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【邦楽】2023年1月~3月の必聴新譜を勝手にレビューする

2023年の1~3月までにリリースされた新譜で、『これは聴いとけ!』なものをチョイスして勝手にレビュー。

SADFRANK 1stAlbum「gel」  

衝撃作。苫小牧のインディーロックバンド・NOT WONKのフロントマンである加藤修平の初ソロアルバム。NOT WONKでのパンクロックサウンド×英詞のヴォーカルという形式の強い音楽性とは対象的な、「日本語詞で多くのジャンルを横断した、作家性の強い作品」という印象。コアメンバーとしてベース・本村拓磨(ゆうらん船/ex.カネコアヤノバンド)、ドラム・石若駿(CRCK/LCKS)、映画音楽などを手がけるキーボード・香田悠真ら、邦楽を独自のサウンドで支えるメンバーが集結している。

1曲目の「肌色」ではピアノと歌のみのシンプルな構成の中で、ハイトーンのふるえ声やささやき声とダイナミズムで魅せる。アルバムを通じて最初の山が3曲目「I Warned You」。岸田繁(くるり)がアレンジしたシンフォニックなストリングスから始まる本曲では、優しい声で歌われる「閉塞感」が石若駿による高密度のドラムを中心にして、サウンド面から打ち破られる。宮崎良研(the hatch)とストリングスによる掛け合いのカオスパートから、4曲目「per se」ではまさかのボサノヴァ風アレンジ。幅広いジャンルを横断する音楽が、加藤修平によるハイトーンで柔らかで、なのにひりつく歌唱により束ねられている。

インストの曲もいくつか収録されている。特に6曲目「offshore」は人力ブレイクビーツの石若駿によるドラムと、フリージャズ的な管楽器によるアプローチが加わっており、スリリングな曲展開がアルバム全体に大きな緩急をつける。歌が良いのにインストも良い、あああ、すごいアルバムだ。音の密度が曲によってかなり差があって、心を揺さぶる苫小牧。最後の曲「Quai」の沁み具合がやばい。そういえば苫小牧高校野球部に行ってた従妹の子供が、「食わされる米が多すぎるから、雪の日にはオニギリにして剛速球で窓の外に投げる」と言っていたが本当なのか苫小牧。

GEZAN 6thAlbum『あのち』

2021年に賛否激論となったフジロックで、あの赤いステージを見た人はいるだろうか。間違いなくあの年のフジロックの特異点だったGEZANのステージは、Million WishCollectiveという何人ものコーラス隊による輪唱で彩られていた。あの真っ赤でトライバルな音と声の洪水が衝撃を与えてから1年半。ついに彼らのアルバムがリリースされた。5th Album『狂 (KLUE)』から3年、コンセプチュアルなアルバム構成を引き継ぎながら、更にアップデートされた6枚目のフルアルバム『あのち』は、GEZAN With Million Wish Collective名義でのリリースとなった。Million Wish Collectiveは、半分以上が非ミュージシャンだったというコーラス隊であり、そういった面もパンクロック的である。

1曲目から5曲目まで切れ目なく続く怒りの奔流。その中でもパンチラインは4曲目の「いつまで清志郎に頼ってるんだ この時代はこの時代でかたをつけんだ」だろう。自ら全感覚祭というフェスを主催し、ミュージシャンでないメンバーを集めフジロックで歌わせ、かつてのパンクロックが実現できなかったことをDo It Yourselfで成し遂げようとする彼ららしい一節だ。

そして6曲目、ドキュメンタリー的な手法で多くの声がその多様性を保ったまま重ねられた「TOKYO DUB STORY」から、7曲目の「萃点」へと接続していく。強いメッセージ性を持ったパンクロックであり、同時に全存在に向けられた讃美歌でもあるこの曲を蝶番として、『あのち』の後半では希望に満ちた楽曲群が収録される。アルバムを通して聴いた時に、7曲目を境にして絶望から希望へと切り替わっていく構成で、特に後半は「平和」や「多様性との共生」への願いを歌っているようで、心動かされる。ここまでシリアスに心の底から、「No War」をアルバムを通して歌っているバンドって、本当にいない。すごい。これメンバーがバグパイプを習得して吹いてるんだよ。これは2023年を代表するアルバムの一つになると思う。

