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Congotronics International "Where's the One?"

Apr 29, 2022 / Crammed Discs

Konono Nº1 、Kasai Allstars 、Deerhoof 、Juana Molina 、Wildbirds & Peacedrums 、Matthew Mehlan (Skeletons) の総勢19名によって結成されたスーパーグループの初フルレンス。

2011年の FUJI ROCK FESTIVAL に出演していた Congotronics vs Rockers のことを覚えている人は、果たしてどれくらいいるだろうか。ステージは今や懐かしの ORANGE COURT 。夜10時を回ってすっかり暗闇に包まれ、雨が降って地面がズブズブの泥沼と化した中で、ステージ上に所狭しと集結した大所帯バンドの打ち鳴らすアフロビートを全身に浴び、疲労がピークを越えてナチュラルハイに向かっていたのもあって、ほとんど前後不覚といった状態で目をグルグル回しながらも愉快にはしゃぎ続けていた。さすがに11年も前なのでかなり朧気になってはいるが、そういった幸福な時間が存在していたことは確かに覚えている。ただこのプロジェクトは、2011年にヨーロッパ諸国と日本を巡る10数本のツアーを終えた後は表立った活動を終了しており、あくまでも期間限定の企画だったのだと認識していた。

あの時の恍惚が、まさか11年の時を経て帰ってくるとは思わなかった。

そもそも "Congotronics" という造語は、コンゴ民主共和国出身のアフロポップバンド Konono Nº1 が2005年にリリースしたアルバムのタイトルだったのだが、その後には Kasai Allstars など複数のコンゴ出身バンドが集まってのコンピレーション形式となった "Congotronics 2" 、そして Kasai Allstars の単独名義による2008年リリースのアルバム "Congotronics 3" と続いていき、いつしか彼らが所属するインディレーベル Crammed Discs のシリーズ企画となっていった。この企画はさらに発展し、2010年にはコンゴ国外のミュージシャン… Deerhoof や Juana Molina 、Animal Collective 、∈Y∋ (BOREDOMS) など方々から多彩なメンツを招聘して、コンゴミュージックのトリビュートアルバム "Tradi-Mods vs Rockers" を発表。"Traditional-Moderns" 、つまり伝統と革新性を兼ね備えたコンゴの精鋭たちと、皆が皆オリジナルの表現スタイルを持つ世界各国のオルタナティブな "Rockers" との邂逅。ここで生まれた接点が "Congotronics vs Rockers" ツアーへ繋がっていくという流れだ。

それで、このたびリリースされた "Where's the One?" は、2011年前後に録音されたライブやスタジオの音源を元とし、その後10年に渡ってリモートで追加レコーディングを続け、名義を Congotronics International に改めてようやく完成した、ボーナストラック含めて全23曲、トータルタイム80分以上の大作である。

1曲目のアルバム表題曲 "Where's the One?" の時点で、ほとんど忘れそうになっていた11年前の狂騒が頭の中に甦ってくるのを感じた。情報によると曲名の "Where's the One?" とは、リハーサル初期の頃はアンサンブル全体をまとめるのが難航し、メンバーが口々に「曲の出発点はどこだ?」と漏らしていたことに由来しているのだと。実際、上に貼った過去のドキュメンタリー映像には、リズム隊がなかなか周りと演奏を合わせられなくて四苦八苦している様子などもはっきり記録されている。だがそんな試行錯誤の果てに完成した楽曲は、むしろ "Here's the One" だ。とっくに答えは出ている。複数のドラム/パーカッションによるトライバルな躍動感、電気リケンベ(親指ピアノ)の強烈な響き、甘いトーンのギターにユーモラスなコーラス隊、それらが一丸となって聴き手を熱狂の渦の中へと瞬時に飲み込んでいく。牧歌的な雰囲気でありつつ、演奏はあまりにも強靭で、この即効性にはひとたまりもない。

他には各参加アクトが過去に発表した楽曲のカヴァーも多数あるのだが、中でも Konono Nº1 "Kule Kule" に手を加えた "Kule Kule Redux" が強烈だ。原曲はリケンベの音色に少しずつリズムが重なっていく実験的なアレンジだったが、ここではド頭からアドレナリン全開のダンストラックへと変貌している。ヘヴィに歪んだ音色のリケンベはアフロを通り越してインダストリアルのようだし、演者全員が押しの一手で迫ってくるビートの奔流は、正規フルレンス用にサウンドを幾分か整理整頓してあるとしても、トランス状態に向かうには十分すぎるほどの迫力である。また、ドリーミーなシンセが印象的なインディポップだった Deerhoof "Super Duper Rescue Heads!" も、アフロ要素を注入されて熱量増し増しの "Super Duper Rescue Allstars" になっていたり、Wildbirds & Peacedrums "Doubt/Hope" はドラムとボーカルのみだった原曲に大所帯の演奏が付け加わって、曲本来の持つ緊迫感に拍車が掛かっていたりと、とにかくアイディアが溢れ返っている。

かつては "vs" という単語で連結していた各メンバーが、International の名の下に同一線上に統合され、長い時間を経てついにひとつの作品へと結実するに至った。野性味、インテリジェンス、懐かしさ、挑戦心、それらすべてがここでは見事に一体に繋がっている。いつの日にかこの作品のエナジーをもう一度、生の現場で体感できることを願う。できれば晴れた日に。


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