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【速報】「GIIN アニュアル・インパクト・インベスター・サーベイ 2020」について

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ナレッジ・デベロップメント・オフィサー 織田 聡
(写真はRIETIでの登壇のときのもの)

6月11日、GIIN (The Global Impact Investment Network) は10回目となる”Annual Impact Investor Survey 2020”を発刊しました。

今回のサーベイでは294機関が回答し、これらの機関の投資運用残高合計(Assets under management、以下AUM)は4,040憶ドル(約44兆円)に上ります(なおGIINは同時期のインパクト投資全体の残高規模を7150憶ドルと推計)。
<回答した294機関の内訳>
 アセットマネジメント機関(営利)149機関・・・・・(51%) 
 アセットマネジメント機関(非営利)40機関・・・・・(14%)
 財団 40機関・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14%)
 開発援助機関 14機関・・・・・・・・・・・・・・・・( 5%)
 ファミリーオフィス 12機関・・・・・・・・・・・・・( 4%)
 銀行、信用組合など金融機関 8機関・・・・・・・・・・( 3%)
 他 31機関・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11%)

インパクト投資とは「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資」のことを指しますが、回答機関のうち88%は期待通りもしくはそれ以上のリターンを獲得と回答。決して社会的インパクトのために経済的リターンを犠牲にしているわけではないことが窺えます。そして99%が社会的インパクトについて期待通りもしくはそれ以上と回答。つまりインパクト投資の趣旨である経済的なリターンと社会課題解決の両立について少なくとも投資家から見て満足のいく結果が出ているということになります。
金額の伸びを見てみましょう。2016年版レポートと2020年版レポート双方に回答を寄せた79機関におけるインパクト投資残高は年平均17%の伸びを見せています。
またインパクト投資残高を産業セクター別に見ると最も大きいのはエネルギー(16%)。これはSDGsのGoal 7である”Ensure access to affordable, reliable, sustainable and modern energy for all”「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」に対応しています。次いで金融(12%)となります。
このGIINのレポートには様々な統計数値が掲載されているなか、私が最も注目したのはインパクト投資のアセット種別です。

             <投資残高シェア>  <2019年投資額シェア>
プライベート・デット     21%           37%
上場株式           19%           10%
未上場株式            17%                                      16%
実物資産                                        17%           10%
債券             17%           24%
転換社債など資本性デット    1%                                        2%
他               9%                                        2%

インパクト投資の投資先はスタートアップ企業など未上場企業が多いことなどから、プライベート・デット投資、未公開株式投資など資本市場を経由しない形態の資金が多いのが現状ですが、上場株式投資もAUMベースで既に19%あります。
日本の金融庁も本年4月に「上場株式投資におけるインパクト投資活動に関する調査」報告書を公表しており、上場株式を通じたインパクト投資への注目は今後高まるものと思われます。現在日本のインパクト投資はスタートアップ企業への投資が主ですが、上場株式によるインパクト投資が広まれば、(上場株式投資はスタートアップ投資に比べて金額ロットが大きいため)インパクト投資市場の拡大に大きく寄与するものと期待されています。
 ただ、上場株式によるインパクト投資は(1)Impact-Specificity(インパクト特定性)と(2)Fund-Additionality(資金の追加性)という本質的な問題を抱えています。
インパクト特定性についていえば、中堅以上の企業が多くなる上場企業では広範な企業活動から特定のインパクトを切り出して測定することは困難で、株式投資額をそのままインパクト投資額と見做すのはやや無理があり、「インパクト投資ではなくESG投資ではないか」との見方があります。
 また(2)の資金の追加性に関して言えば、上場株式投資は(新株発行を引き受けるのでない限り)株式市場を通じて他者が売った株式を買うのであり当該企業にニューマネーが供給されるのではないことから、インパクト投資額としての効果は間接的なのではないかとの見方もあります。今後、上場株式によるインパクト投資をどう扱うべきなのか議論を提起していきたいと思います。
 日本のGSG国内諮問委員会が本年4月に発表した「日本におけるインパクト投資の現状2019」では日本のインパクト投資残高は約4,500憶円で、全世界の1%弱にとどまっています。国の経済規模から考えればこの5~6倍あってもおかしくなく、われわれSIIFとしてもインパクト投資促進のため様々な活動を行って参ります。


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