英国放映 1991年4月7日
2006年10月22日
ITV
全７シーズン/1話100分~200分×9話
日本放映 NHK総合 他

TV史上に残る傑作。これを見ずして英国ミステリドラマを語るべからず！

2006年度アカデミー賞をはじめ、主演女優賞をほぼ総なめにしたのが『クイーン』で現役英国女王を見事に演じ切ったへレン・ミレン。彼女はオスカー戦線真っ最中に受けたインタビューの中で「『第一容疑者』で初めて実年齢と同じ年ごろの女性を演じた。 小じわを隠す照明も不要。厚化粧もしなくていい。 せいせいした。今も女優業を続けているのは、そのおかげ」と
語っていた。

『第一容疑者』がスタートしたのは1991年。ミレンは45歳、主役を張るには少々、きつくなってくる年頃である。 しかし、ジェーン・テニスン警部は、若く美しい女優には絶対に出来ない役だ。実力がありながらも長い間閑職に甘んじていたテニスンは、同僚の警部の急死に際し、ここぞとばかりに代役を名乗り出て、上司からも部下からも総スカンを食う。
中でも急死した警部の友人だったオトリー刑事はテニスンを毛嫌いし、彼女の失脚を画策する。四面楚歌の中、テニスンは果敢に捜査にあたり犯人を追いつめる。 反発していた部下たちも最後は彼女の有能さを認め、ボスと呼ぶようになる。そのために彼女は恋人に去られ、私生活は散々なめにあうのだが。

しかし、夕食の支度をしながら殺人事件の捜査を指揮するなんて、 通常の精神状態で出来るものではない。評判となったシリーズ第1作は、殺人事件の捜査の過程を克明に描き、なんとホンモノの警察官の教材に使われていたこともあるという。中でも容疑者を追い詰めるテニスンの尋問のテクニックはお見事の一言。 第1話の連続娼婦殺しの犯人は実に手ごわい相手なのだが。

第1話と第3話の脚本は、ミステリ作家としても知られるリンダ・ラ・プラン
ト。ヘレン・ミレンと同じ年代で、「凍てついた夜」などの邦訳が早川書房から出ている。彼女は女優から脚本家、そして作家へと転進し、TV製作プロダクションも持つエネルギッシュな女性だ。 テニスンのキャラクターはラ・プラントが産み出し、ミレンが完成させたといっていいだろう。

シリーズは1996年までに7作製作され、一旦は終了。 その人気の高さゆえ
に、アメリカでの映画化やテレビシリーズ化も企画され、メリル・ストリープら、実力派女優がテニスン役を熱望したそうだが、結局は実現しなかった。 ミレン自身は、テニスンのイメージがあまりにも強いので、もう終わりにしたいと考えたそうだが、テニスン復活の要望は強く、2003年、約7年ぶりに『第一容疑者8 姿なき犯人』が製作される。 ここでのテニスンは既に還暦間近で、部下の男性が自分の上司になり、窓際に追いやられ、介護の必要
な父親はいるし、自分は老眼になるしと、迫り来る老いに対処しなければならない。
扱う事件はボスニア紛争の虐殺を逃れてロンドンにたどりついた姉妹が辿るあまりにも悲惨な事件で、 テニスン自身も大きなダメージを追うことになる。ロシア映画界の名優、オレグ・メンシコフをゲストに招いたこのエピソードは、まさにシリーズ復活を飾るに相応しい傑作だった。そしておそらくは最終作となる「Prime Suspect The final act」 が2006年、英国で放映
された。
現在のところ、日本未放映の本作はエミー賞、ゴールデン・グローブ賞などにノミネート。前述した『クイーン」で映画部門の主演女優賞を独占したミレンは、TV作品『エリザベス1世 愛と陰謀の王宮』と、この『第一容疑者』最新作で、 英米のTV部門の女優賞も総ざらいしたのであった。願わくば一刻も早く、日本での放映とDVDリリースを求む!

PRIME SUSPECT 第一容疑者
DVD-BOX 2007年、 ハピネット・ピクチャーズ
発売。 8枚組、 30240円(税込)。

英国テレビの大逆襲
別冊映画秘宝　海外TVドラマ・マニアックス　Vol3　
岸川靖・編
発行日：2009年1月　
発行・洋泉社

追記：最終話 Prime Suspect The final actは「希望のかけら」という邦題で放映、DVD化されている。現在も中古でDVDは入手可能。
マリア・ベロ主演でアメリカでもリメイク。「新・第一容疑者」という邦題で日本でも放映されたが未見です。あまり評判は良くなかった模様。若き日のテニスンの巡査時代を描いた「女捜査官・テニスン　1973　第一容疑者」（2017）も製作されたが、やはりヘレン・ミレンじゃないとなと思ってしまう。（よって未見）
アマゾンプライムで先日久々に本家の第1話を鑑賞したが、やはり、傑作です。絶対に見るべき！嫌味たっぷりのおやじ、オトリー警部が最高。