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【日記】アートワークから『XIIX』を考える

アルバム『XIIX』の歌詞カード写真撮影地を訪れた。聖地とは呼べないような、聖地巡礼未満を経てのディスクレビュー未満、です。
なんとなく思うところはあるのだけれども、問題提起したまま結論は書かない。


アートワークと私

私は本を読むこと、音楽を聴くことが好きだ。

そして、本を読むように歌詞を読むのが好きだ。

本を読めば惹かれた一文を抜き書きして大切に取っておくように、歌詞を眺めて音楽と切り離しても素敵な1フレーズ、言葉に出してみたい1行を探す。

要は具体的に何をしているのかというと、歌詞カードをずっと読んでいる。Googleに曲名を入れたらまず歌詞が表示される、サブスクで曲を再生すれば曲に合わせて歌詞が流れる、そんな時代に、執拗に歌詞カードを眺めている。

執拗に_どの程度しつこく読めば執拗に歌詞カードを読んでいると言えるのかはわからないけれども、歌詞カードをスキャンして通勤中にそのPDFを開いて読んでいる人はあまりいないのではないかと思う。私はそういう人だ。

わざわざそんな手間をかける一番の理由は、単に閲覧性に優れているからだ。Googleやアプリは一画面に一曲全ての歌詞を表示できないことがあるが、歌詞カードは大抵の場合正方形の中に全ての言葉が収まっている。

次に、ネットの情報は誤っていることがある。曲名に誤字がある、歌詞カードではわざと伏せられた歌詞まで明記されている、もっと細かい話で言えば、ひらがな/漢字や、フレーズの繰り返しの表記が異なる。

「音楽を聴く」行為に視覚情報がどれだけ重要であるかは本当に人によって意見が異なるだろうから、文字表記なんてそんな瑣末なことを、と思う人もいるだろうが、アーティストが丹精に手がけたオリジナルの作品が屈折して伝わるのは勿体無いなと思う。だから、丁寧に歌詞カードを眺める。文字と併せて写真やイラスト、色使いを眺める。

また、ジャケット、歌詞カード等のアートワークは楽曲を作ったアーティスト自身が手がけたのではなくイラストレーターやフォトグラファー、デザイナーといった別のアーティストに委託される部分が多いだろう。凝ったアートワークのうち、どこまでが音楽を作ったアーティスト自身のこだわりなのかわからない。
それでも私は、楽曲を作った人がどういう思いでどのような作品を依頼したのか、あるいはアートワークを委託されたアーティストたちが楽曲をどう解釈して作品を作ったのか、そういう答え合わせのできない芸術を享受する時間が好きだ。


アルバム『XIIX』について

7月26日、好きなバンドXIIXが3枚目のアルバム『XIIX』をリリースした。

ジャケット。荒涼な平地、光の濃淡だけを映し取った雲のない空、中心に配されるのは物理的にも、自然の風景に対して雰囲気的にも浮いた、赤い歯車のパーツから成る人工の立方体。

Instagram等で「gear cube」と検索すればこの立方体がどのように形を変えるのかを動画で確認できる。端をつまんでぐるぐる回すと一度全てのパーツが裏返り歯車が外へ牙を剥く。そして、さらにぐるぐると回していくと、元の均整の取れた立方体に戻っていく。

この色や形に込められた思いはなんだろう。


歌詞カード。ジャケットの立方体にも似た赤無地のシンプルな表紙。右中央に小さく「XIIX」とだけ書かれている。1枚目White White、2枚目USELESSの歌詞カードはジャケットと同じデザインであり、先行作との違い、この作品だけのこだわりがある。

左綴じの表紙をめくると、中身は表紙と向きが異なり歌詞を読むために冊子を時計回りに回転させなければいけないことに気づく。横に開くのではなく上綴じの状態で縦に読ませたいのであれば、表紙の文字もその向きにしておけば良いわけだが、そうはしていない。私たちは90度の視野転換を受け入れて先に進む。

さて、一度アートワークを離れて楽曲の話をしよう。アルバム『XIIX』は1曲目『魔法の鏡』「どうでもいいや カガミヨカガミ」の歌い出しから始まる13曲。収録曲の3倍程度の曲を作り続けた制作期間を経て、基本的には出来のいい順に収録を決めた、いわば2年半のベストアルバムだという。

ベストアルバム、すなわち始めから一つのテーマを据えて制作された楽曲群ではない。しかし、『XIIX』は「鏡」をキーワードにした作品と呼べる一枚だ。
「鏡に映った顔はまた自分を睨んでいる」という12曲目『タイニーダンサー』制作後に一部作詞を依頼したandrop内澤さんより上記「カガミヨカガミ」の言葉を受け取り、運命めいたものを感じたそうだ。
『正者の行進』に「合わせ鏡の愛に囚われた憎悪」と書かれている他、歌詞に直接「鏡」とは書かれてはいないが、コミカルなMVにしっかりと鏡を使った一幕のある『月と蝶』。月を光を反射する鏡と捉えるならばさらにキーワード「鏡」を敷衍することができる。


