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何故人は旅をするのか?

人は何故旅をするのか。その一つの答えは、日常からの解放である。「旅に出ることは日常の生活環境を脱けることであり、平生の習慣的な関係から逃れることである」といったのは哲学者の三木清である。旅により、心が開放的になる。内向的な心が外向的になり、自我が解放されていく。漱石の「行人」や「彼岸過迄」のクライマックスで旅による精神的な救済が扱われている。

日常からの解放を求めて旅に出ると、旅先で思いがけないことに出会う。旅先での遭遇、発見、体験といったことが日常では得られない心の高揚をもたらしてくれる。旅先での発見・出会いや異文化体験が楽しかったという人は多いだろう。

では、旅に行く前に、どの程度、旅の目的地に関する知識を持つべきか、何も知らないままがよいか、充当な調査をして旅に臨むか、どちらがいいのだろう。何の用意をしなくても旅先での思いがけない体験は必ずあり、旅を楽しくしてくれる。先入観を持つよりは予備知識なしに行くのがよいという人もいる。たしかに、調べ上げて綿密な計画を立てていく旅は窮屈で楽しくない。

さて、日本には歌枕という文化がある。和歌に詠まれてきた名所や旧跡は歌枕と言われ、そこを辿ることを目的とする旅文化がわが国に存在する。芭蕉は藤原三代の都だった平泉を奥の細道の目的地としたが、今のわれわれは芭蕉の跡をたどり芭蕉の句を偲びながら旅をする。旅の原動力としての歴史や文芸の力は大きい。自分の経験から見ても旅行先のイメージを持って旅をすることは楽しい。

やはり、旅で一番楽しいことは、心の中で描いている想像の世界が眼の前に現れることである。それこそ旅先で喜びを感じる瞬間である。本で読み、映像で見て思い描いてきた心の世界が、実際にそこに立った時に現実化する。夢と現実が遭遇する。だからこそ、旅人は旅先のイメージをあらかじめ持つべきである。それこそが旅の最大の原動力だと思う。そうなって初めて、旅は空想と現実の架け橋となる。

2022.11.18

エストニアのタリン


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