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名作映画『MODE MOOD MODE』の転機(a bridge between scenes)

ようこそ。この記事はUNISON SQUARE GARDEN 7枚目のフルアルバムMODE MOOD MODEリリースから5周年に向けたカウントダウン企画「MODE MOOD MODE SENTENCE」の1記事目です。12人の文字書きが12の楽曲を自由に語ります。

わからずやには見えない魔法を、何度でも



次のアルバムが出てなおメンバー自身が最高傑作と位置付けているアルバムMODE MOOD MODE。01-Own Civilization (nano-mile met)「差し出されたは噛み千切るけど」から最終トラック12-君の瞳に恋してない「僕の握っていいから」へ、またそこに至るまでの曲でも「手」をキーワードに物語を進めていった作品であることは周知の事実である。

「手」という一つの主題を横たえて一貫性を作っているため、MODE MOOD MODEは単に12の名曲を並べた総体として存在するのではなく、アルバムという一つの「作品」として高い完成度を誇る。

そんな隙のないアルバムに12の書き手がどう挑むのか。
MODE MOOD MODE SENTENCE 開演。最後までよろしくお願いします。



MODE MOOD MODEは名作映画である。

MODE MOOD MODEに収録されたシングルは4曲。シングル曲はアニメ等のタイアップとして楽曲そのものやバンド文脈以上のコンセプトを内包する。ゆえに、UNISON SQUARE GARDENのアルバムを理解する際に、世に広く知られたシングル曲ではない純粋なアルバム曲に着目することに意義があるように思う。

わかりやすくするため、シングルの位置に目を凝らす。
まず04-fake town baby(血界戦線 & BEYOND)と06-Silent Libre Mirage(男水!)、間には05-静謐甘美秋暮抒情が見つかる。09-Invisible Sensation(ボールルームへようこそ2期)と11-10% roll, 10% romance(同1期)には10-夢が覚めたら(at that river)が挟み込まれている。

12曲があれば12!通りの楽曲の並べ方があって(!)シングルを置く場所ももっと離すことだってできる(12C4)。それなのに、シングル2曲でバラードを挟む構成をアルバム中の二箇所に作っている。(!)この配置に着目して先に進む。(高校数学とは琥珀が樹液だった頃よりずっと前にお別れを告げてきているので間違えていたら優しく教えてください!)


さて、私はカタカナ表記が多く、横文字を使う際にも英語が少ないことをUNISON SQUARE GARDENの楽曲の一つの特徴として捉えている。それぞれシングル2曲に挟まれた静謐甘美秋暮抒情と夢が覚めたら(at that river)を見ていくと、どちらの楽曲も例に違わず、いくつかの横文字単語のうち多くがカタカナで書かれており、一部のみが英語表記されている。

frame out 両手にあった景色が零れてしまう
Flashback of that river


別のアルバム曲にも目を向けたい。MODE MOOD MODEで最後に収録の決まった曲は08-フィクションフリーククライシスだと言われている。隙のある人がモテると言われるように、完璧すぎる音楽の集合体もきっと親しみやすさを失ってしまう。そのような経緯で差し込まれた問題児、「自意識がクライシス迷子!」x7の歌詞を深読みするのは最早無粋では?とも思われるけれども、臆せず踏み込もう。意味不明な世界の中にもいくつかのテーマが見つかる。例えばこれ。

エンディング向かおうとしてんじゃねえよ
ディレクターズカット
・不本意のクランクアップ
本編に間に合わなくても



フィクションフリーククライシスが埋めた、MODE MOOD MODEを最高傑作として完成させるための最後の隙間が、単に「肩の力を抜ける曲」の枠ではなかったとしたら?








シングル曲の間、重要な繋ぎの場を担う二曲に立ち返る。

frame out 両手にあった景色が零れてしまう
Flashback of that river

フレームアウト映画・テレビの演出用語で、登場していたものが画面の外へ切れること
フラッシュバック映画・文芸などの技法。物語の通常の時間進行を一時中断して、過去のシーンを挿入する。



更にMODE MOOD MODEが迎える大団円であるところの12-君の瞳に恋してないのではMVが公開されており、「撮影風景」を撮った作品に仕上がっている。(シングルのInvisible Sensationも同様である)




以上を踏まえ、私にはMODE MOOD MODEが「手」をキーワードに物語を進める「映画作品」に思えてきた。

一貫したコンセプトのある作品は強い。個性の強い楽曲群を一枚に収めた時に、アルバムを単に複数曲を収める「収納ボックス」で終わらせず、一つの「作品」として成立させる軸がある。その軸が随所に見つかるからこそ、特に意識せずともMODE MOOD MODEはまとまりのある一枚のアルバムとして完成度が高く感じられるのだと思う。









