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3年



夜の静けさと共にカーテンが揺れる。月の光をカーテンの隙間から感じながら胸の中に包まれ長い長い夢をみる。時折り優しい声で名前を呼ぶ声が聞こえ重い瞼をうっすら開けると口元を緩め笑みがこぼれている顔が映る。細く綺麗な指で髪を撫でられ再び目を閉じた。


顔も声も首筋も綺麗な鼻筋も、細長い綺麗な指も抱き抱えてくれる腕も私を見る穏やかな目も全部私の一部で。

肌を合わせ体温を感じながら肩越しに天井を見る。月の光が反射して彼の背中を照らしていた。首筋に吐息がふりかかりまたもや腕の中で幸福を感じていた。私を見おろす彼の顔は初めての日と何も変わっていなくて。少し奥二重になる優しげな目が好きだ。余裕のない顔が好きだ。感情のまま欲のまま求め合う行為に愛を感じる。柔らかな肌も骨張った肩、長い指。唆られる首筋。唇を這わせながら身も心も全て預け、私は快楽の海に溺れていく。深い深い海底を深呼吸しながら目を閉じて水中に身を任せ海底に沈む。脱力感を味わいながら。



「いつもありがとう、いつも側にいてくれてありがとう」そろそろ食べれるなというタンをひっくり返しながらまっすぐこちらを真剣な顔で言う彼が愛おしく、普段口下手なのもあり中々そんなストレートに言われ慣れていないのもあって涙が出そうになりながら、こちらこそありがとうなんて返して。ほら、焼けたよってさっきまで焼いていたタンを皿に置く彼。美味しいねって食べた。それだけで幸せで。目線の先には愛おしい彼がいて。今急に地球が滅びても焼肉強盗が入ってきて人質にとられても何でもいいやって思えるくらい。


「好き」って恐ろしい。その気持ちが行動力になって会いたい衝動に駆られ全力を尽くしてしまう。時に暴走し事故に遭う。


愛はどうだろうか。愛し愛される様は雨が滴り花びらの先に落ちるように切なくて儚くて。ちょっぴり艶やかで。

愛なんて信じてなかったあの頃、捨て猫のように餌を貰っては跳ね返し威嚇していた。当たり前のように育てられた猫たちは幸せだろうな。現実を知らず膝の上で与えられるものを受け入れる、それだけでいいのだから。無垢なままで。


月が綺麗な夜、4月が終わり葉桜になった頃冷たい雨が降り続いていた葉っぱに滴る大きな粒は少しずつ地面に溜まり次の日太陽に照らされ少しずつ乾いていく。なんだか愛に似ている気がする。意味、分かるかな。分からなくてもいいよ、伝えていくから。


会えない時間が愛を育むとはよく言ったもので、育むというより愛を感じている。ちっちゃな事だが今日も頑張ろうねなんて朝連絡があるとそれだけで頑張れちゃう不思議パワーがある。今日ずっと会いたいって思ってたとか言われちゃうと1週間くらい会わないでおこうかなとか思っちゃったり。きっと私がギブアップしてしまうからダメだけど。そうやって彼の甘い言葉が口元を緩めさせ、するりと腕に擦り付いて立ちっぱなしで疲れているはずなのに足取りが軽くなるのだ。単純なものだ。愛って精神的に一番効く薬。麻薬と一緒。


長く付き合うと慣れが生じ、マンネリ化するというのは一般的だと思う。セックスレスも耳にする。私も過去に長く付き合った人とレスになった事がある。心も遠かった。食べ慣れた物よりも新鮮さを求め浮気に走る。もしくは賞味期限切れか、どちらかだ。何年一緒にいようが心が通じ合わない時が一番残酷だろう。浮気、できるものならすればいい。一番苦しむ方法で処す。とかいいつつも普通に泣くんだろうな。


彼とは一度別れている。でも何でか今一緒にいる。もう離れたくないと強く思う。


いつだって顔が浮かぶ。疲れ切った顔、真剣な眼差し、私を引き寄せる声も力強い腕も、長く綺麗な脚も。離れている時間、愛おしく思う。今日も笑顔でいて欲しいななんて思いながら目の前のお客様を笑顔にする。昨日は少し冷たくしちゃったから今日はうんと可愛がろうなんて思ったり。


誰かを愛おしく思う時なんて生まれてから今まで一度もなかったな。愛を感じたことも、一度もなかった。誰かに愛されるっていいものだ。何のために生まれて何をして生きるのか分からないまま終わる、そんなのは嫌だ。アンパンマンの曲、捻くれてるかもしれないけどわからないまま終わってもいいと私は思う。セックスをして命を宿した。ただそれだけじゃないかと思ってしまう。せめて私の子は意味を見出してあげたい。愛し、愛されるという事を感じさせたい。


「3年記念日何する?今日ずっと考えてた。」
自転車を押しながら左手を腰に添えてくる。帰り道、雨が強く降っていた。疲れ切った心が少し跳ねた。ふと見ると右手が雨で濡れていた。何で言わないのびしょびしょじゃんと言うと、やっと気づいたか〜と彼は笑った。私が濡れるから言わなかったんだと。ぎゅうって胸が苦しくなった。愛おしさが日常にあるなんて幸せだなあ。



ケーキ、買いに行こうって約束した日彼は朝まで飲み約束を破った。許せない。呑気にゆっくり過ごしてた。記念日のケーキよりも自分の今の欲で動く彼にはもう慣れた。慣れてはいけないのに慣れた。直らないもの。人の時間奪ってるって事分かってんのかな、腹立つなあ。とか思いながらマッサージ行って銭湯行って美味しいもの食べてアイス食べて過ごした。自分の機嫌は自分でとる。ごめんねって言われたってムカつくものはしょうがない。久しぶりのお説教。ごめんなさいと素直に謝る彼、機嫌とりなさいよ全く。


愛おしいっていう顔しながらこっちみてる時の顔、思い出すとにやけてしまう。私にしかしない顔。3年経ってもかっこいいって思うのは、彼に恋してるからだ。顔がものすごく好み。好みに+好きが入りますますかっこよく見えるのかもしれない。かっこいいんだけど。


惚気たnoteになってしまったが、3年という月日は幸せだらけではなかった。不幸を知っているから感じられる幸せで。どん底にいた私は生きた心地がしなかった。今は生きている。息を深く吸うことができる。恋愛って人を変える。いい方にも悪い方にも。人と人は交わる生き物。心も体も。


いつもありがとうを忘れずに、当たり前に好きを伝えられる事に幸せを噛み締めていく。



i am part of you.



2023.5
「3年」


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