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ハルキゲニアラボ最終報告会

■シリーズ:ESGの一歩先へ インパクト投資の現場から

インパクト・オフィサー 古市奏文

地方に新しい循環型事業モデルを育てるためにSIIFが主催したアクセラレータープログラム「ハルキゲニアラボ」。前回のブログでも触れましたが、第1期はココホレジャパン株式会社合同会社巻組雲南コミュニティハイスクールコンソーシアム 、株式会社Next Commons Labの4団体を採択。半年間の事業支援プログラムを終え、最終報告会を10月26日、オンラインで開催しました。

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ハルキゲニアラボはコミュニティにおける新しい資源循環のモデルづくりをテーマに、地域に新しいリソースを継続的に提供し、自立しながら拡大するような新しい仕組みを育てていくことが目的です。6カ月プログラムのゴールとしては、課題に対して自分たちの提示した解決策がどのくらい合致したかを確認するプロブレムソリューションフィット(PSF)に設定し、その中で自分たちの事業の社会的価値を少しでも可視化することに取り組みます。。

「新たな資源循環の仕組みづくり」のために、研修メニューも特徴あるユニークなものを提供してきました。たとえば、社会や自分たちの事業をシステムとして共通の枠組みから捉え直すために社会学者ニクラス・ルーマンの社会システム論の講義を行ったり、ロジックモデルを活用した社会的インパクトの表現方法の学習、、オーガニックな事業の拡大・成長を目指すための手法としてのコミュニティマーケティング、コレクティブインパクト、ポートランドの都市開発学研修など。、オルタナティブな事業開発に必要な知識が得られるプログラムを多岐にわたって行ってきました。

規制の価値観を揺り動かすスペキュラティブ・デザイン

その中でも一つ例をあげてご紹介するとしたら、スペキュラティブ・デザインのワークショップになります。これは「既存の価値観から離れて事業を捉える」ためのツールであり、今すぐ役立つような一般的なデザイン手法ではなく、課題について深く考えるきっかけを提起するものです。長期的スパンで非経済的な価値によるを循環を地域につくろうとするような事業はなかなか世の中に伝わりにくい側面もあります。そこを揺り動かすために、複雑な問題に対しての新しいアプローチを得たり、他者へインパクトを可視化したりする必要があります。そのための「ツール」になり得るのではないかと考えて、今回は研修プログラムに特別に取り入れました。

今回講師を担当していただいた、アーティストの長谷川愛さんによると、「スペキュラティブ・デザインは、通常のデザインシンキングのようにメソッドがあるわけではなく、ただ態度だけがある」と言います。たとえば一般的なデザインがAだとすると、スペキュラティブ・デザインの態度はBのようなこと(下図参照)。「そもそもどんな世界を欲するのか?」をアートやデザインを通じて議論してもらうのが目的です。
(例: 一部抜粋)

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参加した団体からは「講座を通して、普段どれだけ固定概念にとらわれて発想していたか、気付かされた。角度を変えて発想するために必要な授業だ」「意識していなかったが、今回の事業は完全にB側の視点でデザインしたものだということが明確になり、会社の目指す方向がしっかり腹落ちした。自分たちの中で言語化できてなかったものが、改めて考えることができた」といった感想が寄せられました。スペキュラティブ・デザインは一つのアプローチではありますが、よりテーマを洗練して、また研修プログラムに取り入れていきたいと思っています。

各団体はコロナ禍にありながらもポジティブに発展を遂げ、半年間の成果や今後の課題が発表してくれたので簡単にご紹介します。

① 「二ホン継業バンク」ココホレジャンパン・浅井克俊さん
二ホン継業バンクは地方の事業承継を進めるプラットフォーム。全国的な課題である「継ぎ手不足」を解決する。地方自治体などからの資金の提供を受けて各地方によって独自のサイトを立ち上げ、仲介手数料などに拠らない事業モデルを確立。現在は全国6地区で立ち上げ、高級しいたけ栽培の後継者候補の内定(石川県七尾市)、川魚の養殖業に地域おこし協力隊制度を活用して事業継承(岡山県美作市)など具体的な成果を上げた。掲載案件への問い合わせも増えている。

② 合同会社巻組・代表渡邊亨子さん
東日本大震災で被災した石巻市で空き家活用事業を展開。新築住宅が大量供給される一方、同市には1万3000戸の空き家がある。コロナ禍で住宅需要が変化する中で、首都圏で生活に困窮するアーティストをターゲットに、リノベーションした空き家を提供し、生活の場と発表の場として活用してもらった。地域が応援する仕組みを付加し、アーティストを支援することで地域にもクリエイティビティが育まれる。3カ月間でアーティスト6人を受け入れ、地域の人から素材を提供してもらいワークショップやイベントを開催。120人が参加した。価値観の変化まではいかないが、人とのつながりやギフトの循環、孤立の解消などの成果が見えてきた。

③ 雲南コミュニティハイスクールコンソーシアム /NPO法人おっちラボ・代表理事小俣健三郎さん)
島根県雲南市で人材育成に取り組んできたが、今回は高校生のチャレンジを地域で応援するシステムづくりを目指した。当初はアプリを使って域内消費マイルを交換できるようなプラットフォームづくりを考えていたが、コロナ禍で高校生のさまざまな活動が制限されたため、急きょリアルな交流に代わるオンラインプラットフォームを制作。そのため計画を再検討し、まずはチャレンジの見える化に取り組んだ。Noteを使ったログを制作し、オンライン・オフラインサロンを開催する。今後はチャレンジを応援する文化醸成のための仕組みづくりが課題となっている。

④ 一般財団法人ネクストコモンズラボ・竹内隆太さん
岩手県遠野市で2つの柱によるCOOP事業を展開。1つはお互いに教え合い学びある市民大学「つくる大学」の開設。30以上の講座を実施し、複数回参加する人もいてコミュニティー醸成の兆しが見えた。もう1つはアプリを使った「マイクロワーク」事業。個人の「できること」「困りごと」を可視化して、相互に提供しあう仕組みを作った。たとえば、ホップの収穫、洗車、農作業といったマイクロワークが提供され、地域での交流が進んだ。今後はコミュニティーをもっとオープンにし、地域の関係人口が増やしていきたい。

最後に

SIIF専務理事の青柳光昌からプログラムを振り返って一言。
「今回の4事業はいずれも、地域の中で埋もれていたり、余っていたり、眠っていたりして、従来の資本主義市場では見えてこない資源に、新しい価値を作った取り組みです。いい意味で当初の想定からの変化をポジティブに捉え、デザインし直す作業を進めていただいたと改めて感じました。そのすべてが、貨幣価値だけでは換算できないものがあることを問いかけています。スペキュラティブ・デザインという概念を取り入れて運営してきましたが、まさにそれを体現する半年間であり、通過点でもある。ここで一度は区切りになりますが、今後も組織の事業が変化していくであろうし、われわれも手伝えるところがあると思います」。

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