MODE MOOD MODEの切り口として、「MODE MOOD MODEは名作映画である」と突拍子もない解釈を持ち出してきたのは他でもない、「映画みたいに」と歌うこの曲を語るためだ。





どうか 映画みたいに

#MMM_SENTENCE 1曲目は夢が覚めたら(at that river)





夢が覚めたら(at that river)に登場するのは「僕」と「君」。二人の登場人物を想定して私が特に美しさを感じるフレーズから物語を覗き込む。


琥珀色の夢はちょっとくすんじゃったよ

青空の下、車でいっぱいの道路という具体的な情景を思い起こさせる「スカイブルーの渋滞」に対して、夢は目に見えない。しかし、太古の樹液が時間をかけてできた化石である「琥珀」を形容詞として使うことで、この曲における「夢」が遥か昔からじっくり育て上げた、宝石のようにきらきらと輝いた大切な存在であると明示する。

こはくいろの」とたった6文字を重ねるだけでタイトルにもある「夢」が普遍的な言葉から一気に深みのある世界の代名詞として輝き始める。言うまでもないことであっただろうが、このように言葉に物語を宿す力はやはり魔法のように感じられる。



ネオン消えて点いて繰り返して いつかは

ネオンが「点いて消えて」ではなく「消えて点いて」なのである。繰り返しの始まりを求めるのはにわとりたまごになってしまうのだろうけれども、この曲ではネオンが「消えて点いて」を繰り返す、そこに意味を探してしまう。

写真は切り取ったその瞬間を過去にする行為だ。続く「この雨も星もディナーも涙も フォトグラフみたいになって」は美しかった出来事が過去になっていく様を描く。同じフレーズの繰り返しが多い4分と少しの中で、一度きりゆえに鮮烈な印象を残すこの部分。

ネオンが消えて、点くまで。繰り返した時間は二人でそっと夢を語った甘美な夜ではなく、現実に足をつけて、それぞれの抱く、輝く夢に向かって手を伸ばし続ける昼間の時間なのだ。

目覚めのそのあとには互いに前向きにちゃんと歩く。それなのに、気づけば二人の歩む道は交差したまま、折れることなく再び離れていく。二人で過ごした時間は過去になっていく。夢が覚めたら(at that river)で描いたのはそんな転機が印象的な物語ではないだろうか。

昨年10月に出た待望のライブ音源では、「すれ違ってたから」で特に顕著にコーラスを堪能できる。この曲で二人の存在が明瞭に浮かび上がる瞬間は彼らが「すれ違ってた」ときなのだ。こんなところからもどうしようもなく僕と君の差が広がっていく様子がにじみ出る。


難解な言葉を重ねた作品ならばまだしも、平易な言葉で紡がれたシンプルな曲の美しさを語ろうというのには少し無理があった。それでも、この曲を私なりに紐解いていくと、夢が覚めたら、夢が夢としての形と色を失い過去のものになっていったら、そんな瞬間が持つ一種の喪失感、もうそこにはないものが帯びた美しさに落ち着く。

雨も、星も、ディナーも、涙も、過去の思い出となってしまったが、その瞬間を見返せる程度には前向きで、最後には「ずっと愛してる」と言えてしまうあたりに、UNISON SQUARE GARDENらしさを感じる。



この曲は勝手に主題歌シリーズとしてある映画作品に着想を得て書かれたと囁かれている。確かなソースはない。しかし、私自身この言説を受けてから映画を観て、確かに映画に沿った聴き方ができると納得した。既に観たことのある人も多いだろうし、これから観ようかなという方の楽しみも、他の作品に縛られない自由な発想でこの曲を聴きたい方の楽しみも奪いたくはないので、今回はあまり具体的に踏み込まなかったが、気が向いたらぜひ作品から切り崩す方からも楽曲を楽しんでいただきたい。



激情のバラードが作る転機

MODE MOOD MODEが壮大な映画作品だとして、10曲目ではどのような局面を迎えているのだろうか。

MODE MOOD MODEでは同じアニメの2期作と1期作、共通項を持ちそうな2曲をあえて離さず、その間を「夢が覚めたら(at that river)」で繋いだ。

