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OZ  作品評 キネ旬ムック 海外TVドラマファイル 



目を覆う刑務所の現実描きつつ、生きる意味の本質をあぶり出すクリエイター、 フォンタナの並々ならぬ情熱の源は・・・・・・


『ホミサイド/殺人捜査課』 (93~98) 第38話「暴動 (Prison Riot)」は刑務所内で起こった殺人を捜査するというものだが、証人として尋問を受ける囚人(チャールズ・S・ダットン)はカメラに向かって吐き捨てるように言い放つ。
「おまえらに刑務所がどんなとこかわかるか?」
その問いかけはカメラのこちら側にいる刑事を通りぬけ視聴者である我々に突き刺さる。
想像もつかない刑務所の世界。
想像しようとも思わない。
刑事のひとりは「囚人同士の殺し合いなんてどうでもいい」といって捜査に参加するのを拒否してしまう。 犯罪を犯した人間がどうなろうと知ったことではない、と。しかし刑事たちはかつて自分が逮捕した犯人たちのその後の姿を目の当たりし、刑務所がどんなところかを思い知ることになる。しかし、事件が終われば職場や自宅に戻りやがてまた刑務所のことなど考えなくなるだろう。
クリエイターのトム・フォンタナが『OZ/オズ』の構想を練り始めたのは、このエピソードの執筆のために刑務所を訪れたころからだそうだが、もともとは1971年に起こったアッティカ刑務所の暴動がきっかけだったと言う。1000人以上の囚人が蜂起し、4人以上の死者を出したこの事件に大きな衝撃を受けたのだと。

フォンタナが刑務所ドラマのアイディアを4大ネットワークではなく、HBOに持ち込んだのは『ホミサイド』におけるNBCの干渉に嫌気がさしたというのも理由のひとつだが、その内容があまりに過激でとうてい全米のネットワークで流れるような代物ではなかったからだろう。
暴力はもちろん、男性同士のレイプやヌード、卑猥なスラング、人種差別などいわゆるテレビがタブーとしてきたシーンが満載。 あまりにもハードで目をそむけたくなるようなドラマだ。 内容も過激だが1シーズンたった8話しか作られないというのも異色。(第4シーズンのみ半年の期間をあけ16話製作されている)何本か共作はあるものの全てのエピソードがフォンタナの筆によるもので、この人は登場人物を過酷な状況に追い込み感情的に爆発させ、葛藤を引き出すのがよくよく得意と見え、『ホミサイド』では警察だったが 『OZ』では刑務所という格好の舞台を得て完膚なきまでにそれ見せつけるのである。

レイプ、暴力、無惨な死でもどうか見続けてほしい

主要キャラクターのストーリーをシーズン毎に練り上げ、短編小説を組み合わせるかのようにエピソードにまとめていくというフォンタナが一番最初に取り掛かるというのが、トバイアス・ビーチャー (リー・ターゲセン)のストーリーラインだ。
恵まれた環境にあり優秀な弁護士だったビーチャーは、飲酒運転で女の子を轢き殺して刑務所に送られてくる。狼たちが群がる荒野に放された子羊のように無力なビーチャーは、早速暴行され奴隷的立場に追いやられる。 誰かの支配下におかれることは生き残りの手段でもあり、ビーチャーはそこに留まるしかない。しかし、彼はやがて大きく変貌して、OZの中で生き残っていく。そしてついにはそれが本来の自分自身であったかのように認識していくのである。結局は他者とのつながりのドラマなのだ。刑務所では生き残るために好まなくてもグループに属さなければならない。 黒人ギャング系とブラックムスリム、ヒスパニック、イタリアン、カソリック、プロテスタント、白人至上主義者など。それらのグループに属さなければ属さないもの同士でつながりを深める。そのどれにも入れなければ自滅しかない。そしていわば家族以上の深い関わりが生じる。そこで起こる憎しみ、愛情、友情の絆はシャバのそれよりも一層激しく濃厚なのである。 ビーチャーは第2シーズンで登場するケラー (クリストファー・メローニ)という囚人と深い関係をもつが、それはフォンタナの言うところの“二人の男が徹底的に彼らに対して不利に働く環境の中で愛を見出し、愛を維持しようともがき闘っている関係〟なのであり、その闘いは最終シーズンの最終話まで描かれることになる。
ともあれ、暴力シーンに恐れをなしても、どうか第1シーズン8話分までは見続けてほしい。 主役と思われたキャクラターがどんどん命を落としていき、ついに暴動が起こる第8話「革命 (A Game of Checkers)」は、 他に類をみない緊張感で高まる。囚人たちの更正施設としてOZのなかにエメラルド・シティという特別区画を作り上げた責任者マクナマス (テリー・キニー) は自ら人質になり囚われるが、狂気の縁にいるビーチャの背後に、死んでいった囚人たちの幻を見る。 その時彼の脳裏に浮かぶのは、自分が10歳の時に見聞きしたアッティカ暴動の悪夢だ。説得も空しく、機動隊の突入で終幕する第1シーズン。 第2シーズンは、その暴動が鎮圧された後、事件の調査のため大学教授で法律家のアルバ・ケースがOZを訪れるところから幕開けとなる。 彼は看守、囚人らを尋問し暴動の裏側で起こった真実を暴いていく。そのケースを演じるのは『ホミサイド』で囚人を演じていたボルチモア生まれの名優、チャールズ・S・ダットン。スパイク・リー監督の「ゲット・オン・ザ・バス」など、映画・舞台で活躍するダットンは10代で傷害事件を起こし、ボルチモアの刑務所に服役していたのだという。そこで演劇に目覚めた彼は出所後、大学を卒業し俳優として成功を収めた。そのダットンの経験がフォンタナを後押しする原動力ともなったのだろう。 人は変わることが出来るのだ。
OZの世界は閉ざされ、あまりにも困難で汚れた世界だ。しかしその中だからこそ一層際立つのだ。生きることの真摯な意味が。
決してその中に入りたいとは思わない。しかし、冒頭の問いかけを自分に繰り返す時、こう答える。 刑務所の真実がわかるとはいえない。でも、想像することは出来る、と。

(参考文献 「OZ: BEHIND THESE WALLS The Journal of Augustus Hill][Homicide: Life on the Street The Unofficial Companion」 「The Advocate」執筆協力:中里亮子)

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キネ旬ムック
発行:(株)キネマ旬報社
発行日:2003年10月10日

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