練習小説1作目

先ほどの更新で、Spoonについて書いたけれど、そこで「書くこと」について語ったことがあった。そこで、文章を書くことの練習のため、Spoonで仲良くなった人を主役にした小説を書かせて欲しいという話をした。

すると、「私/僕を主役に書いてもいいよ」と快く言ってくれた人が複数人いた。私の文章を少しは「面白い」と思っている人がいるのだなと思って、とても嬉しかった。

以下に載せる小説は、そのうちの一人を主人公にした小説です。Spoonで出会った、どこの誰とも分からない、でも毎日のようにあっている不思議な関係性の誰かについて書きました。

これから定期的に小説を掲載していこうと思いますので、楽しんでいただければ幸いです。


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「よお」打ち慣れた、居丈高な挨拶。
「よお」「よお「よお」
呼応するように、画面に文字が浮かび上がる。矢継ぎ早に、華麗に話を広げていく。また、それに周りが展開していく。

……俺は、自由な時間ができると、何処の誰とも分からない誰かと毎日のように話している。
 正確には、「配信を聴いている」。配信を聴くことにハマって2年。
ネット黎明期に掲示板でコメント大喜利したり、ニコニコしている動画を漁っていた俺にとって、誰かがリアルタイムで配信しながらコメントできるという双方向のやりとりが出来る、このコンテンツは絶好の居場所だった。「声だけの配信」というFOLKの特性も気兼ねなく楽しめる理由の一つだ。
 多くのリスナーがいる配信者の配信をあまり聴かないので、大概、「常連」同士知り合いになる。顔も本名も知らないのに、ほろ酔いを飲んで、350万の浸水被害を起こしたことは知っているのだから面白いものだよな、そんなことを思いながら、古ぼけた居酒屋みたいな雰囲気を持つ配信者の配信を聴いていた。

 職場では言えないふざけたことを言ってウケて、彼女の前では言えない下世話なことで笑って。こんなアホみたいな姿、顔を知っている奴らは知らなくて、素性の知らない奴らは知っている。
 合コンで出会った「なんか違う」と振ってきた保育士も、ずっと憧れだった舞先輩も俺のこういうふざけたところ知らないのはなんだか勿体ないよな、でも、この面はそう簡単には出せないだろうなとも思う。
 だからこそ、1円の価値にもならない会話が楽しいし、ストレス発散になる。赤の他人に「性格が悪そう」だと言われるのは、むしろご褒美ですらある。
 こういう一面は秘めておこう。根が真面目な俺は、結局のところ、責任を負わない部分でしか、そういう面を上手く出せないのだろうな、と苦笑する。それで良いよなと続けて笑う。

 休日、ゴルフの練習場に来ていた。営業に役立つからと、付き合いで始めたゴルフは、部長より良いスコアで何となく気まずい。ハンドボール部で培った体力は今も健在らしい。というより、性格のせいかも知れない。足を引っ張ってはならないと、密かに打ちっ放しに通った成果だろう。ゴルフが好きかどうかは別にして、俺に合っているスポーツだったらしい。今年は100を切れるよう、コツコツと練習している。
 打ちながら、初ラウンドで俺に抜かれたときに部長が放った、「有田くんは若いからぁ」といういつも都合よく使うその言葉を思い出していた。おじさんの使う「若い」は、「配慮が足りない」の意だということを分からない俺ではない。それをどうにかまた、誰かの配信のネタにできないか考えていた。考えている自分に笑った。
 3つ下の年下の彼女にはベタ惚れだが、彼女の可愛い我が儘に疲れるときもある。そんなときに、くだらないこと言って、くだらないことで笑って、また、その幸せな憂鬱に浸るのだ。そういう時間が必要なときもある。

 家に帰り、自分の部屋でダラダラする。仕事で嫌ほど云う「お世話になります」を「よう」に変えて、軽やかに言葉を量産する。
 しばらくすると、「遥、哲平、ご飯よー」、ひろみが呼ぶ。ひろみの作るご飯は正直そんなに美味しくない。けれども、こうやって食べる食卓は悪くない、そういう毎日が案外嫌いじゃない。
 俺は、今日もスマホに向かって格闘する。画面の知らない奴らを笑わせてやる。何の価値を持たない矜持は、何も価値を持たないから美しい。全力でふざけて、全力で笑う、そういう面があっていい。
 ふざけた俺の先に待っている、ありふれたくだらない明日がほんのちょっとだけ明るく見えた。


<スプナー紹介>
今回の主人公は、がんちゃん(@jl8wvx7v)。スプナー歴2年の中々の古参スプナーです。くりぃむしちゅーの有田鉄平さんをアイコンにしています。がんちゃんのアイコンはクセになるというか毎日のように見ていると、洗脳されます。テレビで有田さんを見るたびに、がんちゃんを思い出します。そんなインパクトの強いアイコンです。
配信はしておらず、所謂聴き専ですが、聴き専というよりは、「コメント職人」です。
基本的に全力でふざけてますが、私が本気で凹んでいるときは良い言葉をかけてくれる良い人です。彼が私より若いと知ったときは、何故だか負けた気がしました。
彼の「退屈だけど幸せな毎日」が永遠に続くといいなと思っております。(知らんけど)

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