Marilyn Manson "WE ARE CHAOS"

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アメリカ・オハイオ出身のロックバンドによる、約3年ぶりフルレンス11作目。

個人的な考えを言うと、マリリンマンソンが音楽シーンの流れを牽引するような最新のスタイルを提示していると思ったことは一度もない。近作だけではなく、一般的に全盛期と呼ばれているであろう90年代やゼロ年代においても、最新のスタイルと言うよりはむしろ時代錯誤的な、古めかしくていなたいといった印象がずっとある。メインストリームに食い込むことはあっても時代の趨勢とは常に一定の距離感があり、どこかコミカルなB級感もツンと鼻を突くしで、いつの時でもヘンテコで風変わりな、結果的に他の何物とも相容れないオーラを発しているバンドという、自分がマンソンに抱いているイメージはそんなところである。

それで、古めかしいとはどういうことか。自分はマンソンの音楽を聴くたびに、強烈にグラムロックを感じるからである。表層的にはいわゆるインダストリアルメタルの要素であったり、不謹慎でエキセントリックなモチーフであったりと、良くも悪くもインパクト重視、ストレートに刺激的な要素が目立ってはいる。だが実際の楽曲を聴けば、代表曲の "The Beautiful People" にしろ "Rock Is Dead" にしろ、オールドスクールなグラムロックの旨味がキモにある代物が多い。グラムが本来持つクドいまでの煌びやかさ、エンターテインメント性に溢れた破天荒な世界観、そしてポップソングとしての品質の高さ。それらはマンソンが世に出始めた頃には、ロックンロールの古典的な形式のひとつとして市民権を獲得済みだったかと思うが、それをよりグロテスクかつキャッチーに、過剰にゴテゴテした形へと拡大解釈したのがマンソンなのだという。まるっきり新しいものを発明したわけではなく、古き良き時代のリバイバル精神が土台にあるように見えるのだ。そもそも彼はグラム以外にも Eurythmics や Soft Cell など、選曲の審美眼的にはアウトかセーフか際どいラインの懐メロをカバーし、見事ヒットに繋げてみせたという経歴もあるわけだし、基本的にはルーツを重んじる懐古趣味的な意識が大きい人なのだろうと、自分は思っている。

それで今作の新譜はと言うと、そういった彼の懐古趣味がいよいよ派手に露見し、2020年の音楽シーン内ではもちろん、30年に及ぶマンソンのキャリアを見返しても、特にヘンテコさが際立っている快作/怪作なのである。

共同プロデューサーにフォーク/カントリー畑の Shooter Jennings を初起用し、演奏陣のラインナップもガラリと一新されているということだが、それによってかサウンドプロダクションのみならず、楽曲の方向性自体にも変革が起きているのだ。特にアルバム前半部はそれが顕著である。2曲目のアルバム表題曲 "WE ARE CHAOS" を皮切りに、立て続けで繰り出されるロッカバラードの数々。アコースティックギター、ストリングス、ピアノ、シンセなどを全面的に導入しての絢爛なアレンジ。完全に70年代 David Bowie 、グラムロックの中のグラムロックなのである。何とも華やかでポップ、かつサイケデリックな滋味もあるが、同時にマンソンのボーカルは従来の毒々しい個性を存分に発揮。またヒステリックなノイズも効果的に挿入され、聴いているだけでズブズブと底なし沼に引きずり込まれるような、美しさも醜さもごちゃ混ぜにした極彩色のサウンドスケープを構築している。その中でも自分が特に痺れさせられたのは4曲目 "PAINT YOU WITH MY LOVE" 。ラブソングの体裁をとってはいるが、退廃的なムードも蔓延しており、終盤での鬼気迫るマンソンのシャウトは断末魔のようで、彼のシアトリカルな表現力が特に冴え渡っている。

アルバム後半に入るとマンソンの王道と言えるダークかつヘヴィな路線が復活するが、得意のシャッフル調の "PERFUME" や、インダストリアルならではの重苦しい緊張感を打ち出した "KEEP MY HEAD TOGETHER" にしても、リズム隊のグルーヴやギターリフには普段よりもルーズな感触が見られ、それが T.Rex を彷彿とさせるところもあったりで、やはりグラム由来の恍惚感が色濃く表れているように思う。このグラム感はメタルやゴスと同様に、マンソンを構成する要素のひとつとしてかねてから備わっていたものだし、目新しいかと言われると微妙かもしれない。しかしながら今作は、各要素の配分を変えるだけでこれほどにも以前と違った姿に映るものかという、新鮮味や驚きの方がやはり大きい。前半を陽パート、後半を陰パートに分けることでメリハリのあるドラマチックな構成を作り、なおかつグラムというテーマを軸にすることでトータリティも確保。紛うことなきマンソンワールドの新境地がここに提示されている。ついでに言えば10曲42分という尺も、サービス精神旺盛すぎて特盛状態になりがちなマンソンにしてはえらくコンパクトな設計で、中弛みすることなく聴き通せるのもポイントが高い。

いやはやしかし、2020年、ここに来てまさかのマンソン大復活か…などと言うと、(メンバーチェンジこそ多いものの)コンスタントに作品リリースを重ねながら第一線で活動し続けてきた彼には失礼か。何はともあれ、マンソンはこの強力な新譜でもってグラムの歴史、ゴスの歴史、ひいてはロックンロールの歴史を新たに更新してみせたのだ…などと大袈裟な煽りをしてみたり。いや今作はそれくらいリキの入ったことを言いたくなる傑作、というわけだ。ベテランが己の持ち味を熟成、刷新し、今も変わらず現在進行形の姿を見せてくれている。これほど嬉しいことはない。

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