白みえん

白みえん

最近の記事

Developinging

 絵を描き始めたのはなんでだったか。特別なんででもない。ただそれらしい理由としては、大いなる目的のために協力者を惹き付けるにあたって、それがキャッチーな手段のひとつだと考えたからというのは間違いない。けれども、その点でいえば他にシミュレーションゲームを作ったり、各種演出的な背景を貼ったりしていたのと、まったく並立。もし彫像を作ったり(見せる際には2Dになるけど)、ダンスパフォーマンスをしたりする能力とか余力とかがあって、それが同じ意図に沿えると考えていたら、そっちが絵に取って

    • 一過

      「はっ」 怖い夢の致命的なところで、あえなく目を覚ます。ゆうべ寝る前にまあまあ退廃的な読みものを読んでいたからだろうか、と即座に理由を顧みるころには、どんな怖い夢だった、という残像も消えいっていた。 目を開けたものの、光はない。 「むうう」 けさ目を覚ました原因について唯一の証拠といっていいような速鳴る鼓動が、ベッドで寝入り直すよりカーテンを開けるほうへと体を促す。 カーテンを開けたものの、光はない。 「いっ……せっ あかる」 重

      • developing

         色とりどりで、くまなくやわらかに据えられた動物、植物、無機物たちに、まっ白くきめ細かな髪のかかった背中が見守られている。やわらかな彼らは、今昔さまざまながら、おしなべてその白い人に生み出されたものたちであり、その創造主が、またなにかを手掛けているさまを見つめているのである。  しかしながら、それが背中越しで、針と糸をもってでなく、そして完成しているようでいてかれこれ数週間、やわらかな形で表れてこないというのは、もっとも古株のプラスチックの眼にも映ったことのない姿であった。

        • 【トラカレ2020冬】たまに休むならこんな贈られ方

          ※この記事は、そぉい(@Fai_ry_BIue)さんご主催の『拡張少女系トライナリー Advent Calendar 2020』に寄せさせていただいたものです。  毎月6日は非攻略対象の日、白みえんです。  6日が本当に(一般の)休みの日になったのは、トラカレ期間中初めてな気がします。  今年はなんやかんやで、おそらくトライナリー最大の定期的なお祭りといえるコミックマーケットが一対ともなくなってしまったことと、あと個人的に下半期から激烈に忙しかったことのために、思うように

          Date=6:

           解決しがたい問題が付きまとうものらしい。  解決しがたいというのは、問題がそう自明でない──超越的な立場から与えられ、自分では制御しえないような変数のせいで定量化されがたい​──ために、問題自体の輪郭すら捉えきれないような、そういう状況。  自分と独立に運営される世界というのは、なんと融通のきかないことか。まっとうに考えようとすれば、すぐにそうして、ものすごく不確定なことをひとつならず考慮することになる。  つまり、日々暗中模索。不安ではあるけれど、これに関しては別に個人的

          あるひの救心

          「ハッピーバースデー」🎉 「!……?」 「トゥーユー」👏 「……誕生日?」 「誕生日でしょ?」👐 「まぁ、そう……」 「ハッピーバースデーー」👏👏 「ハッピーを押しつけないほうがいい」 「じゃあ、私がハッピーということでいい?」 「……よろしくない。なるほど、いずれにせよ利己的きわまりない」 「どっちも利己なら、貴女に押しつけてるほうが大したものじゃない?」 「む、考え方には賛成なのに……それでこんなに相容れないのが、やっぱり不思議ね」 「それはたとえば、貴女の誕生日が今日だ

          あるひの救心

          紙の火蓋

          「ふーむむ」  腰ほどの位置でくびれてしわが寄っている以外に、目立った模様も色の変化もないワンピースの上で、銀白色のポニーテールがじっくり右往左往する。口を閉じて鼻から声を抜く「Hmm」を意識的に発音するブームは、もうそこそこ長く続いていた。 「お迷いか」 「うーん……」  一般にはハレもケもない平日、じっとりと薄雲に覆われた空の下、列という列も一向になさない、ケーキ屋のショーケースの前。彼女が腰をかがめてから一分が経ったころ、ふっと顔が振り返った。 「マカロン嫌い

          紙の火蓋

          燕瞰

           病院の一部屋。今がどれだけいい思い出になっても、きっと覚えきれない形の雲がいくつも浮いた青空が、薄いレースのかかった大きな窓の向こうに見える。そこから吹き抜けてくる風は、とても柔らかいけれど、これで花粉さえ飛んでこなかったらな、と思ったりもする。 「これからも、ちーちゃんとお父さんのことをよろしく頼むに」  そう言ってほほえむお母さんの顔は、今日もずっと、ひだまりの中にあってとても暖かかった。それにつられて、うん、と返事するわたしの声も思ったより元気になった。 「……

