 冒頭の疾走感のあるアレンジへの加速感をここで予感させる構造になっています。

A, B メロのコールの表現効果はこれまでの内容を踏まえての考える問題として読者へ預けるとして、ここでは B メロの最後からサビにかけてでてくる「わーっしょい」のコールについて考えてみましょう。

これは、ここまで読んだ方だとお分かりかと思いますが、このコールのリズムは PPPH の H がない、「PPP」のリズムになります。

ただ、ここでの表現効果は、もちろんサビで落ち着くわけでもなく、太鼓のような地に足の着いた力づよさを与えてくれる効果がより前面に出ていると考えられるでしょう。

今回のまとめ

今回は前回の表拍・裏拍の表現効果を軸に、よくある合いの手や MIX、そして PPPH がもつ表現効果についてみてみました。

必ずしも今回のお話の内容が通用するわけではないということに注意は必要ですが、多くの場面で裏拍のもたらす「アゲ」の効果や、表拍の与える重厚感などをコールの中でもぜひ意識してみてください。

また、コール外でもリズムにノる際に、「これはリズムのカタマリが長くなっている……!?」などが意識的に感じられるとより気持ちよく曲に乗れるようになるかと思います。

次回は少しオタク側の視点から外れて、最近のアイドルポップスで見られる世界の様々なリズムについてフォーカスして、いくつかのリズムパターンについて各論的に見ていこうと思います。

また次回もお楽しみに。

それでは~。

🐚

CDかシャニマスのフェザージュエルに濃縮還元されるサポート