PAS TASTA 1stAlbum『GOOD POP』

ポップの拡大解釈!どんな音が飛び出すかわからない至高のハイパーポップ!ウ山あまね、yuigotらが参加するプロジェクトの1stAlbumで、1曲目から過剰なまでのポップネスでぶっ飛ばしていく。ビートとグルーヴ、音の配置、グッドメロディー、最高のポイントがいくつも挙げられる。4曲目で鈴木真海子フィーチャリング曲「finger frame」でちょっと小休止するのもいい。崎山蒼志参加の「river relief」もめちゃいい。昨年リリースのウ山あまね『ムームート』や長谷川白紙などが刺さった人は絶対これも聴くべきマジで。

幽体コミュニケーションズ ミニアルバム『巡礼する季語』

京都の3ピースバンド初のミニアルバム。圧倒的なオリジナリティを持ったドラムレスの3人組が打ち出した本作は、作家性と美メロのポップを見事に両立。タイトルに示されるように、各曲には四季の要素が込められており、季節の巡りを追体験できる構成となっている。

選択的に漢字を使った歌詞は、それ単体でも詩集として楽しめるような骨太なもので、はっぴぃえんどを彷彿とさせる。フォークトロニカやドラムンベースなど様々な電子音楽の要素がコラージュ的に組み合わせられており、音の配置やリズムの作り込みなど、繰り返し楽しめる愛おしい傑作。湿度が高かったり、ピリッと乾燥していたり、咳の音が入ってるのも生活に寄り添ってるようで。京都の至宝です。

RASEN in OKINAWA
Awich, 唾奇, OZworld, CHICO CARLITO「RASEN in OKINAWA」

Awich主催で沖縄のアーティストの作品が集められたコンピレーション・アルバムに収録された1曲。沖縄出身のラッパーたちによるマイクリレーで表現される、島唄やエイサーへのリスペクトがクール!特にOZworldのバースは、沖縄の歌唱とラップの混ざったストライクゾーン直撃の変化球で最高。

LIVE VIDEO「中村佳穂×ウポポ @ウタサ祭り2023」

馬喰町バンドとの共演、奄美大島への滞在と歌拾いなどでトライバルな方向への歌唱力がすごいことになっている中村佳穂が、アイヌの方々が暮らすアイヌコタンでのお祭り「ウタサ祭り」へ出演。アイヌ民族の伝統と交差するライブでは、特にラストの「そのいのち」を通して歌われる全生命への讃歌が最高…!ビッグラブです

mabanua「So Real feat. Nicholas Ryan Gant & Suede Jury」

完成度エグいて。最近は星野源「創造」「喜劇」や米津玄師「LADY」などビッグネームとの共作も増えているmabanua先生のソロ作。ニューヨークのミュージシャンとコラボした「So Real」は、自宅のスタジオでMVが撮られているのも現代的。これほんとに世界中で聴かれそうなくらいの美しすぎるループ。mabanuaらしさが出たドラムやピアノのレイドバックが心地いい。

蓮沼執太フィル Album『symphil』

今回の新譜ではいい意味で予想を裏切られた。こんなにシリアスな音や、訴えかけるようなメッセージを発するユニットだったろうか。10分越えの大作「BLACKOUT」や、羊文学「マヨイガ」の壮大なリアレンジ、蓮沼執太自身による語り掛けるようなヴォーカルが印象的な「ずっとIMI」など、幅広い音が聴こえるアルバムとなっている。

6曲目の「#API」では冒頭から音無史哉による笙の音が鳴り響く。作り上げられた雅楽的な音像が、ミニマルなエレキギターのフレーズでがらっと変わり、様々な展開を得た末にまっているのはゲスト参加したxiangyuによるラップ、というかなり面白い構成で、彼らの音楽性の幅広さが感じられる。

思い返せば、羊文学の塩塚モエカがゲスト参加した「HOLIDAY」でグッドメロディーが発表されてから、2年。ようやくアルバムに収録された。制作開始からは3年、前作からは5年とのこと。前作「アントロポセン」の時点では、笙奏者である音無史哉はまだ合流していなかった。この5年、様々なことがあった。その間にバンドの形や方向性が進んでいったのだろう。いいアルバムでした。

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