起承転結で言えば、間違いなく「転」を演じるのがこの夢が覚めたら(at that river)である。理由は、明るい曲調に挟まれたバラードとして一息つく暇を与えるからだけではない。言葉を見ても、間違いなく盤面をひっくり返すポジションを負っているといえる。

・どうしても消えないままの 残酷時計は(09-Invisible Sensation)
・時計の針を止めて目を閉じたのに(10-夢が覚めたら(at that river))
・どうやって呼吸をしてるのかわからないまま日々がrolling playingしていく(11-10% roll, 10% romance)

・君が何を奏でても大差ない、ねえそうだろう?(10-夢が覚めたら(at that river))
・you see the light! 奏でたまえ!ねえ(11-10% roll, 10% romance)

Invisible Sensation、10% roll, 10% romanceが止まらない時間の中での「今」を描くのに対し、時間を止めて「過去」を振り返るのが夢が覚めたら(at that river)だ。爆イケの「奏でたまえ!」はもちろん、単体で出てきても誰もが高揚する言葉なのだろう。けれども、一つ前の「何を奏でても大差ない」があるからこそ、「奏でたまえ!」がより劇的に効いてくる。

幸せな読後感を常に与えるUNISON SQUARE GARDENが作る名作映画。映画では「この答えが少しは報われて」、「この瞬間だけは意味がありあまる」というが、映画に必要なのは明るい側面だけではない。一度立ち止まる時間があるからこそ、作品が現実に即した力を持つし、作中の名シーンがより引き立つのだ。もちろん、前後の曲たちもそれぞれ浮ついていない魅力が一曲の中にある。それでも、一度時の流れや考え方を裏向きにした「夢が覚めたら(at that river)」で橋渡しすることで、「シングル曲」が一つの作品としてだけではなく、アルバムの1ピースとして一層輝いてくる。



昨年前半に回った自主企画対バンツアーfun time Holiday 8は物好きたちに向けた実質の「kaleido proud fiesta」お披露目ツアーとなったが、先述した通り、これは「夢が覚めたら(at that river)」のお披露目ツアーでもあった。2018年のリリースから4年越しの大抜擢は主役を食いかねない衝撃だ。

MR. アンディから余韻を残さず吸気、始まったこの曲は会場の空気を一転させ、激流で飲み込み、シームレスに続いてきた一幕を下ろさせた。力強い演奏によりアルバム音源では隠された激情を前面に出しながらも、他の曲たちとは一線を隠すバラード枠の曲として流れを転じさせた。

夢が覚めたら(at that river)に急な招集がかかった理由は、やはり「kaleido proud fiesta」という徹底的に前向きな曲がより映えるよう、ひっくり返した時に都合が良かったからではないかと思っている。

・さよなら街灯り/この街を誇る
・時計の針を止めて/トップスピードは更新中
・夢が覚めたら/夢を見続けないか

シングルとシングルの間、いわば「繋ぎ」とも思われそうなポジションとして世に出されていながら、こうしてツアー全体の流れを転じさせる他にはない力を持っているのがこの曲だ。MODE MOOD MODEという一作品を観終えたときに、他の11曲と同様に欠かすことのできない名シーンとして景色が頭に浮かんでくる。大好きな映画の何気ない1シーンを慈しむように、「夢が覚めたら(at that river)」をこれからも大切に聴くことができたらいいなと思う。



終わりに

今回も飽きもせず「そろそろ止めたらいいのに」と言われてしまいそうな想像を広げてきた。その中で、いつもながらこんな考え方もあるんだなと、気に入って楽しんでいただけた箇所が一つでもあれば嬉しいばかりである。書いてあることは全部妄想の嘘ですが。

書き終えた今なお、MODE MOOD MODEという完全芸術に要らぬ手を出して跳ね除けられた思いは消えないが、これにてこの文章はMODE MOOD MODE SENTENSEという壮大な作品の1シーンとして幕を下ろす。明日から続くこのブログリレーがMODE MOOD MODEという偉大な作品にどう切り込んでいくのか、どのような回想シーン、あるいは枠に囚われない話を見せてくれるのか楽しみなばかりだ。より強力な書き手が控えているので、きっと誰かが私の無念も晴らしてくれるだろう(書き終わったので後続のハードル上げ放題)。


憂鬱な日に再生するには少しカロリーが高すぎるような、パワーの有り余るところが嫌いではないです。一足早いですが、MODE MOOD MODE愛され続けて5周年おめでとうございます。

2023/01/24追記
#MMM_SENTENCE 閉演。
楽しい12の魔法をありがとうございました!


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