『恋愛対象は可愛いもの』男と女で括るのに疲れた私の話

(りん)
私は小さい頃、恋愛感情というものが分からなかった。女の子は男の子が好きなものだって、いつの間にかそう頭に入っていたけど、男子のことを好きになるなんてなかった。ただ、クラスの可愛い女の子とずっとベタベタしてた。その子が好きで好きでたまらなくて、ずっと一緒にいた。それが恋愛感情だったかもしれない、と気づいたのは、大人になってからだった。

中学の時に仲良くしていた男子から告白された。けど、何も心が動かなかった。友達以上の感覚はなかった。ただ、ちょっとだけ気になる男の子はいた。すごく中性的な顔で、声変わり前の彼はすごい可愛らしい声で、私は友達に「あの子の彼氏になりたい。」と言っていた。ある種のジョークだと周りには捉えられていたし、言ってる本人も、深くは考えていなかった。

この頃から女性アイドルにハマり出した。キラキラした衣装で踊ってる彼女達は可愛くかっこよく、そして泥臭い姿や努力する姿、重圧を感じさせないその姿勢に憧れた。身長が高くておっさんみたいな性格な私は、その憧れをそっと胸に閉まった。今でこそ多様なアイドルがいるし地下でずっと努力してるアイドルさんもいるけど、当時はまだそういう概念がない時代だった。ただ、同姓として彼女達は憧れの対象だった。

一方で、周りの子達は男性アイドルに夢中。彼氏にしたいのは・・・みたいな妄想話に付き合うのは、正直興味がなくて苦痛だった。どちらかというと女性アイドルと付き合いたいって言ってた私は、周りの子達から「中身がおっさん」と言われていた。でも、別にそれはアイデンティティとして認められていて心地よかった。「中身がおっさん」キャラだったから、周りの子達へのボディタッチが多くても許されていたし。今思うと、あの時私は、女性という体を最高に利用していたんだと思う。

高校生になって、周りに付き合う子も増えて、焦った私は、告白してきた男子と付き合った。その子とは、アイドル話で盛り上がれる友達だったので、付き合ってもうまくやれると思ってた。いざ付き合ってみたら、実はあまりアイドルに興味がない風で、私と付き合うために話を合わせていたような感じだった。アイドルオタクとしての矜持がある私は、にわかな彼が許せず、すぐに別れた。
もう一人付き合ってみた。その人はアイドルオタクではなかったけど、聞き上手で私の趣味を尊重してくれてた。ただ、私の価値観と彼の価値観は全く合わなかった。私は、アイドル>>>彼氏という価値観。彼はやっぱりアイドルより自分を優先して欲しかった。しかも、相手は女性アイドル。自分より女性アイドルを優先する私に彼は、「女性アイドルが好きなら女子が好きなんだから女子と付き合えばいい。」と言った。私はその時始めて、自分の性というものが分からなくなった。

自分は女性だというのは間違いなかった。女性であることを疎んだこともないし、女で良かったと思っている。けれど、大好きなのは女性アイドルで、男性に対して全く本気になれない。一度だけ好きになったあの子は中性的だった。私は女の子が好きなんだろうか。そういう風に思い詰めた。一番信頼できる友達に、勇気を出して打ち明けた。小学生の時、私がずっとベタベタくっついていた好きで好きでたまらなかった彼女。彼女は「そんな気がしてた。」って笑ってくれて、「それでいいと思う。」と言ってくれた。この時、私は彼女に対して昔抱いていた感情は恋愛感情だったんじゃないか、って気づいた。そして私は、「女の子が好きな自分でいいじゃん」って思って生きていくことを決めた。もう恋愛とか結婚とかいい。女性として、女友達いっぱい作って、中身おっさんな感じで女の子を愛でて生きていこう、って。

吹っ切れた私は推しに本気で恋をした。私は女性だけど誰よりも齋藤飛鳥ちゃんにガチ恋をしていた。そのことだけは間違いない。私の青春は飛鳥ちゃんだと思ってる。飛鳥ちゃんさえいれば、人生は薔薇色だし、恋愛も結婚も必要ないって思ってた。

そんな風に生きてたはずなのに、しーちゃんに出会って、恋に落ちてしまった。男の人と“本気で付き合いたい”とか“一緒にいたい”って思ったのは、初めてだった。彼の性なんてどうでも良かったし私の性なんてもっとどうでも良かった。一人の人間としていっぱい尊敬できるところがあって、その優しさ、包容力、脆さ、ひたむきさ、健気さに心を射抜かれた。

(すごくしーちゃんには失礼な言い方になるかもだけど、)彼はすごく女子的な可愛さも兼ね備えていると思う。天然だし、ぶりっ子するし、かまちょだし、私に尽くそうとしてくれる。だから、私は彼のことが好きなんだろう。一方で、私のことを気遣ってくれてるし、守ってくれるし、一人の対等な女性として扱ってくれる。そういう男らしいところ(?)を好きと言えるのは、私にとってすごく気持ちが楽になる。何より、私がどれだけ女性アイドルが好きでも、男性目線で女の子を見ていても、それを変だとは言わない。何度か私が女性アイドル好きだったり、女の子が好きだってことをどう思うかって聞いたら、「俺は男だから共感しかないよ。」って笑ってた。「違う、そうじゃない」(笑)、とも思うけど、彼にとっては私はそういう風にしか見えてないみたい。

先日、しーちゃんと私の実家に帰って、卒アルを見ていたら、例の「女性アイドルが好きなら女子が好きなんだから女子と付き合えばいい。」と言ってきた元彼の話になってしまった。これまでも何度かそのエピソードはしーちゃんにしているし、しーちゃんはその度に私のことをフォローしてくれる。今回、しーちゃんに言われてハッとさせられたのは、

「りんちゃんは『可愛いものが恋愛対象』なんだよ。」

という言葉。私の中で言葉にならなかったものがカチッとハマった気がした。
これまでの人生でずっと

問:「恋愛対象」「男性」「女性」という言葉を使って自分の性を完成させよ

という問題を解こうとしていた。けど、固定観念に囚われ過ぎてたということに、やっと気づけた。

今日、あの時優しい言葉をかけてくれた腐れ縁の友達、私の本当の初恋だったかもしれない彼女に誕生日祝いをしてもらった。実は彼女が、しーちゃんと会ったきっかけでもある。彼女の兄としーちゃんが友達で、その繋がりがあって、私たちは出会えた。

「しーちゃんが私のことを『可愛いものが恋愛対象』って言語化してくれたんよ。」
と報告したら、彼女はすごく喜んでくれた。
「〇〇と出会わせてあげられて本当に良かった。」
って喜ぶ彼女に、少しキュンとしてしまった。

あまり多くの人には理解してもらえない性だと思う。そのせいで傷つけられたこともあった。けど、それ以上に私のことを認めてくれる“元カノ”と彼氏がいることに、私は恵まれてるな、と感じた。

どうか自分の性に悩む人が、一人でも多くの理解者に出会えますように。

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