いじわる

(りん)

彼にいじわるするの、ずっとやめられないまま。
正確には、プレゼントとかで、最終的には彼を喜ばせたいんだけど、焦らしたりとかだましたり、っての。しーちゃんが、私の言うこと必ず一度飲み込んでくれるから、間に受けやすいって言うのもあって、それが面白かったり。感情もストレートに表現してくれるから、驚いたり泣いたりする表情が、すごく可愛らしくて、それが何度でも見たくなる。

ストレートにプレゼント渡したりとか、好きって感情表現したりとか、今までどれだけできたんだろう。全然出来てないかもしれない。こんなに好きなのに。素直になりたい、ってずっと言ってるくせに、全然なれなくて。なる気もないの?口だけの女。

これからずっと彼の側にいたいって言ってるのに、こんなんでやっていけるのかな、って不安になる時がある。しーちゃんが寛大だから、許されてるだけ。甘えてるだけ。いつか愛想つかされたら簡単に嫌われるんだろうな。

今年のバレンタインも、何も渡さないまま、気付かないふりをして寝る、っていうすごくいじわるなことをしてしまった。彼がどれだけバレンタインを楽しみにしてるのか知ってるのに。しーちゃんも「何でもう寝ると?」「もうちょっと起きとこ?」「なんか忘れてない?」って、ワードを出さないように、問い詰めてくるんだけど全部無視してた。最終的には、「あーチョコ?ごめん、忙しくて忘れてた。」って言って、反応を見て楽しんでた。最低。

「忙しいんならしょうがないよね。」「大丈夫よ。俺もホワイトデー忘れないようにせんとな〜。」って、私に気使って明るく振る舞おうとして、でも明らかに落ち込んでるその顔を見て、すごく可愛いと思ってしまった。そして、次に湧き上がってきたのは、この状況を楽しんでいる自分への嫌悪感と、彼への申し訳なさ。涙が込み上げて来て、嗚咽しながら彼にチョコを渡した。「ごめん」って何度言ったか分からない。彼も何で謝られてるのかちんぷんかんぷんって様子で、慰めてくれた。

「私がしーちゃんにいじわるしたくなる、それが嫌。」ってこと、上に書いたようなこと、全部吐き出した。これまでも何度も言って来たけど、しーちゃんはずっと私の顔見ながら、相槌うってくれるし、肩とか背中とか優しくさすってくれて。体は冷たいのに、しーちゃんに触れられてるところだけすごくあたたかかった。

「俺は構ってちゃんやから、りんちゃんがいじわるしてくれるの、すごい楽しいけん大丈夫よ。」
「でも、4、50年後とかもうネタが無くなるかもよ?」
とか、そんな風に明るく励ましてくれる。
そんな風に言われるから、また意地悪したくなるんだ、ってちょっと声を荒げてしまった。

少し彼もびっくりしたみたいだったけど、
「そもそもいじわるじゃなくね?」
「最終的に喜ばせてくれるサプライズやん。」
って言ってくれた。
私も感情が荒ぶって収まりが効かなくなって、ぶっきらぼうに「うるさい。」とか言っちゃうから、彼も少しだけ声が大きくなった。でも、今思えば、理路整然と、私を落ち着けようとしてくれてたんだと思う。

彼の言うことがすごくポジティブで、何も間違ってなかったから、私も何も言えなくて、落ち着くしかなくて、今度はすごく恥ずかしくなってしまった。
そしたら彼が、
「ほら、今恥ずかしがってるりんちゃん見て、俺もいじわるしたいって思うよ?ダメ?」
だって。
私がいじわるしたいって思っちゃうこと、「自分もそう思っちゃうよ」って言ってくれるの、すごく気遣いに溢れてるって感じたし、笑っちゃったし、素敵だって思った。

その後、彼が、昔のバレンタインの話をしてくれた。
“小4の時に、女の子にチョコをもらって、嬉しくなって好きになっちゃったけど、好きな子にいじわるばっかしてたら、小5の時に「◯◯はいじわるばっかしてくるから嫌い。」って言われて、しかも自分の友達のこと好きになってた。”
ってエピソード。すごく小学生らしい話でほっこりした。
「だから、好きな人にいじわるしたいって気持ちも、いじわるばっかして大丈夫かな?って気持ちもどっちもわかるよ。」
って、優しく笑う彼。


泣き疲れて、彼に「チョコ、明日仕事しながら食べるね。」って頭を撫でてもらいながら、横になった。まどろみの中で、何でこの人が私の元に“タダ”で舞い降りてきたんだろう、って思った。私の前世は何かすごい徳を積み上げてきたのかな。まるで、私のために隣に来てくれたみたい。私はもうちょっとだけ「全部この人が優しすぎるのが悪い」って自分に言い訳してみようと思う。少しだけ心が楽になって、眠りについた。

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