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朋遠方より来たる【24.1.6】

・9時過ぎに起きる。今日は友達が島にくるので、南の空港までピックアップに向かう。1日がかりの作業だ。

・来客用のシーツと毛布を洗濯し、ベッドメイクをする。14時には南島行きの島渡しフェリーがでるので、11時過ぎに家を出てスキディゲートのフェリーターミナルを目指す。

・朝は少し雨がパラついてはいたが、走っているとどんどん天気が良くなっていく。スキディゲートについたころには空には晴れ間が出ていた。

・ハイダグワイにはふたつ空港がある。僕が住んでいる北島(グラハム島)北部のマセット村に一つ、そして南島(モレスビー島)北部のサンドスピット村に一つである。サンドスピット村はスキディゲート村の対岸にあり、島渡しフェリーが一時間に一本ほど出ている。所要時間は20分ほどだ。

・スキディゲートのターミナルで片道のチケットを買う。とはいっても、対岸のターミナルにはチケット売り場はないので、片道チケットで往復できる形になっている。車一台での乗船で35ドル。

・スキディゲートまでは仕事でよく訪れていたけれど、南島まで渡るのは今回が初めて。フェリーは数台の車と巨大なトレイラーを乗せ、ゆっくりと水面を動き出す。

・サンドスピット空港にはエアカナダ便が毎日バンクーバーから飛んでいることもあって、南島観光の玄関口といった様相である。大きなロッジやコテージが立ち並んでいる。ただ2月の今ではサンドスピットは閑散としており、ゴーストタウンのよう。

・サンドスピット空港には定刻の15分前ほどに着く。種子島の空港を思い出させる簡素な建物だ。中は小綺麗で、ちょっとしたお土産屋さんとカフェがある。到着する飛行機で島を後にするひとたちが保安検査を抜けていく。

・しばらくすると、小さなプロペラ機がなにかのしるしのように着陸する。滑走路で誘導を行っているのもひとり、預け入れ荷物の運び出しを担当するのもひとり。最小限の人手である。

・機体のドアが開くと、10人ほどの乗客が出てくる。最後の方にタラップを降りてきた疲れ顔に見覚えがある。まりこだ。

・彼女は僕の遠野時代の友人である。当時の同居人を介して知り合った遠野生まれ遠野育ちの生粋の遠野っこで、今はヨガ講師としてフリーで活動している。最後に会ったのは去年7月初旬。カナダに移る直前に、半ば自分を落ち着かせるために遠野をふたたび訪れ、お世話になった人々のもとに顔を出しに行ったのである。「カナダに行く前にこの神社には連れて行っておかないとと思って」という彼女に連れられ、巨石が祀られている山奥の神社を訪れたあの夏休み真っ只中のような1日から、すでに半年なのだという。僕の中の体感では、すでに2、3年前のような感覚なのだが。

・「来年2月、こうちゃんのところに遊びに行ってもいいかな?」去年の暮れ頃、突然まりこからメッセージが来た。そもそもこんな果ての島まで来る人自体一握りであるのに、彼女がそういった人種のひとりだと考えたこともなかったので、正直びっくりした。もちろん二つ返事でOKを送り、はじめての海外一人旅だという彼女のためにアクセス情報や必需品などをシェアした。それとともに日本から運んできて欲しいものを彼女宅まで送った。

・6日の朝に遠野を出発し、東北新幹線で東京まで出て、成田からバンクーバーまで九時間。そこから飛行機を乗り継ぎ、サンドスピットに到着したのが同じく6日の15時過ぎ。太平洋を跨ぎ、東北の辺境からカナダの辺境まで友人がやってきた。

・中学の頃に通っていた学習塾では、昔の格言などをたくさん暗誦させられた。そのほとんどのものは遠い昔に忘れ去ってしまったのだが、『論語』についてのものはなぜか今でも頭の片隅に残っている。「朋遠方より来たる有り、また楽しからずや」とは、よく言ったものである。遠野にいた時にも、長野にいた時にも、そしてこうしてハイダグワイにいる今でも、少なくない数の友達が僕をわざわざ訪れてきてくれる。なんと自分は幸せ者なのだろう、と思う。

・「バンクーバー行きの便、後ろが子供連れで大変だった。なかなか眠れなかったし、ろくに英語も喋られないけれど、着くもんだね」はじめての海外ひとり旅にしては落ち着き払った様子をみて、僕も安心する。

・家まで帰るのに三時間ほどかかるので、サンドスピットをあとにしフェリーターミナルまで戻る。スキディゲートの入江には平らかな水が満ちており、時折イーグルが羽を大きく広げて滑空していく。多島海には低く霧が立ち込めているが、空には夕陽が輝いていた。

・スキディゲートに渡り、スーパーで少し買い出しをしたら、暗くなる前にマセットを目指す。道中、いろいろと話をした。僕の遠野時代のシェアメイトのひとりは今、日本三代秘境と称される宮崎県椎葉村に住んでいるのだが、まりこもその場所を訪れた時の話。遠野のみんなの近況など。

・マセットまでたどり着いた時には、五時間運転し続けた僕も、1日かけて移動してきた彼女も、どうしようもなくへとへとだった。それでも腹は減っていたので、米を炊いて豆腐の味噌汁をつくり、サーモンを塩焼きにして簡単な晩ごはんにする。濃いめの味噌汁が疲れた体に沁みる。

・ご飯を平らげてしまった後、僕たちはふたりともベッドに直行した。まりこには僕の部屋を使ってもらい、僕はギアルームにマットレスを敷いて寝る。本格的なツアーは明日からだ。

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