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人と野生動物の共生

 先日、山間部に住んでいる友人から、最近はイノシシが人里近くに多く出没しており、夜に車を運転するとイノシシに遭遇する危険があるので、夜に車で外出せざるを得ない場合は、多少周り道になっても平野部の幹線道路を通り、山道は避けるようにしているという話を聞きました。実際、その友人の近所の知り合いで、イノシシに車をぶつけて廃車になった人が3人もいるそうです。
 列車の運行情報でも、秋田新幹線や地方のローカル路線で、列車がイノシシやシカと衝突してダイヤが乱れているというような情報が、電車内のデジタルサイネージで時々流れることもありますし、北海道などでは札幌市内の住宅街にもクマが出没したというニュースが先日も報道されました。おそらく、ここ数十年ぐらいは、過疎化の進む農村部で人里が拡大していることはないと思いますので、野生生物の生息範囲が拡大し、人里に進出しつつあることは確かなようです。
 原因として考えられるのは、山間部に近い、条件の悪い農地について、耕作放棄地が拡大し、そうした農地には収穫されない農作物が実っていたりする上に、農地に灌木や雑草が繁茂して、野生生物が隠れるのに格好の場所となってしまっているため、本来臆病である野生生物も安心して平地に下りて来ることができて、昼間はそうした耕作放棄地に身を潜め、夜になってその先にある農地を荒らしたり、近くの住家に入り込むといったように、農地管理の問題があるようです。
 現実的に、農地を相続した子孫は遠い都会に住んでいることが多く、そうした農地を見たこともないし、資産価値のない農地の刈り払いにお金をかけるなんてしないでしょうから、周囲の農家が買い取らない限り、そうした耕作放棄地の解消は難しいでしょうが、地域の担い手も高齢化しており、他の家の農地まで手を広げる余裕がない、ただ、それが結果的に、自分たちの農地の被害も拡大させている、そういう事情もあるようです。
 また、野生生物の個体数が維持されるためには、毎年一定数が捕獲される必要があり、そのためには箱わなや猟銃を使いこなすハンターが必要ですが、ハンターも高齢化しており、個体数の増加に対応しきれていないというのもあるようです。若手のハンターは増えているようですが、多くは自分たちで家に持ち帰り、捌くことができる鳥の専門だそうです。
 捕獲、とどめをさす、解体するといった一連の作業を、山深い現場に入っておこない、さらに専門の解体処理場に持ち込む必要があり、手間のかかる、イノシシやシカに限ると、ハンター人口は実際より少ないようです。
 かつては、重要なタンパク源だった野生生物も、家畜食肉の品質向上と飼養技術の進歩で、今は一部の愛好家の嗜好品に止まっている状況であり、ジビエ利用拡大についても、地域全体で進めているというところはあまりないようです。
 山林は次第に野生生物の支配する領域になっていき、人が入り込んで管理することが難しくなっている、縄張りというのは物理的障壁ではないので、棲み分けが曖昧になると、色々と問題が出てくるものだと思いました。


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