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Belle and Sebastian "Late Developers"

Jan 13, 2023 / Matador

スコットランド・グラスゴー出身のロックバンドによる、オリジナルフルレンスとしては8ヶ月ぶり10作目。

自分の話。自分は海外の音楽を聴き始めたのが高校を卒業してからで、周りと比べて割と遅い方だったのだが、Belle and Sebastian はその聴き始めの頃からチェックしていた。きっかけは覚えていない。好きな日本のバンドが影響源として挙げていたか、雑誌でプッシュされているのを目にしたか…どちらにせよ、バンド名や種々のカバーアートから発せられるノスタルジックで洒脱な雰囲気に魅了されていたのは確かだ。初めて聴いたアルバムは2000年リリースの4作目 "Fold Your Hands Child, You Walk Like a Peasant" 。原題を全く無視した "わたしの中の悪魔" なる邦題、また草野マサムネの推薦コメントも決め手になっていたと思う。しかし初めて聴いた時は正直言ってあまりピンと来なかった。当時日本のロックバンドにどっぷりだった耳には、インディフォークを主とする彼らの楽曲はどうにも地味すぎたのだった。

ただそれでも彼らの名前はずっと頭の片隅にあり、数年立ってからリリースされた6作目 "The Life Pursuit" をたまたま見かけ、やはりカバーアートの格好良さに惹かれて再度チャレンジ。結果、ズバッと心に刺さった。これは前作にあたる "Dear Catastrophe Waitress" からの変化なのだが、それまでの簡素なフォークソングから大きく飛躍し、管弦楽器やキーボードの色とりどりな音色、躍動するリズム隊をフィーチャーしたキャッチーな作風にシフトしており、従来の上品さを保ちつつ明快に弾け、フレンドリーな受け皿の広さを備えた楽曲群はすぐさま自分を引き入れてくれた。そんな具合なので、世間一般的に最高傑作とされている "If You're Feeling Sinister" などの初期の作品よりも、自分にとっては "The Life Pursuit" を筆頭とするゼロ年代以降の方が、ベルセバと言えばコレ、という認識でずっといる。

それで今回の新作も同様に「ゼロ年代以降のベルセバ」である。情報によれば今作は、コロナ禍のためにバンド活動が制限される中、昨年リリースの前作 "A Bit of Previous" と同じタイミングでレコーディングされたものとのこと。初の完全セルフプロデュースで、約20年ぶりに故郷のグラスゴーのスタジオを使用した点も前作と同じ。だがアウトテイクというわけではないし、それぞれで方向性が明確に分けられていることもない。単純に良い曲がアルバム2枚分できたので2枚作り、出す時期を分けてみた、ただそれだけのことだと言わんばかりのノンコンセプチュアルな風情である。敢えて言えば今作の方が曲調の幅が広がっているだろうか。何せ上に貼り付けたリードトラック "I Don't Know What You See in Me" からして、バンマス Stuart Murdoch がリアルタイムで洗礼を浴びたであろう80年代シンセポップを参照元としているはずだが、何なら Lady Gaga が歌っていてもおかしくないくらいの突き抜けた爽快なポップさがある。その一方でオープナーは湿っぽい憂いたっぷりの "Juliet Naked" だったり、"So In the Moment" は Thin Lizzy のような歪みの効いたパワーポップ 、そしてラストを飾る表題曲 "Late Developers" ではゴスペルコーラスを盛大に取り入れたソウル/ファンクまでやっている。この雑多さも現在のベルセバを象徴するものだ。もちろん彼らならではの軽妙なメロディセンスによってその雑多さは統合され、アイディア豊かなひとつのアルバム作品として綺麗に成立している。

何より、今作を聴いていて嬉しくなる最大のポイントは、もう少しで結成から30年を迎えようとしている大ベテランが、元来のポップス職人としての質を落とすことなく、これまでの様々な実践を踏まえた上で、無邪気なまでに新しい試みに挑戦している、その足取りの軽さなのだ。オリジナルアルバムとしては今作/前作と前々作の間に7年のインターバルがあるが、その間にもサウンドトラックや EP の連作などリリース自体はコンスタントに続いており、ペースを落とすどころかここに来て上昇気流の気配すら見せている。作品を重ねるごとに大所帯のアンサンブルはエネルギッシュに若返り、いつの時も決して駄作は出さないという、この止めどないクリエイティビティの高まりは一体どこから来ているのだろうか。懐古や内省ではなく前のめりのポジティブなバイブスを感じさせるポップスメイカー、現在進行形のバンドとして彼らはまだまだ評価されるべきだと思う。


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