          【トラカレ2019冬】お姉ちゃんスイッチ

           ぺらり。 「む、きょうは6日……」  紙をめくる音​──ノートの紙よりは分厚く硬い、日めくりカレンダーのいち構成員である四角の紙を、その上辺に通ったリングに沿ってめくる音。正確には、からりとか、ぺかりとかいった音に聞こえた。 「……ふー」  口を閉じて、鼻から空気を抜き通すようにしてそう発声する。Hmm、などとして表記されたい。  私がそのように息をついたのは、本日が休みの日だからである。 理由が少し跳躍しすぎた。詳しく理由を説明するとなると、究極的には私自身にし

          【トラカレ2019冬】お姉ちゃんスイッチ

          敬白みなみなさま

          「​──お姉ちゃん」 「ん?」 「ぐらきち」 「はい?」 「あれ?」 「……」  二人、手帳やら書類やらをささやかに広げて、机に向かってなにか会議風な話をしているところを、澄んだ声が通り過ぎた。ほんのふた声のあと、不自然な間が空きこくった。  声の主は勉強机に向かって座りながら、顔だけ静かに二人の方を向けて、見つめていた。おおむね固まっていた。 「えっ、なん、なんですか?」 「ちーちゃん呼んだ?」  会話はごく自然に引き継がれていこうとした。  であれば、このあとの返答も

          敬白みなみなさま

          千羽鶴をかわいがる【トラカレ2019夏】

          ショートケーキの日、白みえんです トライナリーAdventCalendar 2019年夏の部、8日めを担当させていただけてとても嬉しいです! 私は去年の12月非攻略対象の日に、伝説の記念すべきトラカレ2018にも記事をお寄せさせてもらいました。そのときは、6日めにもかかわらずすでにハードルが順調青天井に高くなっていた中、記事なのかなこれはと自省するような絵と文章でもって参加させていただいて不安だったのですが、ここに投稿して振り返ってみれば、またそのあとを拝見してみれば、それ

          千羽鶴をかわいがる【トラカレ2019夏】

          平和と蟹

          「ハッピマリッジデーイトゥー……」 ぱっちぱっちぱっち、三拍子に合わせて柏手が鳴る。神に捧げられるでもないその音に、抑揚のない白い声が乗っていた。 「……アス?」 ぱち、と手を合わせて語尾を上げたのを最後に、響き渡る手と声の音は滞った。 「あなたにも歌ってほしいのだけど」 「語呂がよくなかったね」 「原曲が人口に膾炙しすぎてるのと、適当な即興の替え歌のせい。無茶言わないで」 ぱっちぱっちぱっちと手拍子が始まる。 「さんはい」 「ハッピマリッジデーイトゥ

          平和と蟹

          律速段階

          「たとえば歩道の上で、あなたと同じ方向に歩いている誰かが目の前にいるとき、あなたはその人を追い越すか、後ろについて歩くかすることができる」 「うん」 「追い越すのはどんなとき?」 「……急いでるときとか?」 「なるほど」 こちらに目を向けず、ただ前を見つめててくてくと歩を進めながら、その横顔が問答をしかけてくる。 総じて白い容姿に似つかわしい表情と語調に、ただ歩調だけがいつもより少しだけ速くて、異彩を帯びていた。 「じゃあ、分速500mの馬と分速1000m

          律速段階

          ○○するほど愚かではない

          「のー、べたー、ざん、とぅー、不定詞」 「なになにするほど愚かではない」 シャープペンシルの滑る音。つむじが頭の後ろに見えなくなり、明度の高い眼がこちらを向く。 「私なら、そんな翻訳はしない」 「よくわかってるね」 彼女は満足げに薄く微笑み、再び顔を下に向ける。シャープペンシルの滑る音。 2017年の冬のある日、高校2年生の千羽鶴は、ひときわ熱心に冬休みの課題に取り組んでいた。曰く 「うづ吉にぎゃふんと言わせたいの」と。 確かな目標があるの

          ○○するほど愚かではない

          トラカレ2018 6日め

          トラカレ2018 6日め

          本日、非攻略対象につき【トラカレ2018】

          本日は 休みとちーが 言ったから 毎月六日は 一日休み たとえばこんな詩を、しかるべき責任者的な立場の人に詠みやったとて、この世界では──少なくとも私が存在し、かつ認識してきた範囲での歴史では──一般に学問や労働において、毎月六日にサボタージュを画策する正当な理由にはなってくれなさそうだと考える。とても残念。 ──逢瀬千羽鶴『千帖日記』. 20XX, 東雲出版.  λ 3ヶ月 TRI‐OSの接続が途絶えたあの日からというもの、千羽鶴のことを想わない日はありません。まさ

          本日、非攻略対象につき【トラカレ2018】