僕は卯月コウに会った。

これはいわゆる「おなえどしリアイベレポート」なんですが、イベントの様子を伝えるものにはならないと思います。だって様子を伝えるレポなら絵付きのものまで含めてたくさんあるし、時間が経ってしまって記憶が鮮明じゃなくなってしまったから…。なのでほとんどは僕自身の旅行記です。

僕は東京にたどり着けてしまった

実際の話なので本気でバカ正直に書いていくんですが、まず僕は東京まで自転車で行こうと思ってました。敢行する直前に家族に気付かれ高速バスで行くよう説得されてしまったのですが。地元は三秋縋先生と同じ岩手県。
google先生に聞いてみると「徒歩で104時間!」なるほど、自転車でその4倍の速度を出せば1日で辿りつくじゃねえの!算数の問題じゃないんだから…。

そもそも梅雨だった。急にざあざあと降り始めたりぴたっと止んだりする雨の音を聞きながら、コウのエモグランプリ開催の知らせを見た。荷物をバッグにしまいながら、イヤホンでコウの声を聴く。「エモグランプリ・アフターグロウ」はコウの感性で投稿文から投稿主の人格までも深く考察するのは前回と同じだったけれど、照らし出された像の結び方の違いからコウの変化を実感する回だと思った。相変わらず言葉選びが歌詞のよう。今回は伴奏(BGMの事です)がなくて、「ガム噛め!」というシャウトと共に終わった。そのたとえはどうなんだ、とは思うけどまるで失恋でもしたような寂しさで高速バスに揺られることになった。

「僕がこれから会うのは誰なんだろう」と思った。そして、なんで会いに行くんだろうと。というか、今回2部まで参加した人の結構な割合の人が悩んだことと思います。そうだと言ってくれ。こんな面倒くさいファンが僕だけであって欲しくはない。「なんで卯月コウに会うの?」という。思えば、自転車で行こうと思ったのも、時間だけはたっぷりあるサイクリングのうちにコウと会う理由やコウと話す事を思いつくだろうという算段だった。あるいは、苦しんで辿り着けばコウに会う資格があると自分を誇れると思った。

そんな分かりやすい免罪符は無いので、考えなくちゃならない。高速バス、電波の通らない真っ暗のバスの中、ずっと考えてた。むしろ、勝手にコウを頭の中で暗い部屋に住まわせて、同じだな、みたいに心のどこかで思ってた自分のほうがおかしい。そこからもう出ていて明るい場所を進むコウがコウじゃないなんて、そんな寂しい話はない。今から会いに行くのは間違いなくコウだ。でも、紛れもなくステージに立つ側の人間に会いに行く訳だけど「ファンです!」なんて言ってコウに会いに行くのはなんか違うよな…。

2回目のパーキング休憩で運良くフリーwifiに繋がった。そこでコウが「アイシー」を発表したと知った。youtubeに飛んで聴いた。開いた瞬間「嘘じゃなかった」ってきこえた。あまりにも素直な叫びから始まるその歌は今までの全部が詰まった歌で、コウの不安とか、立ち向かってきたものとか、その覚悟とか、そうして得たものとかが波になって飛びこんできて何も考えられなくなった。

どんな意味を込めた「アイシー」かなんてわかりゃしないけど、もしその中に軍団へのまなざしも含まれているなら、勝手に裏切られたみたいな事考えてうじうじしてる暇なんてない。心を読めもしないコウが、それでも沢山の人を巻き込んだステージの上から全部見届けるって言うなら僕もコウを見届けようと思った。なんなら、悔しいと思った。消費者コンプレックスってなんだよ、誰も文句言えないような物作ってんじゃないかって悔しくなった。でも悔しいとか、すごいとか、対等の友達みたいな感覚で気持ちが動く事全部が嬉しかった。めちゃくちゃ好きな友達に会いにいく、それで良いと思った。電波が切れてもストリーミングされた動画はしばらく再生し続けられるらしく、今どこまで進んだかもわからない深夜バスの中で聴き続けた。アイシーを聞き、脳内のコウと話し続けているうちに東京に辿り着いた。着いちゃったならしょうがない、せっかくだから会いに行こうと思った。

僕は仮面を被っていかなかった事を後悔した

おしゃフェス会場のまわりに人が集まっているのを見て僕は「頼むからイベント参加者じゃないと良いな」と思った。そろいもそろって身なりは綺麗だし、なんか談笑してるし。なんだお前ら。まさか卯月軍団じゃないよな。頼むからそうだと言ってくれ。僕は失念していた。リアルイベントに来るのはそれなりに外に出られるだけの条件が整っている人間たちだという事を。

都会にまぎれこんだ原始人の気持ちで列が進むのを待つ間、僕はグーグーの仮面を作らなかった事を後悔していた。不滅のあなたへの登場人物だ。事故で顔が潰れて以降、カメレオンのような仮面を被っていた。
僕は僕の顔が大嫌いだ。鏡や写真どころか、銀食器の鏡面に映り込んだ自分の顔を見るだけで吐き気がする。出来るだけ顔を手荷物でさえぎって不審者のようにしながらスタッフの案内を受けたのは最前列。客席を映すカメラが設置してある。それが映す映像を、コウが見ている。自分の醜い顔を見られている。

