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雪の中の白いカフェ

ドアを開けて店の中へ入ると、ほのかにマンダリンの香りが漂う。
カウンターの向こうへ目をやると、白いエプロン姿で若い男性がちょうど豆を煎っているところだった。


配信時間まではまだ3時間もある。
本日配信される「がん治療講演会」の最終確認を済ませ、札幌にある大学病院を後にした。少し前から降り続いている雪がしっかり歩道を埋め尽くしており、雪に慣れない僕の行手をこれでもかというくらいに阻んでいた。


雪のせいでタクシーがなかなか捕まらない。
仕方ないのでスタジオまで歩いて行くことになった。


本日の配信スタジオは札幌駅と真逆の方向にあるため、雪で見えにくくなくなった樽川通沿いの歩道をゆっくりと進んでいく。徐々に人気がなくなり、当然飲食店の数も減ってきた。時間をつぶせるような気の利いたカフェも見当たらない。


配信まで数時間もあるので、何処かで時間を費やしたい。
少し先にあった郵便局で僅かばかりの現金をおろしている間、有難いことに一緒にいた同僚が、スマホで居心地良さそうなカフェがないか検索してくれていた。


「北18条駅の近くにありますよ!」


札幌に9年間住んでいた経験がある同僚は、雪で埋め尽くされた歩道を歩くのが早い。履き慣れないビジネスシューズの長靴を頼りに、ゆっくりと進む僕らを置き去りにして、先へ先へと進み店の在処を確認してくれている。


ザクッ、ザクッ、
靴のかかとから伝わる確かな雪の感触。夏の砂浜で感じた感覚や、ハイキングで歩く土の柔らかさとも違う。ザクッ、ザクッとした心地良い響きは、まるで角砂糖を踏みしめているようだ。


凍てつく寒さのせいで、足元から掬い上げられるように感覚が鈍くなり、たまに痛みさえ伴う。更に、時折差し込む強い冷気を帯びた風が僕の胸元を襲ってくる。マフラーを忘れたからなのか。北の神様の手荒い洗礼を受けているような気がしました。


白い雪に白い壁。薄暗くなった夕暮れの空を背景に淡い光が灯る。
氷点下の外気を感じさせない店内は、ジャズの音楽とほのかなコーヒーの香りで溢れている。あっという間にオッサンどもの心が満たされていく。クリスマスの時期だったこともあり、店内には青く電飾されたツリーがひっそりと飾られ、訪れる客をもてなしてくれている。


入店した時は僕ら3人だけだったが、気がつくといつの間にやら店内は若い女性で埋め尽くされていた。近くにある女子大学の授業が終わったからなのか。ここは彼女らにとっても憩いの場所なんだ。


あれからもう1ヶ月近くも経ったのか。
あの時配信した講演会原稿を書きながら、ふと訪れたカフェを思い出している。きっと今日も白い雪に囲まれているんだろうな。そしてがぐわしいコーヒーの香りで包まれているのだろう。


雪が溶ける前にもう一度行ってみようかな。
窓から見える空を見上げて思う。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。寒い時期ですので体調を崩さないようにご自愛ください。👹


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