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歳をとって読んだ源氏物語2 桐壺の巻 北の方の悩み

「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」と言うのはハムレット。Aか?Bか?そんな心の葛藤を扱った場面が桐壺の巻にある。

桐壺の更衣の母親北の方は、娘が亡くなってからは、孫の源氏と暮らしていた。一方帝も源氏のことを気にかけていて、宮中に呼んで、源氏をそばに置いておきたいと考えている。

帝から宮中に招く使者が北の方のもとに来るが、ホイホイ喜んで行くことなどしないのが、紫式部の源氏物語のすごいところだと思う。

北の方は悩む。
肉親に死に別れる不幸に何度もあった未亡人が孫に付いて宮中に行ったら周囲からどんな風に思われるか分からない(いと人聞き憂かるべし)、だからといって孫だけ行かせては、孫のことが気がかりだし、最愛の孫と分かれるのも辛いと決めかねて、時間ばかりが過ぎていく。

こういうあたりの悩みの描き方が、日本文学の最高の地位を占めてきた所以かと、この歳になり分かったよう気がしている。

北の方は、若宮(源氏)が6歳の時に亡くなる。宮中に上り、翌春に亡くなったので、宮中に上ったのは5歳の時になる。

帝もわが子のことでは悩んでいる。
可愛らしく、しかも頭が良い、習いごとに秀でているのが分かると、ちらっと皇嗣にしようと思うが、第一皇子を差し置いて、そんなことをしたら争いの火種だろうと考える。仮に天皇にならずに皇子のままでも、優秀故に担ぎ出す者が現れて世が乱れるかも知れない。考え考えて悩み抜いて、帝は、源氏を皇族から外して臣籍にすれば、皇位争いになることはないだろうと決断する。継承は人間の最大の悩みだ。このあたりの描写が、古典文学だが、古典を超えた普遍的な文学なのだろう。


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