2023 オークス 新馬先生はこう見る~漂流
プロローグ
今、金曜日に「ペンディングトレイン」というTBSのドラマを見ている。
偶然同じ電車に乗り合わせた見ず知らずの乗客68名が突如、未来へのワープに巻き込まれ、電波が通じない上、水も食料もない極限下で懸命に生き、元の世界に戻ろうとする姿を描いた作品だ。
この作品を見ていると、僕は少し前のドラマを思い出す。
20年前に、フジテレビで放送された「ロング・ラブレター〜漂流教室〜」という作品だ。
とある学校で、突然大地震が発生。地震は一瞬で収まったが、気付けば学校の前には建物もなく人もおらず、砂と岩だけの世界が広がる。そして、現代の世界では学校の前に巨大な穴があいて、学校だけが未来にタイムスリップしていた。
どちらのドラマも、集団で異世界に飛ばされたことで、最初は、
元あったものがなくなった絶望と、
未知の体験への畏怖が描かれる。
集団生活の中で、様々な人格と個性が交差しながら、時には、元の生活に戻れるかもしれないという期待と希望、
そして、その希望を打ち壊すような苦難が交互に訪れながら、
今、ある現実を受け入れて、その場所で各々が奮闘していく様や、
残された元の世界にいる人たちの不条理な気持ちを丁寧に描いている。
現実離れした世界観。
でも、なぜか、こういうSF的な設定に弱い僕は、
20年前の記憶をほどき直しながら、当時との違いを思い出し、毎週金曜日を楽しみに待っている。
どこかで、今のドラマに20年前の当時よりも哀愁さを感じ取ってしまうのは、僕が年を取ってしまったからなのだろうか。
そもそも、希望そのものへ夢を見なくなったからか、はたまた、この20年で世界そのものが少し物悲しくなったからなのか。
もし、自分が今、未知の恐怖におののく場面に出くわした時、僕はドラマの中で奮闘する彼らのように、与えられた場面で戦っていけるのか。
未知の恐怖ということで言うのであれば、
数あるG1の中で、オークスは走る馬にとって最も未知なレースと言える。
何せ、3歳牝馬というまだ繊細な姫君たちは2400mという距離を走ったこともない。
有力とされている馬達の大半は、前走が桜花賞で1600m。
「馬は走る距離を知らない」
とはよく聞く話だが、まだ世間もよく知らない若い牝馬を捕まえて、数万人に囲まれながら、前回走った距離の1.5倍を全速力で走らされる。
そんなレースに私利私欲を肥やすために、お金を投じる。
と思えば、軽くお金を未来ある女子へ投資するくらいの気持ちで今週の予想に入ろうと思う。
それでは予想に入ろう。
調教評価
まず、オークスの調教で評価しなければいけないのは
「制御が効いて、軽々と走れているか」
と
伸びる距離に対してウッド、チップウッドの調教を行っているか。
この2点をポイントにしている。
調教評価第1位
5 リバティアイランド
正直に言うと1週前の調教があまりに軽く、心配に思った。
ところがどっこい、最終追切は川田騎手鞍上で直線で併せた馬を瞬間でかわしてゴール。瞬発性の違いを感じさせた。
3Fから2Fにかけて、3秒近くLAPを縮めて加速。
昨年のアートハウスが1週前にタイム的には上だが、エンジンが入ってからの伸びは段違いな印象。おそらく、この馬の場合はテンションが上がりすぎて道中でかからない限り直線での爆発力に賭けた競馬になると思う。
調教評価第2位
6 ゴールデンハインド
菅原騎手の調教は若手ではピカイチ。
1週前、最終とウッドの併せ馬での調教で、外を回して先着。
美浦組らしく、負荷をしっかりかけたいい調教であった。
比較的ストライドを大きくというよりはピッチ回転で力強さが目立つ。
併せ馬で外を回しているあたり、狙いとする理想は番手競馬かと思わせる。
フローラSの状態から、良い意味でキープしている。
調教評価第3位
12 ハーパー
タイム自体は、その他の馬に比べれば目を見張るものでもない。ただ、1週前の調教で鞍上がGOをした後の併せ馬を突き放す内容が好感。桜花賞も少し距離が足りない印象だった。状態は良化。最終は坂路で、疲労をあまり残さずに輸送という調教。我慢がよく聞いているという点で、評価した。
調教評価第4位
9 コナコースト
調教面で言うと一番減点が少ない馬。母系が短距離を走っていた血統なので、そこは不安材料かもしれないが、制御を効かせながら1週前にCW6Fで80秒を切ったタイムで走破したのは当馬のみ。最後は馬なりで終いはタイムを流した形。3位の馬もだが、栗東組は1週前にCWの長いところをこなして、輸送前の最終は坂路で整えている馬が多い。
調教評価第5位
16 ドゥアイズ
去年、ライラックを見た時の感覚に少し似ている。1週前は積極的にCW7Fで追い切る。コーナーを回りきる際に少しバランスを崩していたが、直線に入るとクビが沈みながら、全身をよく使っている。最終の坂路調教では、最後までタイムが伸びる加速LAPで締めているし、大外枠というで割り切って直線勝負に徹することが出来れば面白い。
エピローグ
漂流教室を改めて、今週、一から見直した。
何がペンディングトレインと違うのだろう。
なぜ、こんなにも哀愁がペンディングトレインにはただようのだろうと。
ドラマ自体の展開力か、1話目は青春ドラマの平和な様相が、終了間際に全く違う異世界へ飛ばされた瞬間の落差は確かにすごい。
否、それだけではない、話の展開や状況自体は今と昔もそんなに違わないのだから。
水や食料も資源が限られている世界で、
当事者達ら強く生きる力を求められる。
それは強い木材の象徴としての樫の木にどこか似ている。
樫の栄冠を求める出走馬達、東京の長い直線に求められるのは、「強さ」なのかもしれない。
けれど、僕は知っている。
強い気持ちは、堅いだけでは保てない。
時には柳のようにしなだれかかる、
ある意味「余裕」がないと。
心の強さは保ちきれない。
フルマラソンを走っていて、
30㎞を超えた先でやってくるあの得体のしれない何か。
その不安を超えていける時、
僕にはなんだかいつも陽気な音楽が流れていた。
それを思い出した時、僕にはこの2つのドラマに感じる一番の違いが分かった気がした。
ペンディングトレインが悲哀に満ちているわけではなかった。
漂流教室に流れる爽快感が、違いのその正体。
なんてことはない。
終わりの印象がよければ全ての印象が変わるのは、桜花賞の結果が示してくれているじゃないか。
最後の600mですべてが変わる。
50分のドラマでエンディングが流れるくらいの距離。
2023年 5月21日 僕がオークスのエンディングに求めるものは
例えどんな悲惨な場所でも、
最後に見出す希望の末脚。
2023 オークス
僕の本命は20年前、「ロング・ラブレター〜漂流教室〜」で流れていた絶望感を吹き飛ばす
やたら軽快なエンディングのままだ。
LOVELAND,ISLAND
LOVE,ISLAND。
絶望の2400mに見える自由の光。
◎ 5 リバティアイランド
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