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『ダンジョン飯』で学ぶマオリ語の人称代名詞

マオリ語とはニュージーランドの先住民族であるマオリの人々が使っていた言葉です。ニュージーランドがイギリスによって植民地化されたために一度は失われかけたのですが、最近話者を増やそうという動きがあり学ぶ人が増えています。本屋さんなんかに行くとテキストがいっぱい売っています。
元々文字を持たないため、アルファベットを使って表記されます。ローマ字読みそのままでいけるので、音読はわりとすぐにいけます。(Rの発音が巻き舌なのでそれだけめんどう)

1年前の今頃、ニュージーランドを1人で旅行してる時にマオリ語を勉強するというのをやっていたんですが、マオリ語の中で難しいと思ったことの一つが人称代名詞でした。


マオリ語の人称代名詞

日本語だと「私」「あなた」「彼ら」に該当するものです。覚えにくかったのは2人と3人以上で別の単語があることと、さらに「私たち」に2種類あることです。「自分とあなた(話し相手)」「自分と第三者(話し相手ではない他の人)」を区別しているのです。

マオリ語の人称代名詞
Pronouns In New Zealand Te Reo Māori ©︎Wiremu Stadtwald Demchick クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)を改変して作成

普通に説明されればわかるような気もするのですが、どういうシチュエーションでそれを使うのか全然イメージできなかったので、『ダンジョン飯』のシーンに当てはめることにしました。

2人を表す人称代名詞

Tāua:私とあなた

話し相手に対して、「私とあなた」を指して「私たち」と言う場合は ”tāua” を使います。『ダンジョン飯』では、主要キャラクターが物語開始時点でライオス、マルシル、チルチャックの3人がいるので、自分を含めた2人の「私たち」を使うシーンが少ないように思います。1巻から探していたら3巻まで来てしまった。

マオリ語のtāuaを表すシーン
漫画のコマは九井諒子『ダンジョン飯』 3巻(2016)から

Māua:私と他の人

話し相手に対して、私と(あなた以外の)他の人の2人を指す場合は ”māua” を使います。チルチャックに対してナマリがシュローとギルドを抜けると話すシーンです。

マオリ語のmāuaを表すシーン
漫画のコマは九井諒子『ダンジョン飯』 1巻(2015)から

Kōrua:あなたたち

あなたたちを指す場合は ”kōrua” を使います。目の前の2人を指す場合と、話し相手とその場にいない第三者を含める場合の両方があるようです。これはライオスがマルシルとチルチャックの2人に対して「ギルドを抜けてくれ」と話しているところです。

マオリ語のkōruaを表すシーン
漫画のコマは九井諒子『ダンジョン飯』 1巻(2015)から

Rāua:彼ら

話し相手を含まない2人を指す場合は ”rāua” を指します。これはチルチャックがライオスに対し、「ナマリとシュローはパーティから抜けた」と話しているところです。1話ではギルドを抜けた2人とギルドに留まることを選んだ2人がいるので、2人を指す人称代名詞の登場シーンが多い。

マオリ語のrāuaを表すシーン
漫画のコマは九井諒子『ダンジョン飯』 1巻(2015)から


3人を表す人称代名詞

Tātou:私とあなたとそれ以外の3人(以上)

私とあなたとそれ以外の人を指す場合は”tātou”を使います。私とあなた2人では”tāua”でしたが、3人以上では”tātou”になります。これはライオスが、マルシル、チルチャックの3人でこれから魔物を食べることを宣言しているシーンです。

マオリ語のtātouを表すシーン
漫画のコマは九井諒子『ダンジョン飯』 1巻(2015)から

Mātou:あなた以外の私たち3人(以上)

話し相手に対して、私と話し相手以外の合計3人以上を指す場合は”mātou”を使います。これはライオスがファリンに対し、ファリン以外の4人が魔物を食べたことを話すシーンなので”mātou”が当てはまります。

マオリ語のmātouを表すシーン
漫画のコマは九井諒子『ダンジョン飯』 4巻(2017)から

Koutou:あなたたち

話し相手を含む対象者が3人以上いる場合は”koutou”を使います。このシーンではマルシルがライオス、チルチャック、センシの3人に対して「私の言うことを聞け」と言っているので、”koutou”になります。
ちなみにマオリ語では、挨拶やお礼をするとき「Tena 〇〇」と言いますが、対象者の人数によって「Tena koe(1人)」「Tena korua(2人)」「Tena koutou(3人以上)」を使い分ける必要があるので大変です。普通にhelloとかthank youで済まさせてほしい。

マオリ語のkoutouを表すシーン
漫画のコマは九井諒子『ダンジョン飯』 1巻(2015)から

Rātou:彼ら(3人以上)

自分や話し相手を含まない3人以上を指すときは”rātou”を使います。これはチルチャックが他のパーティ(5人)を指しているので”rātou”ですね。

マオリ語のrātouを表すシーン
漫画のコマは九井諒子『ダンジョン飯』 1巻(2015)から


おまけ:磯野家で学ぶマオリ語の親族の呼び名

親族の呼び名もたくさんあります。人称代名詞を覚えている時、「性別で区別ないんだ、よかった〜」と思っていたのですが、親族の呼び名では「男性から見た姉妹を指す言葉」「女性から見た兄弟を指す言葉」が別々にあったりします。
また、「同じ性別の自分より上の兄弟・姉妹」「同じ性別の自分より下の兄弟・姉妹」にも別の言葉があります。でも「違う性別の自分より上や下の兄弟・姉妹」はない。

マオリ語の親族の呼び名
キャラクターの画像はサザエさん - 公式ホームページから

学習者としてはしんどいですが、こういう複雑な人称代名詞や親族の呼び名が必要だった世界とか考えると面白いですよね。

九井諒子先生の次回作が楽しみです!

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