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【とあるドラゴン討伐隊生還者の手記】




1位になれたら嬉しいだろうなって思ってた

やっと1位になれた

一緒に戦ってた全員が殺されたから

その日、ドラゴン討伐隊に志願したのは私達を含め3組のパーティだった

今までは私達より戦歴がある先輩達に混ざって戦っていたが

今回、私達以外の2組は初心者の集団のようだった

私は内心喜んでいた

ドラゴン討伐に最も貢献したパーティはそれなりの金貨や褒美が得られるのだが

今までは先輩達に持っていかれてばかりだった

今回は違う

私達だけ戦歴も装備もレベルが段違いだ

自ずと討伐隊を率いる立場になる

褒美は頂いたも同然だ

若いパーティの少年が話しかけてきた

「あ、あの、俺ら、討伐隊に入るの初めてなんですよ。やっぱ恐いですか?…ドラゴン…」

「…ぁあ…でかいけど、この人数でやればさすがに倒せるから。回復だけしっかりやってれば何とかなるよ。」

「そっかー!ドキドキしてきたー!」

その笑顔はまだ幼かった

仲間と無邪気にはしゃいでいる様は少し前の私達のようだった

空に暗雲が立ち込めてきた

来る

生暖かい風が吹き抜ける

通気性もクソもない分厚い鎧で覆われた体がジッと汗ばんだ

暗雲の中心からやつが出てきた

爬虫類の黒目はどこを見ているかわからないが

空中をゆっくり旋回しながら我々へ向かってくる

今回も『餌』と認識してくれたようだ

剣を構える

射程距離に入った瞬間、その鼻っつらにどぎついのをお見舞いしてやる

私達は待った

…がそれは間違いだった

爬虫類は空中から若いパーティに向けて炎を吐いた

突然の熱風で一瞬思考能力を失う

おかしい

少し追い詰めなければやつは遠距離攻撃をして来ないはずだ

先程まで息巻いていた少年少女たちのパーティは混乱して逃げ惑い陣形が崩れていた

自分の愚かさに気づく

今まで先輩達は先ず爬虫類の気をひいて私達初心者が戦闘体制を維持するのを助けてくれていたのだ

それを今回は私達がやらなければならなかった

もう遅い

分断された討伐隊はもう討伐隊のそれではない

貧弱な『餌』が走り回っているだけ

戦場は地獄と化していた

腹を食い破られ何かを叫んでいる若い戦士

魔法使いの美しい少女は生きたまま焼かれていた

血と焦げた肉の臭いで吐きそうだった

私に話しかけてきたあの少年の声が聞こえた

「たすけて」

遠くに感じたが

あの騒々しい戦場ではっきり聞こえたのだから

近かったのかもしれない

どっちにしろ

私は聞こえないふりをした

1位になりたかったから

自分の仲間に指示を出すのでやっとだった

気づけば戦場で立っているのは私達だけだった

軽症ではない傷口を押さえ座り込み何も言わない仲間達を置いて

私は両脇に誰もいない表彰台に立った

どんな景色なんだろうと思ってた

とても気持ちがいいんだろうと待ち望んでいたその景色は

爬虫類だったものや人間だったものが散乱していた

「たすけて」と言っていたものが

もう何も見ていない目で私を見ていた

1位になれたら嬉しいだろうなって思ってた

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