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キレイごとで終わらせないために -竹下隆一郎 著『SDGsがひらくビジネス新時代』-

 近年、日本国内においても随分と認知が広まってきたSDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)。

 この『SDGsがひらくビジネス新時代』という本は、SDGsが急速に広まっていく過程で起こった数々の出来事を考察しながら、この大きな社会変化の行く末について、いくつかの重要な視点を提供してくれています。

 以下に、この本の読書を通じて気づいたことや感じたことについて、メモしておきたいと思います。

【Discovery / この本を読んで得られたこと】

 この本の著書の竹下さんは、朝日新聞社の記者やハフィントンポスト日本版の編集長を経て、現在は経済コンテンツメディアPIVOTの執行役員兼チーフ・グローバルエディターを担っている方です。

 SDGsについて解説した本は多々ありますが、竹下さんが書いたこの本のように、SDGsが急速に普及していった社会的な背景や、SDGsが企業の経済活動に与えた影響などを、具体的なニュースとコラムのみで全体を構成したSDGs本は、意外と少ないのではないかと思います。

 そんなこの本を読みながら、主に感じた3つのことを以下に整理していきたいと思います。

▶︎認知拡大の背景には「SNS」の存在あり

 まずこの本の冒頭では、SDGsが掲げる17の目標について「キレイごと」のような言葉だとはっきり述べています。

 そのうえで、キレイごとのようにも感じられるSDGsの社会的認知がこれほどまでに広まった背景には、個人のアイデンティティに重きが置かれるようになった時代性、そして、個人の意見や価値観の影響力を増幅するSNSの力が大きいのではないかと、竹下さんは考察しています。

 例えば、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが行ってきた学校ストライキ(2018年)や国連気候行動サミットでのスピーチ(2019年)などの数々の言動は、マスメディアやSNSを通じて世界中の人々から共感を(同時に反感も)得て、世界各国にデモが飛び火し、さまざまな議論を呼び起こすきっかけとなりました。

 また、日本でもグレタさんの活動に呼応して、Fridays For Future Japanの鈴木弥也子ややこさんや NO YOUTH NO JAPANの能條桃子さんらが、国内外の石炭火力発電の建設や融資に問題提起する活動を始めるなど、さまざまな場面で連鎖的な反応が起こりました。

 こうした動きも、SNSを通じて「いつでも」「どこでも」「誰でも」、個人の主張を表明しやすい環境が整ってきた時代だからこその現象なのかもしれません。

▶︎個人消費という名の「投票」行動

 さらに、SDGsの考え方が広がることに伴う影響は、単なる価値観の多様化にとどまらず、企業の経済活動にまで及びます。

 例えば、SDGsの17つの目標のひとつに、「つくる責任 つかう責任」があります。

 この本で紹介されている1990年代後半に起きたアメリカのスポーツ用品メーカーNIKE(ナイキ)の不買運動は、人権侵害が企業の経済的損失にまで繋がったケースとして知られています。
 当社が東南アジアの工場で行っていた児童労働や長時間労働などが発覚したことに伴う経済的損失は、約1兆円規模に及ぶとの試算もあるようです。

 また、近年の同様なケースとしては、ウイグル族への強制労働の疑いがある中国の新疆しんきょうウイグル自治区で生産している綿花に関して、それを商品の素材として取り扱っているアパレル企業に対する消費者や投資家などから批判が集まっている状況があります。

 世界中の企業がこの問題への対応を迫られるなかで、スウェーデンのアパレルメーカーH&M(エイチ・アンド・エム)をはじめ、前述したNIKEやドイツのスポーツ用品メーカーadidas(アディダス)などの各社は、当自治区産の綿花の不使用を宣言。この対応は、企業の信頼回復に繋がった反面、中国国内での不買運動にも繋がりました。

 こうした一連の現象は、SDGsに対する個々人の考え方が実際の購買行動に繋がり、結果として、企業収益や社会全体の流れに大きく影響を与えることを示しています。

 これからの時代の企業経営を考えるうえでは、SDGsに対する企業のスタンスが、そのまま個人消費という名のある種の投票行動にも繋がるという意味でも、やはりSDGsは避けて通れないテーマとなってきているように思います。

▶︎SDGsがもたらす「分断」にも配慮を

 このようにして、徐々に国内外で社会への影響力をもつようになってきたSDGsですが、この考え方を推し進めること自体が、人々の間に新たな分断を生むきっかけとなってしまうこともあります。

 この本では、モデルのトラウデン直美さんが、2020年に政府の有識者会議「2050年カーボンニュートラル・全国フォーラム」に出席した際の発言が、世間的に厳しい批判を受けたことが紹介されています。

 「(買い物をするとき)お店の人に『この商品は環境に配慮していますか』とひとこと聞くだけで、お店の人は『お客さまは環境に配慮したものを求めているんだ』という意識になる」
 トラウデンさんのこの発言は、日々多忙なサービス業界の実情に配慮しないモンスタークレーマーのような発言だと、多くの人々に捉えられてしまいました。

 一方で、時系列的には前後しますが、前述した中国の新疆しんきょうウイグル自治区で見受けられるように、昨今のアパレル業界ではその商品の調達方法がSDGsの理念にも反していることが問題視されており、必ずしも全てが間違った認識というわけではないようにも思えます。

 このケースの場合、発言者が「労働問題」という、サービス業界が抱える別の社会問題が存在するということまであらかじめ認識できていれば、こういった提案や発言の仕方にはならなかったのかもしれません。

 この一連の出来事は、SDGsを推進すること自体が、個々人の価値観の違いを顕在化させ、時には衝突を起こすきっかけにもなってしまうということを象徴しています。

 SDGsの17つの目標。最後の17番目の目標は、「パートナーシップで目標を達成しよう」です。

 世の中の全ての人々が協力しあうことがSDGsの目標を達成するうえで不可欠なのであれば、現時点であまりSDGsに関心のない方々への配慮も織り込んだプレゼンテーションができなければ、なかなか思うような成果が得られないのではないかな、と感じました。

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 以上の3つのことがらが、個人的には気になりました。

 現在、私が働いている豊田市では、2018年に内閣府より「SDGs未来都市」に選定されて以来、SDGsの理念を取り込んだ持続可能なまちづくりや地域活性化に向けたさまざまな取組みを進めています。

 仮に世の中が良い方向になっていく施策だったとしても、賛同者がいなければ、物事が前に進んでいくことはありません。

 SDGsを単なる「キレイごと」で終わらせないためにも、SDGsのウィークポイントにも十分配慮をしつつ、ひとりでも多くの人々を巻き込めるようなアプローチを意識しなくてはならないなと、あらためて気づかされる読書体験となりました。

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