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リーマンショックがダイレクトに日本に影響しなかった理由 ~グローバリズムが恐慌を伝播させる~

 経済評論家の三橋貴明氏が『亡国の新帝国主義』という著書の中で、グローバリズムが「恐慌の伝播」に大きな影響を及ぼすのだということについて書かれている。

 三橋氏によれば、グローバリズムが進み、諸国の貿易的・資本的な結び付きが強固であればあるほど、一国のバブル崩壊やデフレーションが世界中に伝播してしまい、最終的には戦争へと繋がる危険性さえ生じてくると。

 その昔、1929年10月14日木曜日、アメリカのニューヨーク・ウォール街で株式バブルが崩壊した「暗黒の木曜日」をきっかけに巻き起こった「世界大恐慌」
 株式バブル崩壊に加え、フーバー政権がレッセフェール(自由放任主義)を貫き、正しい財政政策を打たなかったため、アメリカはデフレーションに突入。
 しかし、当時の世界は現在と同様に「グローバリゼーション」が進んでおり、各国の資本的な結び付きが強く、それにより結果として、アメリカのデフレが世界中に伝播していく「世界大恐慌」へと発展していってしまうこととなった。


世界に瞬く間に伝播した「リーマンショック」と、伝播しなかった日本の「バブル崩壊」との違い


 一方、1991年に、日本では「バブル」が崩壊し、デフレ化したが、しかしそのときの日本の不況は別に、世界の経済に大きな影響は与えなかった。
 その理由は、当時の世界は、別にグローバル化されていなかったため、日本のバブル崩壊やデフレは、単なる「国内問題」にすぎなかったからだという。

 対して、2007年にアメリカで「サブプライムローン」問題が顕在化し、翌08年9月15日に発生した「リーマンショック」は、世界恐慌のときと同様に、その影響が瞬く間に世界中を覆い尽くすに至った。
 特に、サブプライムローンを含む証券化商品を大量に購入していた欧州が打撃を受け、ギリシャを中心にヨーロッパ経済は「終わらない危機」のただ中に放り込まれる結果となった。

 リーマンショックが世界中に伝播していったのは、グローバリゼーションにより、アメリカと他の国々との間で、貿易的・資本的な繋がりが強まっていたことが原因だった。


急速な「グローバル化」が進む日本


 ところが、近年の我が国は直接投資の「流出」が「流入」を大きく上回るという状況にある。
 
 三橋氏によれば、日本の対外直接投資(流出)が大きくなっているのは、大手輸出企業が「グローバル化」し、工場を外国に移転していったということを意味し、また、日本の株式市場における投資部門別株式保有比率を見ると、外国人投資家が占める割合は、バブル崩壊時点で5%に過ぎなかったが、現在は30%を上回るほどにまでなっていると。

 企業単体で見ると、例えばソニーの株式に外国人投資家が占める割合は、2012年度末は32.6%だった。それが2014年のころには、何と56.6%にもなっていて、その意味でいえば、ソニーはすでに、日本企業ではなく「外資系企業」みたいになってしまっていると。

 つまり今の日本はかつてまでと違い、「急速なグローバル化」が進んでいる只中にあるということ。

 とすれば、現在、「新型コロナウィルス」の影響で、アメリカのほうで株価が大変な状況になっているが、今度ばかりは日本もタダでは済まないということになる。

 リーマンショックでは、日本の金融機関が直接アメリカのサブプライムローンに手を出していたわけではなかったので、当初は余り、日本への影響は少ないはずだと思われていた。
 が、米ドルに対する不安からドルが売られ、代わりに安定していた日本円買われることによって円高となり、そのせいで日本の輸出産業が大打撃を受けることとなり、回り回って、最終的にはリーマンショックに直接関係していなかった日本市場まで、大きな影響を受ける結果となった。

 しかし、現在の日本はリーマンショックの発生した2008年よりもさらに踏み込んで、急激な「グローバリズム化」が進められている。
 もし同じような世界規模の恐慌が発生すれば、今度は日本に、より直接的な影響が覆い被さってくることは避けられない事態となってくるだろう。


グローバル化によって進む「日本の貧困化」


 グローバル化によって、日本の大手企業は人件費の削減を求めて海外に移転していったが、それは、短期の利益を求めるグローバル投資家たちが望んだから。

 グローバル投資家たちは、政府の政策にも口を出す。

 日本ではそれにより、「法人税減税と雇用の流動性強化(派遣労働者拡大など)」が推進されることとなった。

 配当金や自社株買いの原資である最終利益は、「=税引き前利益-法人税」で計算される。すなわち、政府が法人税率を引き下げれば、企業側が特に努力することなくても、最終利益を拡大することができるため、結果、グローバル投資家は喜ぶのだと。

 あるいは労働規制を緩和し、「いざというとき、解雇しやすい」派遣社員が増える形で法改正を実施しても、やはりグローバル投資家に評価される。

 というわけで、我が国では今、グローバル投資家たちの求めにより、まさに日本国民の目の前で、法人税が減税され、労働者派遣法が改正されるという事態にもなっているのだという。

 現在の日本は「失われた20年」と言われるほど、長引く深刻な「デフレ不況」に陥ってしまって、そこから中々抜け出せずにいる。
 しかもここにきて新たに10%への消費税の増税が決まり、今後このデフレはさらなる「失われた30年」の不況へと続いていきそうな状況になっている。

 日本では、自民党の橋本政権が1997年に緊縮財政を強行し、国民の所得が伸びにくいデフレ経済に突入した。
 同時に、日本企業が「グローバル市場」ばかりを意識するようになってしまい、国内の所得拡大が置き去りにされ、その結果として、現在の日本では、グローバリズムの下で国民は実質賃金の低下に悩まされることとなった。

 我が国の実質賃金は1997年がピークであり、それ以外は中長期的に下がり続けている。
 2012年末に第二次安倍政権が始まって以降すら、実質賃金の低下は止まることはなく、それはすなわち、「日本の国民が貧困化していっている」ということになるのだと。

 実態経済の力が弱く、格差が進み国民の貧困化が進んでいる状況の中で、これまでは政府や日銀が、主要企業の株を買うことで高い株価を維持してきたが、外国人投資家の参入比率が高くなった現在ではもう、国が株を買い支えるにも限界があるのではないか。


まだ記事は少ないですが、ここでは男女の恋愛心理やその他対人関係全般、犯罪心理、いじめや体罰など、人の悩みに関わる心理・メンタリズムについて研究を深めていきたいと思っています。