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連載「休眠預金活用レポート」VOL.4 地域インパクトファンドを通して、沖縄から「社会をより豊かに」アップデートしていく

 SIIFは2019年度、2020年度に続き3年連続して休眠預金等活用制度の資金分配団体に採択されました。2021年度は「地域インパクトファンド設立・運営支援事業」を通じて、地域社会・経済の活性化を⽀える⾦融エコシステムの進化を⽬指します。具体的には、投資型ファンドの運営経験を持つ事業者と地域の⾦融機関が協⼒して、地域課題解決のための地域インパクトファンドを設⽴・運営し、ソーシャルビジネスやローカルビジネスへの資⾦循環を加速化させることが狙いです。

 今回採択された2団体のうちの一つ、沖縄県の「株式会社うむさんラボ」(沖縄県うるま市)は、社会課題解決型ベンチャー企業に対し、資⾦提供や経営⽀援を⾏い、企業の成⻑を⽀援する活動を行っている企業です。「うむさん」とは、楽しい、心地よいなど、明るい気持ちを表現する時に使う沖縄の言葉。うむさんラボの代表取締役である比屋根隆さんを囲み、SIIF専務理事の青柳光昌、インパクトオフィサーの小笠原由佳が、地域インパクトファンドに寄せる期待を語り合いました。

安い沖縄?沖縄を変えるために何かできないだろうか

小笠原 比屋根さんは株式会社レキサスというIT企業の創業者であり、経営者でもあります。そこからうむさんラボを設立されるまでの経緯や思い、個人的な体験などもあれば、お聞かせいただけますか。

比屋根 学生時代、県内のあるIT企業経営者の鞄持ちで東京へ行ったんです。商談をする中で相手の会社社長が、「沖縄のエンジニアは安いでしょう。東京だったら100万円だけど、沖縄だったら50万円くらいでつくれるよね」みたいな話をする。受ける方もそれが当たり前のように契約するのを目の当たりにして、大変ショックを受けました。買う方も、そして売る方も、「沖縄は安い」というのが当たり前になっている経済モデルが悔しかったですし、「今に見てろよ」みたいな気持ちもあって起業したんです。レキサスは今年25期目を迎えますが、創業時からITを軸に新規事業やプロダクトを全国展開しています。これからは国内だけでなく海外でも必要とされ愛される事業やプロダクトづくりを目指しています。

青柳 そうした中で、なぜうむさんラボを?

比屋根 東京を追い越せ、シリコンバレーを超えろ、みたいな気持ちでやってきたのですが、なんで沖縄にいるのに、東京とかシリコンバレーと競うのだろうかと。県外や海外での活動が増す中で沖縄のことを感じれば感じるほど、沖縄らしさがあっていいなと思って。そしたら日本や世界でナンバーワンを目指すよりオンリーワンを目指したいと思うようになって。加えて、沖縄からIPOできるような企業を継続して生み出していきたいということを考えて自分は創業したのですが、採用活動を行う中でレキサスだけでなく未来の沖縄にとっても大きく重たい「人材の課題」に直面しました。例えば、新卒採用を積極的に行いたくても当時面接した県内の大学生の多くが県外や海外でのチャレンジを好まず県内の銀行や電力会社などへの就職を希望する、いわゆる安定志向だったんです。
そのような経験が積み重なり、レキサスとは違う文脈で、沖縄を変えるために何かできないか。毎日メディアで目にする沖縄の社会課題に対し、補助金に依存せず解決を目指すような起業家を発掘し育てるにはどうしらいいのだろうか。あるいは、沖縄が日本や世界の役に立てることってなんだろうか。そうした思いの中で沖縄らしくもあり、これから時代が必要とし目指すであろう「たくましくて優しい経済の循環」をつくりたいというイメージが徐々に育まれ、うむさんラボが生まれました。

小笠原 具体的にはどんな活動をされているのですか。

比屋根 沖縄の課題解決に情熱を注げるような起業家を発掘し、育成・支援する。そしてエコシステムコミュニティをつくるということを事業内容に掲げています。支援先は現在、20社以上になっています。またエコシステムコミュニティをつくるということでは、琉球新報社との「OKINAWA SDGs プロジェクト(OSP)」、株式会社よしもとラフ&ピースとの「島ぜんぶでうむさんラブ(島ラブ)」の取り組みが協働で進んでいます。

多分野多業種のチームからどんなイノベーションが起こるか

青柳 まさにうむさんラボを採択した理由の1つは、比屋根さんが長年の活動で培ったネットワークの力と信頼性。もう1つは、地域インパクトファンドを作るという事業を進めるにあたっての、うむさんラボのチーム力への期待です。メンバーには起業家がいたり、金融や投資の専門家がいたり、編集者がいたり。分野を越えたプロフェッショナル集団で、どんなイノベーションを起こしてくれるのか、楽しみにしています。

 沖縄を変えるための資金調達としてのインパクトファンドを考える

小笠原 今回、休眠預金活用の実行団体に応募してくださった動機を教えていただけますか。

比屋根 うむさんラボとしてこれまで種まき的な活動をしてきて、地域インパクトファンドという手法がそろそろ必要だなと考えていました。沖縄の課題解決を進めていくためには、資金調達がどうしても必要です。ファンドを立ち上げるなら、沖縄の社会課題を可視化して、それをどれくらい、どういう風に改善していくのかロジックモデルを構築して、お金を回す仕組みをつくるということを目指したいなと思っていました。そんな時、休眠預金事業の2021年の事業概要が地域インパクトファンドだと聞いて、タイミングとしてバッチリでした(笑)。うむさんラボとしてはインパクト評価の指標をつくったり、測定したりという経験値が少ないですし、ロジックモデルをしっかり作成して進んでいくSIIFさんの手法が特に魅力的でした。

