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7月31日の応援歌。アイビスサマーダッシュ、新馬先生はこう見る。

アリスのチャンピオンという曲がある。
ボクシングのベテランチャンピオンが若き挑戦者に敗れゆく姿を表現した曲だ。

取引先の社長で、この歌が大好きで2次会の一発目は必ずこれからスタートする。
この主人公のモデルが沢木耕太郎の作品で読んだ主人公だと知ったのは
30を手前にしたころだった。

『クレイになれなかった男』
『一瞬の夏』

ノンフィクションの世界には、
決して漫画の世界では起きない、リアルな人間の悲哀が感じられる。
チャンピオンという曲が、
リリースされてから43年たった今も、
中高年の心のどこかに刺さって抜けないのは、
沈む太陽のようなチャンピオンをどこか自分に重ねてみせるからかもしれない。

今週の日曜日、
さいたまスーパーアリーナで
僕らは、もしかするとそんな人間ドラマが見れるかもしれない。

闘うフリーターと言われた
その男の雄姿を。

時は2005年に遡る。
まだ格闘技が民報放送でゴールデンタイムに流れていた頃、
ギロチンチョークを武器に帝王と言われたブラジル人格闘家がいた。
ここ3年負けなし。
修斗世界ライト級(-65kg)王座を6年間5回防衛していた

名をアレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラ。

彼のテレビ初お披露目に当て馬として、トーナメント1回戦でぶつけられたのが
彼だった。

開始のゴングから鳴り止まない攻撃。
初めて聞いたその格闘家は、夏の孵化したばかりの蝉のように、
その存在をリングでアピールする。

3ラウンド戦い決着は付かない。

延長ラウンドになった、その刹那に
所英男は、相手の間隙を縫って鋭い回転のままバックハンドブローを当てた。
帝王はロープに打ち付けられるまま、マットに沈む。

日本格闘技史上でも有数のアップセットを演じたシンデレラボーイは、
その劇的さを、彼の格闘技人生で見せ続けた。
主役になれそうな時に、星を落とし、
相手が格上になれば、下馬評を覆す。
ここで勝てば世界進出という勝負やタイトルマッチでは、
その年1番の戦いを見せるも、あと1つの所で主役にはなれなかった。

そんなドラマティックな格闘家、所英男は来月45歳になる。
そして、彼はいまだに現役のファイターだ。

彼は、今週末、戦う。
階級を落とし、過酷な減量をしながら。
中年の星となった所は、体から邪念と共にその精機を吸われかねんように
こけた頬で、戦い前の取材を受ける。

戦う相手は、彼が生きてきた人生の半分ほどの年齢で
4年以上勝ち続けた神童。

わずかに震える 白いガウンに君の 年老いた悲しみを見た。
リングに向かう 長い廊下で 何故だか君は 急に立ち止まり
振り向きざまに 俺にこぶしを見せて 寂しそうに笑った。
アリス チャンピオンより

同じ日、同じ頃、新潟で1頭の馬が戦いに挑む。
かつてのその舞台の王者と言われたその馬。

彼がかつて、支配した1000m直線という舞台で
彼はもう一度だけ、その栄光を取り戻そうと走る。

ただし、その道のりは優しくない。
圧倒的に外枠が有利と言われる中で、彼が引いたのは最内枠。
運も彼の敵となった。

そして斤量は彼が背負った中で最も重い58㎏。

そして何より彼は年を取った。
瞬発力が求められる短距離で、7歳というベテランだ。

彼の復権は茨の道。
「不可能」
の文字がよぎる。
獅子の王も後進に道を譲るのだ。
老兵はただ消え去るのみと。

否、そうではない。50数秒のために彼は走る。
全力で一直線に走り抜ける。

所もライオンボスも、
表舞台に立つ瞬間はあらゆる不利や年齢を忘れて
一競技者として戦う。
そして、その舞台は誰にだって公平だ。

夏の熱い蜃気楼が見えそうな
その戦場で、
見える何かを求めて。

その先に道があるのか、
そこが終着駅なのかは分からない。
けれど、彼らが歩んできた道を信じて、
少しだけ、同世代の僕は彼等と共にしばし夢を見よう。

頑張れ、ライオンボス。

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