見出し画像

連載「休眠預金活用レポート」VOL.2 見過ごされてきた「子どもの体験格差」、大地の芸術祭を舞台に格差解消プロジェクトが始動する    

 今年5月、「旅する学校 in 大地の芸術祭」を初めて開催した株式会社Ridilover(東京都文京区)。これは旅という非日常の体験を通して、子どもたちが希望を持って自分の生き方を考えたり、選択したりするきっかけを見つけてほしいとの願いから実施されたツアーです。特に「子どもたちの体験格差を解消する」という意図のもと、子ども支援で実績のある認定NPO法人キッズドア、国際的アートイベント「大地の芸術祭 」を主催するNPO法人越後妻有里山協働機構との協働で実現しました。
休眠預金事業 を活用してどんな取り組みが進んでいるのか、レポートします。

何ものにも変え難い子どもの頃の豊かな体験

 「体験格差」という言葉をご存じでしょうか。「家庭の経済状況が厳しく旅行に行けない」「仕事が忙しく親が子に向き合う時間を取れない」「不登校状態で学校行事に参加できない」などの理由で、子どもたちが自然の中で遊んだり、アートに触れたり、さまざまな大人と出会うといった体験を受ける機会に差があることをいいます。子ども達の体験の欠如は顕在化しづらく、これまで見過ごされてきた社会課題の一つです。子どもの頃の体験は、「やる気や生きがい」「思いやり」「人間関係構築」といった非認知能力の有無に大きく影響してくることが明らかになっており、株式会社Ridilover(以下:リディラバ)が実施する「子どもの『体験格差』解消プロジェクト 」(仮称)は、こうした社会課題を発端にスタート。今回実施した「旅する学校 in 大地の芸術祭」は、さまざまな体験を届ける「体験創出プログラム」の一環と位置づけられます。

非日常の空間での自然やアート、人との触れ合い

 さて、「大地の芸術祭」は新潟県十日町市の越後妻有地域を舞台に開かれる世界最大級の国際芸術祭です。豊かな自然と昔から変わらぬ里山の景色の中に400点近くものアート作品が点在し、4月から11月の間に企画展やイベント、ツアーが開催されています。高齢化と過疎が進む地域ですが、人口約6万人の地域に60日間で約55万人の来場者を記録したこともあるほど、人・もの・文化の交流が芸術祭を通して活発に行われています。

 今回「旅する学校」で越後妻有を訪れたのは、「キッズドア」が支援している生活困窮世帯やひとり親家庭の子どもたち。経済的に困難なだけでなく、不登校など社会的に孤立しやすい状況にある首都圏在住の中学・高校生9人が参加しました。1泊2日のプログラムでは、野外に設置されたダイナミックなアート作品を鑑賞するほか、スポーツワークショップやカメラを使ったアートワークショップが用意され、参加者からは「自然がきれいだった」「芸術作品の一つひとつのこだわりがステキだった」「新潟のご飯がおいしかった」などの声が寄せられました。また「心に残った人」として、リディラバの安部敏樹代表の名前を挙げている子どもが多数いたことが印象的でした。

 キッズドアによれば、「弊社が関わる子どもたちは、普段の生活の中で海水浴、水族館、美術館、コンサートなどに出かける機会がとても少ない状況にあります。泊まりがけの旅行となると、なおさら……」。日常とは違う空間に身を置き、自然、里山の暮らし、アート、人、食といったリアルな体験をすることは、子どもたちのその先の未来にどんな影響を及ぼすのでしょうか。

子どもが諦めなくてよい社会を実現したい

 リディラバの創業は2013年。安部代表はこの間、約400以上の社会問題と向き合い、その背景にある構造的な問題を明らかにする取り組みを行なってきました。こうした活動を通して生まれてきた疑問が、「多くの社会問題の根幹には、子どもの頃の体験の機会不平等があるのではないか」ということでした。

 「家庭の所得格差、教育格差と異なり、客観的指数のない『個人の体験の量や質』の影響が見過ごされていると感じます。そして、経済的困難や複雑な家庭環境にある子どもたちほど、自然・文化・社会を通じた多様な価値観との出会い、さまざまな人間関係の中で自己肯定感を育む機会といった『体験』を得ることが難しいことがわかってきました」

 「子どもの『体験格差』解消プロジェクト」が生まれた背景を、安部代表はこのように語ります。
今回の「旅する学校 in 大地の芸術祭」はプロジェクトのファーストステップ。今後は子どもの体験格差の実態や影響について調査・研究していくととともに、「旅する学校」のような体験格差を解消する場・機会を提供し、これらを社会に向けて発信する仕組みづくりを進めていきます。子どもが諦めなくてよい社会を実現したいのです。

持続可能な未来へ向けた仕組みづくり

 社会に向けて発信する仕組みとして、リディラバでは、子どもの体験格差についての現状や影響等の調査研究に取り組み始めています。子ども支援団体と連携して現状のヒアリングを行うと共に、体験プログラムの効果検証を行うべく、研究者と一緒にアンケート設計を進めています。将来的には、このような調査結果を政策提言につなげることで、体験格差を政策レベルで解消できるような状態をつくることを目指しています。メールマガジンによる情報発信も随時行なっていますので、ご関心のある方は是非下記よりご登録ください。
メールマガジンはこちらから

 加えて、「旅する学校」の継続的な実施に向けた仕組みづくりも重要です。法人企業との共同プログラム開発や個人寄付を頂くこと等、持続可能な事業モデルの構築に取り組んでいます。寄付によって集まった資金は、体験機会の少ない子どもたちのために使われると同時に、芸術祭の運営資金や過疎高齢化の進む越後妻有に還元されます。すべての人や地域が取り残されることのない、持続可能な未来へ向けた仕組みづくりへの挑戦が始まっています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?