青柳 比屋根さんとのご縁は2020年、沖縄県産業振興公社が主催した「沖縄ソーシャルイノベーションフォーラム」に呼んでいただいたことに遡るのですが、この時にさまざまな方が「オール沖縄」という言葉を使っていたのが大変印象的でした。それぞれ立場や分野は異なるのですが、オール沖縄で沖縄の課題解決をしていこうと。そうしたマインドセットを経て、いよいよ実弾が必要な時に支援できることは、本当に良いタイミングだったとうれしく思います。

比屋根 地域インパクトファンドが、沖縄全体をつなげる一つの推進力になることを期待しています。今回、問題を可視化できる課題マップというのをつくりました。これがあると、どこに対して助成金や補助金を出せばよいのか、わかりやすくなります。さらに課題マップを沖縄県、県内企業、団体と共有することで、バラバラに流れていたお金の流れに方向性を持たせ、沖縄全体を巻き込んで問題解決、豊かな地域の創出へと舵を切ることができると考えています。

うむさんラボ・SIIF・その他関係者で沖縄の課題を可視化するワークショップ(那覇市)を開催

小笠原 実際に始まって、SIIFに対するイメージや印象が変わったなど、いかがでしょうか。悪くなっていないとよいのですが(笑)

比屋根 皆さんやさしい人ばかりです(笑)。何回もミーティングをするのですが、柔らかい物腰で終始にこやか、そして僕らと同じ使命感を持っていらっしゃることを感じます。僕らと違うのは、日本全体という視野でものを見ている。僕らはどちらかというと沖縄目線、それをもっと俯瞰してご覧になっていて、お互いに刺激し合いながら、よいチームをつくることができるのではないかと思っています。

小笠原 ありがとうございます。ファンド事業は私たちにとっても新しいものですので、よりよい道を模索しながら進んでいるというのが正直なところです。一方、インパクトを追求するというところでは、いろいろなノウハウを提供できると思います。例えば社会的インパクト評価・マネジメントですとか、ファンドのプロセスにそれをどう組み込んでいくのかですとか。伴走者として一緒に考え、地域インパクトファンドを実現させることが、私たちの役割だと考えています。

参加者からは、ファンドに関わる人々の想いを分かち合えたことが良かった、沖縄の未来に繋がるインパクトファンドにしていきたいなどの声が聞かれ、充実したワークショップとなった

インパクトファンドの手法を使った地域発展のモデルは、日本はもとよりアジア諸国に展開できる

青柳 休眠預金事業はソーシャルビジネスを対象としているわけですが、ソーシャルビジネス全体をアップデートする段階にきているのではないかと思っています。例えば社会課題、地域の問題はNPO法人に任せておけばいいよという時代ではなく、今やビジネスの市場にまで広がってきている。関心の裾野が広がっていると感じています。

小笠原 実際に、地域金融のあり方や存在理由は、地域の発展と切り離せないという考える人たちが、金融関係者、投資家などの間で増えているということを聞きました。そのためには金融というものの再定義が必要で、その一つの方向性が課題解決のためのインパクトファンドにあるのではないかと感じています。ソーシャルとは関係のない分野の人たちが、インパクトファンドに関心を持つようになってきたということです。こうした背景を持って地域インパクトファンドを考えると、地域インパクトファンド自体は単体で見ればそんなに大きな話ではないかもしれませんが、それがほかの地域に展開、飛び火していけば、社会を変える力になります。SIIFとしては2021年度の事業はそうした展望と期待を持っています。

青柳 その先頭をうむさんラボに切っていただきたい。

小笠原 これからはソーシャル、民間、行政というロジックを理解し、その垣根を越え、それぞれの立場の人と対話ができる人。あるいは分野を越えて全体像を描くプロデュース能力を持った人材が重要ではないかと思っています。複数のセクターの言語を翻訳してまとめていけるような。うむさんラボは、まさにその位置におられると今日改めて感じました。

比屋根 ありがとうございます。つなぎ役、ですかね。これまでを振り返ってみると、NPO、企業、自治体など立場は違っても共感する仲間が集まってセクターを超えたつながりが生まれた時に、一つの方向へ整える活動をしてきたかな。今お話を聞きながら、そうだなという気がしています。

小笠原 さて事業期間は3年間ですが、これからの3年間、そしてその先の展望としてはどんなことをお考えですか。

比屋根 まずはインパクトファンドを立ち上げること。そして沖縄の社会課題の見える化、それをどれだけ解決できたかを可視化して、高校生でも100円から投資できる「県民ファンド」につなげていきたいと思っています。県民ファンドは仮の名称ですが(笑)

 沖縄には可能性しかないと思っています。世界全体で見ると資本主義の限界、自然破壊の問題が深刻です。これからの時代は、競い合うより、共に創る共創、共に生きる共生ということを考えていかなければなりません。人と人のつながりを感じられて、豊かな自然があって、独自の歴史・文化を持っている沖縄は、時代に先駆けた実証実験の舞台になり得る。インパクトファンドを活用しながら、地域課題を解決し、地域発展に貢献できるこのモデルは、日本はもとよりアジア諸国にも展開できるとイメージを描いています。

うむさんラボ HP

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