7/11 総務講座「憲法・人権・労働」

 geidaiRAMのカリキュラムのひとつである「総務講座」。アートにまつわる活動において必要不可欠ともいえる「総務」について、知識を蓄え、議論を交わし課題の発見と解決策を探る目的の講座。より議論を深めることを目指し、一部のみ前年度と同じ講師を招く予定だ。

今年度第一回目となる講座のテーマは「憲法・人権・労働」。弁護士である須田洋平氏を迎えて、「憲法と人権」についてお話を伺った。

須田洋平 (すだ・ようへい)
弁護士。1976年東京生まれ。東京大学法学部、ワシントン大学(アメリカ)ロースクール、ナント大学(フランス)メトリーズを卒業し、ワシントン州最高裁判所マデセン裁判官付ロークラーク、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(オランダ)インターンを経て、2006年10月に日本で弁護士登録、2010年1月に須田洋平法律事務所を開所。アメリカ・ワシントン州の弁護士でもあり、フランス滞在経験もあるため英語及びフランス語での業務にも対応。国際人権問題、環境問題、過労死問題等についての講演・執筆活動も行う。(geidaiRAMサイトより引用)

須田氏はアメリカ、フランス、日本で活動している弁護士で、「人権問題」を専門にしている。また、芸術を通してあたらしい公共を提案するNPO法人 芸術公社の監事でもあり、社会や法と芸術を結びつける活動にも注力している。
彼は、中学時代にベルリンの壁の崩壊、高校時代にユーゴスラビア紛争やルワンダでのジェノサイド、それぞれをメディアを通して知った。そのような時代を過ごし、社会のポジティブな面とネガティブな面、両面を見たことをきっかけとし人権問題について興味を持ったそうだ。

前年度の講義内容はドキュメントとしてまとめられており、geidaiRAMサイトから閲覧できる。前年度よりさらに発展した議論をすることを目指しており、この資料も理解していることを前提として、本講座は進められた。

geidaiRAM2014 サイト>>
「労働者」として携わるアート――人権と憲法から考える 須田洋平(2014年6月23日)

以下、講座内容のメモをまとめた。

憲法の役割は。

「憲法とは、何でしょう?」という質問から講座はじまった。それについて、桂先生は、「憲法の役割とは、人権を保障し、権力を制限するもの」と一言で表した。
国の統治の基本に関するルール(法律)を定めれば充分というわけではない。人権を保障し、権力を制限することも重要だ。この考え方は立憲主義という基礎に基づく

立憲主義は二つの思想から成り立っている。
【自然権思想】人が生まれ持った権利思想。(⇒天賦人権説)
【社会契約説】できるだけ多くの人が人権を行使できるよう政府に預ける思想。
ここで大事なことは、自分たち一人ひとりは人権・権利を政府に委任してより多くの人が享受できるようにする、という点である。そして、それを行うには立憲主義が適している、という考えだ。
また、権力が一箇所に集中することを防ぐために、三権分立(立法権・行政権・司法権)による抑制を行う。

この立憲主義の出発点について、日本とヨーロッパは大きな違いを持っている。
・ヨーロッパ→ 市民らが革命などで自ら血を流し、権利を獲得。
・日本→当時のドイツを参考に制定(大日本帝国憲法)。戦後、アメリカからの介入により、現在の「日本国憲法」が制定。

日本はたしかに国民国家ではあるが、自らが革命を起こして人権を獲得した経験がなく、立憲民主主義についての認識が希薄なのも事実だろう。そのような国民性について、三島由紀夫は「日本人はinvisualだ」と形容した。

NationState [国民国家] :
国民的同一性を基礎として成立した近代的中央集権国家。
近代国家。民族国家。(大辞林 第三版)

法律と憲法

法律と憲法の関係こそ、まさに権力行使を制限する関係である。

【法律】政府が国民をしばるもの(ルール)
【憲法】国民が政府をしばるもの(ルール)

そして、憲法>条約>法律の順序で拘束力が強くなる。日本においては、憲法が最高法規となる。

憲法と民主主義

なぜ、民主主義なのだろうか?
人権を保障するのに最適な方法として、権力の最高権が国民にある民主主義をとられている。あくまで、目的は人権保障(立憲主義/自由主義)であり、その手段として民主主義のあり方が採用されている。

アートは民主主義を支えるか?

憲法の中で、「表現の自由」はなぜ重要なのだろうか?この「表現の自由」は二つの意味を持っている。
(1) 自己実現:表現を通じて自らの人格を形成・発展していくこと。
(2) 自己統治:様々な情報から政治のあり方を考え、参政権を用いて参加していくこと。
表現を自由にできるからこそ、意見が生まれ、発言が生まれ、議論が生まれる。様々な情報を踏まえたうえで、自分の考えを鋭利にし、参戦する仕組みだ。また、「表現の自由」はプロバガンダを抑制する役割もある。

アートには人々に気付きや考えの種を与える機能もある。そのことから、立憲民主主義の下では芸術(を通じた表現)に社会創造機能がある、ともいえる。つまり、アートは立憲民主主義を支えるものでもあるのだ。

アートが社会に与えたキッカケ

アートには社会創造機能がある、と前述した。では、具体例はどのようなものがあるのか、桂先生に紹介いただいた。

まずは、1970年代のNYで生まれたHIPHOP文化こそ、まさに社会創造文化だと説明を受けた。

アフリカ・バンバータ(Afrika Bambaataa 本名:ケヴィン・ドノバン(Kevin Donovan) 1957年4月17日 - )はアメリカ合衆国ニューヨーク州ブロンクス区リバーサイド出身のミュージシャン、DJ。
黒人の創造性文化を「ヒップホップ」と名付け、ヒップホップの四大要素を提案し、さらに五番目に「知識」を加えたとされる。

また、同じ時代、同じ地域で、アーティストのティム・ロリンズは子どもたちと一緒にソーシャル・エンゲージド・アートとされる活動を始め、それは今も続いている。

Tim Rollins and K.O.S
美術の教師であったティム・ロリンズがニューヨークのサウスブロンクスに住む環境的に様々な問題を抱える子供達と始めた「芸術と知識のワークショップ」。その活動から、子供達はK.O.S「キッズ・オブ・サバイバル」という名のアーティスト集団へと成長していった。彼等の独特の活動は、ニコラス・ペリーのリポート「キッズ・サバイバル」に紹介されており、また映画化もされたのだが、その感動的な展開と作品群のすばらしさには「社会(子供)に対してアートに何が出来るのか」という命題に対しての一つの答えとして存在する。

日本に住む人全員が受けるべき授業なのだと思った。

その場限りの話も飛び出し、大変勉強になった講座だった。
その反面、「勉強になった」という感想が出てきてしまう自分こそ立憲主義に基づく考えが希薄である、という問題にも気付き、「日本人はinvisualだ」ということを、自分自身で体感してしまった。今まで意識を持って見ていなかった反省も大きい。

未来をポジティブに考えるための「知る権利・義務」として、今後も様々な動向に注目していきたい。

ちなみに、残るテーマの「労働」についても須田氏は講座内で触れてくださったが、今回は大きく「憲法」についてのみまとめた。
今回触れていない内容を含め、本講座はgeidaiRAM公式ドキュメントとして書き起こされ、前年同様アーカイブし一般公開されていく予定だそう。そちらも合わせて読んでいただきたい。

※今回のレポートで内容に事実と間違いがあれば、ご連絡ください。
 連絡先> siranon0425@gmail.com

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