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ベトナムでヌルヌルになった大学生の備忘録

2018年4月、俺はベトナム・ハノイにいた。現地で友人と合流する手はずだったが、航空機の時間が合わず、12時間以上も先についてしまった。まずは滞在先を確保しなければならない。拙い英語でバックパッカーの聖地「ゴーフィン通り」に宿をとる。

勝手に修理されるサンダル

通りを抜け、車通りのある道路に出る。ハノイ大教会を横目に「地球の歩き方 ベトナム」をめくり、次の行き先を考える俺。妙な気配を感じ足元を見ると、なぜか知らないベトナム人に修理されている俺のサンダル。焦る日本人、笑うベトナム人。

「うわっ!」と驚いた拍子に足を上げてしまい、サンダルを脱がされる。本格的に修理されていくサンダル。よく見るとタイヤのチューブを靴底の形に切り、すり減った靴底をゴムとボンドで補強している。ベトナムではこんな修理方法があるのかと感心している内に、数分で修理は完了。

なぜか1,000,000ベトナムドンを請求される。現地についたばかりだからそれが日本円でいくらくらいかわからないが、少なくとも手元にある紙幣から考えると、かなり高額そうなことは分かる。拙い英語で言い合いになる。しかしこの言い合い、そもそも勝ち目はない。なぜなら旅行者にとって「ベトナムでの時間」は有限であり、現地のベトナム人にとってはほぼ無限だからだ。

結局自分が妥協できるラインで、100,000ベトナムドン(500円)くらいは渡すことになった。廃材を勝手に靴底に貼り付けてきたくせに、いい商売だ。しかし元々ぼろぼろのサンダルだったので、多少歩きやすくはなった。

ダンディなおっちゃんにオイルまみれにされる

謎の交渉に巻き込まれ疲れていた俺は、目の前にあった「Massage」の看板に惹かれ、飲み屋の2階に入っている薄暗いマッサージ屋へと吸い込まれていく。受付はダンディなヒゲを蓄え、髪をビシッと刈り上げたおっちゃん。何かメニューを説明してくれるのだが、独特な英語でよくわからない。とりあえずオススメっぽいやつをお願いする。

施術ベッドに案内される。最後に「You Want Girl?」と砕けた英語で聞かれた時、まだ大学生だった俺は見知らぬベトナム人に最大限カッコつけた。力強く「No!!!!!」と言ったのである。ダンディなおっちゃんは「OK…」と覚悟を決めたような顔になり、服をすべて脱いでこれに着替えろ、とやたら小さい紙パンツを手渡して去っていった。

わけも分からず指示に従うと、おっちゃんが戻ってくる。ベットにうつぶせになれとジェスチャーで示し、横たわった紙パンツのみの大学生に大量のオイルを塗ってくる。何が始まったんだ。小学校の国語の授業で出てきた『注文の多い料理店』にはちみつとか塗られるシーンあったな、と走馬灯のように振り返る。まんべんなくオイルが塗られ、おっちゃんによるマッサージが始まる。このまま食べられるのか…

力強く施術する手からは、どことなく緊張が伝わってくるような…。せめてBGMくらいは流してほしい。薄暗い部屋で無言のダンディと二人でヌルヌルしてるのは気まずい。しかしさすがはプロ、ベトナム行きの格安航空機で固まった肩や腰がほぐれ、みるみる元気を取り戻していく。見知らぬおっちゃんに半裸でヌルヌルにされていなかったら最高だった。こういう時、決して自分の状況を客観視してはいけない。

施術の後半、うつぶせから仰向けになる。倍気まずい。美容室みたいに顔になんかかけといてほしい。どこを見たらいいのか全く分からない。おどおどしている間にマッサージプランは完了。このタオルを使ってオイルを拭いて、そのあと着替えてくれというおっちゃん。しかしなぜか部屋から出ていかない。これはまさか、チップか…?さっき『地球の歩き方 ベトナム』を読んでいた時になんか書いてあった気がするが、サンダル修理のせいで全て忘れていた。相場が全く分からない。あと単純にベトナムドンは数字が大きすぎて、1枚1枚がいくらぐらいなのかが良くわからない(両替したときに500,000ベトナムドンを大量に渡された)。

あまりにもわからなさ過ぎて、ヌルっとした手で0がいっぱい書いてある紙幣を適当に渡す。おっちゃんは急に思いつめたような顔になり、「Thank you….」と言い残して去っていく。おっちゃんが消えた扉の向こうから、女性の声で「オーマイガー!」と3回くらい聞こえた。いったいいくら渡してしまったんだろう…。現地の相場感を掴む前の支払いは色々と難しいが、喜んでくれたならよかった。

暗くなったゴーフィン通りで

外に出ると、すっかり日が暮れている。ゴーフィン通りの路地も、現地の人たちがごった返し、なにやら夕食を楽しんでいる。ビアパブらしき所に行き、ベトナム料理と西洋料理を半々くらいで食べ、ビールを飲む。

ベトナムでは夜間の営業が難しいのか、突然警察車両らしきものがあらわれ、各店のシャッターを下ろさせていく。飲食店だけでなくホテルもである。慌てて昼間確保したホテルに戻る。友人は夜間にハノイに到着するので、事前にホテルの場所は伝えたものの、ホテルのシャッターが下りているのであればうまく中に引き入れてやらないといけない。今は12時過ぎ、友人がハノイに来るのは深夜2時ごろ…。

酒に酔った俺は、ホテルのベッドで気絶したように眠っていた。ドアがどんどん叩かれる音で目を覚ます。時計を見ると、すでに2時は過ぎている。慌ててドアを開けると友人の姿が。事前に伝えていた場所をヒントに、閉まっているホテルのシャッターをいくつか叩いてこの部屋までたどり着いたらしい。深夜のベトナムで、そこまでできるのか。俺ならあきらめて別のホテルを取ってしまいそうである。しかも先に来てホテルを取っていた俺へお礼を言うばかりで、特に怒ってもいない。気のいい奴すぎる。

アジアでのバックパッカー旅行は毎日のようにトラブルに見舞われるのだが、それが面白い。あえてトラブルに飛び込んでいくようなものだから、人によって合う合わないはあるだろう。でも笑い話に出来るような友達と旅に出れたら、きっと最高の思い出になる。

今回は初日に起こりがちなトラブルばかり書いたが、ハノイはお洒落なデザイン雑貨やカフェ文化が印象的な古都で、色々な楽しみ方出来て最高だった。ぜひ皆さんも遊びに行ってみてください。それでは。

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