見る、というのは特別な行為だと思う。ずっと記憶に残っている大学の授業がある。キリスト教学、といういかにも思想的なバランス取りの難しい授業で、だいぶ警戒して受けていたが、その授業の先生は変わっていた。毎回、好きな楽曲や映画を見せてはものすごい遠回りをして聖書の世界と現代とを結び付けていた。ある授業で「ハンマーソングと痛みの塔」を流し、「痛みを積み上げて積み上げていって、それに見合うものが手に入らなかったらどうするか」という話で出てきた宗教用語が「贖い」という言葉。本来は罪を償うこと、神様によって罪が許されるという意味なんだけど、「報われないまま苦労だけ積み上げてきて、その理不尽を受け入れるためにその行いを誰かに見届けてもらう事」として相当現代寄りに解釈されて講義に使われた。その是非はともかく、ずっと頭に残ってるその言葉が、投影されたコウを前にして頭に浮かんだ。生きてることを認められた気がした。

何を話したわけでもないのに投影されたコウの目をみた瞬間もう泣きだしてた気持ち悪い最前列の奴が僕だ。むしろ、おしゃフェス中の方が落ち着いていたくらい、始まる前が一番取り乱していた。1部自体は特別感はあれどいつものおなえどし配信スペシャル版、って感じ。こちらの反応がダイレクトに届くからおなえ3人の会話に参加しているような気分になってだいぶ気恥ずかしかった。コウがこちらを見たり台本を見たりしながらちょうど良い言葉を差し込むのを聞いて、やっぱり会話が上手いなと思った。意図せず小ぎれいでコミュニケーション能力に長けた集団に混ぜられてだいぶ死にたくなってたけど、それだけでも来たかいがあった。印象深かったのは霞ちゃんが「アイシー」の感想を言い淀み、コウも反応に困っていたシーン。お互い笑いにつなげることもイベントのコミカルな空気の中で本気の感想をいう事も出来ず、「良かったよ」と「ありがとう」だけのやり取りに確かな信頼関係が見えた。
そのほかの詳しい内容はなんか絵付きのハイパークオリティレポとかを見てくれ!ただのおなえオタクとして口開けてただけだったからめっちゃ楽しかったことしか覚えてない。

僕はコウと会話、出来なかった

僕の整理券番号は1だった。なんの冗談だ。よく覚えてないんだけど、あの順番はランダムだよね?手が震える。二部は思った以上に他列との間隔も後ろの人との間隔もせまく、余裕で他の人の会話が聞こえてしまう。もっとこう、刑務所の密室空間みたいなとこで話すものかと思ってました。蚊の飛ぶような声で急に振り返ってそんな感じの事を言ったら後ろに並んでる人たちの会話がとぎれた。コミュ障は人に迷惑をかける。死にたくなった。
コウがディスプレイに現れる。思わず路地裏から猫でも飛び出て来たみたいに「うわっ」っていって後ずさりしてしまった。段取りも何も、実験台一号が僕だ。参考なんてないまま、伝えたい事だけを脳内で唱えていた。
ヘッドセットを被るとコウの声が聞こえてきた。

あっ…こんにちは(?)「あー、俺も正直緊張してるからさ、なんか話題があったら」えっと…こうして対面して思うのは、やっぱりさ「うん?」
俺と話すコウ、解釈違いだなって「ぶははっ(めっちゃ笑ってくれた)」
俺となんか喋ってんじゃねえよって思いながら最速チケット貰っちゃったからね「うん」(このへんでお互いの声が被る)あの、歌良かったよ「ありがとう」でさ、歌詞を聴いての勝手な思い込みだけど、コウが部屋晒し配信とかするのもそうだと思ってて、もし心を見ることはできないコウが、見てる人が何考えてえるかわからなくてそれが知りたいって思うならさ、言いたいって思って。コウがキラキラ輝くのはやっぱりうれしいし、でも変わるのが辛いとか悔しいとかあるけど、そう思わせてくれることもやっぱり嬉しいし、そういう風に思えるようになれたことが嬉しいんだ。コウに負けないようにがんばるよ。だから…(このへんで肩を叩かれる)「いやこれ、途中で後ろから肩叩かれるの野暮だなー!」あ、はい、もう終わり?はい。(ヘッドセット外しながら)えっとだからコウ、好きだ、大好きだ!

なんだこれ(大体こんな感じでした、多分)。書いてて死にたくなった。会話になっていない、一方的にまくしたてて困らせただけ。コウの言葉をもっと聞きたかったはずなのに。他のレポ見てると、もっとちゃんと会話していて羨ましくなった。心がひび割れたまま撮らされた2ショットは、左側には金髪美少年が、右側は吐き気がするほどおぞましい顔が映っていて、すぐ削除してしまおうか迷った。あとで編集して自分だけ消した。会話する相手ももういないから、適当に壁のサインを撮影して帰った。

そのあとは、よく覚えていない。バスタ新宿とかいう選ばれた勇者しか入れない秘境を2時間くらいかけて探し回り、高速バスに乗ってドナドナ帰った。アマゾンプライムでシンゴジラを見ながら総辞職ビームをここに撃ってくれないかなあとか思っていたら仙台についた。終電もバスもない。あれ?
朝までコンビニのフリーwifiにすがって外のベンチでアイシーを聴きながら夜を明かした。まさか最後にホームレス体験をしなくてはならないとは思わなかった。

結果的に全部の目的を果たし、無事に帰ってはこれた。行く前と行ったあと、何が変わったわけでもない。自分は相変わらず嫌いだし、コウの観方が変わったわけでもない。でも僕がコウと(軍団の誰より最初に!)出会ったその瞬間だけは嘘じゃなかった。死なないで居る支えには十分なものを貰った。1週間もたって気恥ずかしいけど、感謝しかない。

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