はまぐりのひらくまで

春の俳句を五十句つくったので、その半分の二十五句を自選してみました。
だいたいいつも同じ季語しか使わないので、そのあたりなんとかしたいなと思いつつ、結局使い慣れない言葉を一句の中で浮かないように使うのは難しくて。

はまぐりのひらくまで
             しま

みづうみに影をぽつりと雛飾る
ひる過ぎのあくびはふたつさくら貝
蛤のひらくまで夢を同期せよ
湯に塩をうちてふつふつ猫の恋
いぬふぐりかはりに泣いてくれないか
歌舞伎揚ざくざく噛んであたたかし
末黒野にまくらを持つて生まれけむ
野遊びのいつしか瞼閉ぢてゐる
去年はもつと河津桜が軽かつた
火のなくて煙の匂ふ遅日かな
初蝶やバケツのうらに水を溜め
ピーカンナッツに肉色の襞月おぼろ
むきえびを叩きつくして春の暮
風船のつぎつぎ夢を手放せり
ひきだしに足かけて春の少年は
春の夢けふは尾鰭を忘れきし
跋文に謝意ながながと春の雁
鳥帰るこぶしに傷を握りしめ
春の月豆腐に水のじわじわと
膝が見えたり見えなかつたり蝶の昼
ぺたぺたと黒糖蒸麺麭水温む
塩鯖の皮目美し春の暮
口中の傷を大事に春の虹
春嵐胸のすとんと落ちにけり
てふてふに触れた両手も消毒す

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?