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2.最初のレッスン


もっと小さいころから習うもの
というイメージを持っていた私は
レッスンに行きたい
と言い出すタイミングを見失ったまま
中学は吹奏楽部で忙しく過ごし
高校は反動で帰宅部だった。

***

ある日、ちらしを見つけた。
二つ折りの新聞より一回り小さい
うすい黄色の紙に、黒一色で印刷されている。


エレクトーン・ピアノ教室
おばあちゃまもどうぞ


今でこそ、大人のレッスンは珍しくないが
当時は珍しかった。


おばあちゃまでも大丈夫なら
高校生の私は大丈夫だ。


 即、電話して見学し
そのままレッスンを申し込んだ。

先生は、私の母親くらいの歳だった。

***

「何か弾いてみて」と先生。

私は、美しき青きドナウを弾いた。
本屋さんで買って弾いていた楽譜の本のなかで
1番簡単そうだった曲だ。
クラシックの本ではなくて、映画の本。
2001年宇宙の旅。

「左手の伴奏だけど
ブンチャッチャのブンは
ピアノは、左手の小指で弾くけど
エレクトーンは、左足のペダルで弾くんだよ」
買ったのは、ピアノの楽譜だった。

私はその日
初めてペダル鍵盤をまともに使った。

最初に習ったのは、CとG7。
Cは左足がドで、左手がソドミ。
G7は左足がソで、左手はソシファ。

ピアノの左手の役目を
エレクトーンは左手と左足で分業する。
主音を足でとるので、左手は比較的自由。
今回、CとG7の左手は
小指はそのまま。
親指と人差し指を、それぞれ鍵盤ひとつ分ずつ
開いたり閉じたりすればいい。

宿題は、曲をさらうのと
家のエレクトーンの機種を調べてくること。
「鍵盤を下からのぞけば、書いてあるよ」

私のエレクトーンはD60だった。
先生はHS。
当時の最新の機種がHSだったということだ。
当時としても、D60は古い。

「D60でも大丈夫。わたしも持ってたよ」
まだ始めたばかり。
難しい曲を弾くわけではないのだ。

***

それが、先生と私の最初のレッスンで
今行ってきたのが
先生と私の最新のレッスンだ。

あれから何年経っただろうか。
途中、地元を離れて通えないときがあったが
それでも20年は通っている。

HSだったエレクトーンも
ELを経て、今はSTAGEA。

私も先生も歳をとった。
最近の先生との会話は、昔話が多い。
同じ話を何度もする。

「高校生になって
レッスンに行きたいと言うなんて。
もう受験生なのに、と
お母さんが言っていたよ」
先生は今日も言う。

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