聖地巡礼未満

アートワークの話に戻る。以下は実際に歌詞カードの写真3枚分の撮影地へ赴いた記録。場所の説明はないし、レポートではない。

❶うらら

特徴的な三角形の螺旋階段を目一杯に映した上に歌詞を並べられたのは、10曲目『うらら』。

自ら「ジェットコースターのような展開の曲ができた」と語っている通り、Aメロ、Bメロ、サビへと転がったサイコロのように見える面が変わり、ダイナミックに表情を変えていく一曲だ。

キャッチーでポップなメロディーと対照的でどこか影のあるうららの歌詞には、アルバム『XIIX』の中でも特に心を惹きつけられた。心を惹かれるままページをじっくり眺める。


まず思いついたのは「堂々巡りこのありさま」という歌詞。

しかしもしかしたら、ぐるぐる巡る階段を見下ろした写真は「たった一瞬で恋に落ちた」、「そっと影を落としていく」といった「落ちる/落とす」の表象であるかもしれない。

撮影地で私は懸命に階段から腕を突き出して三角形の中央にスマホのカメラを向ける。同行者に「落としそうで怖い」と話しかける。5階から地下1階まで通ずるこの階段の中央をすり抜けていけば、きっとスマホは無事では済まないだろう。そう考えるとこの写真が「壊れちゃう普通に」にインスピレーションを受けていたとしても納得がいく。

この場所に立って、アートワークの景色を眼前に見下ろして、作曲者、写真家、誰のこだわりかはわからないが、アーティストが伝えようとしたことに思いを馳せる。

それにしても上記頭に思い浮かべた歌詞は、一般的な「円状の螺旋階段」でも表現できるのではないか。

曲が見せる面をくるくると変えるように、転換点と線がはっきりとしている三角形を選択したのだろうか。
3つの頂点、3つの状態を行ったり来たりする。これから拠点が3ヶ所になることでも暗に示したのだろうか。
それとも特に含みはなく、単に珍しい建造物に面白みを見出したのか。
そんな考えの堂々巡りに陥る。


❷あれ/まばたきの途中

アートワーク全体には匿名性の高い景色が多いためロケーションの特定が難しい。しかし、気になり始めると色々と気になる。帰りの道中、他のページの写真もこの近くで撮られたものだろうかと話しながら散策を続けた。

暑い中を歩き回ったのでそろそろ切り上げて店に入って休もうか、ここに素敵なお店があるね、行ってみよう、と歩き始めて少しして、同行者が徐ろに「ここが、『あれ』と『まばたきの途中』の場所ではなかろうか」とスマホを見せてきた。

『うらら』は1曲で見開き1ページを使っていたのに対し、6曲目『あれ』と7曲目『まばたきの途中』は半ページずつの見開きになっている。

何と検索すれば正解に辿り着けるのかわからず諦めていた場所を見つけてもらって、二人ですぐにバスに乗り込んだ。

撮影地の写真と歌詞カードを見比べながら同行者が「鏡になっているのかな」と呟く。確かに鉄骨のアーチが上側と下側に弧を描いて円のようになっている。よく見ると、鏡面になっているのではなくて6曲目の半ページに写真を1枚、7曲目の半ページに同じ写真をひっくり返したものを1枚使っていることがわかった。


鏡は実際には映したものをちょうど対称的に映し出すものだ。しかし、このページの作り込みからの気づきを経てアルバムのキーワード「鏡」は対称性ではなくむしろ一見同じように見えるものの「非対称性」や「歪さ」、「違い」を強調するツールであったと感じるに至った。

見る角度を強制的に変える、点から点へ遷移する、鏡のようで実際に映っているものは同じではない。
そこに込められた思いはなんだろうか。
聴き心地がよくキャッチーなアルバム『XIIX』がリスナーに要求していることはなんだろうか。


❸魔法の鏡

『あれ』、『まばたきの途中』の撮影地にて『魔法の鏡』の写真も発見した。


写真一枚からはどのような場所なのかを想像するのが難しいが、薄い箱の向かい合う二側面に窓を開けて片側から反対側の窓を眺めたような格好で撮られていた。実際の形状とは少し異なるが、筒の底面から反対側の底面を見た格好と言った方がわかりやすいか。

あの場所に立って、そこから反対側を覗いてみようという発想を持てる人がどれだけいるのかわからない、とても不思議な写真だと思う。そしてその写真が『魔法の鏡』の背景に使われているのも、とても不思議で面白い。

あの窓を鏡に見立てるのであれば、鏡の外の自分と、_逆側に立った時の_鏡の中の自分とでは見える景色が異なることにでも着目すればいいのだろうか。


音楽的に、言語的に、美術的に、どの面からもまだ咀嚼しきれないアルバムを聴きながら、今日も時間を過ごす。




【余談】『夜は短し歩けよ乙女』が大好きな私、
やっとbar moonwalkに行けました。一日ありがとう

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