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おさなさへ

ひとりの少年が赤いキャップを脱ぎ、白いシルクハットをかぶるまでのあいだ、私は夢を見ていました。かれは嘘が下手くそで、「きみには白いドレスがいいね」とわらったので、私は黒いドレスをまといました。それを見たかれが、よく澄んだテノールで夜の虚構に歌を溶かすと、わたしのドレスは漆黒にきえました。二人で葡萄酒を一口飲んで、踊るまねをしました。

ひとりの少年が白いシルクハットを投げ捨て、壁にもたれているあいだ、私はゆめを見ていました。かれは死んだように目をしずかに閉じていましたが、かれは嘘が下手くそで、とても息をしていないようには見えませんでした。わたしも真似して目を閉じましたが、あいにく死んだ記憶がなかったので無理でした。

ある日、かれは言いました。
きっとずっと、ぼくらはわらうのだろうね
これが私の知っている、かれが一番上手についた嘘のような気がします。そのときわたしはそのゆいいつの嘘にみとれ、いくらか時間が過ぎました。あとはそれっきり。いま、わたしもほんとうに目を閉じます。