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『神籬の兎』四方山話

 六名の"強い"作家さま方のお力により、"闘う女性の百合小説"をテーマとして誕生した、バトル百合小説アンソロジー『一蓮托生』
 さゆと氏は『神籬の兎(ひもろぎのうさぎ)』という作品でアンソロジーに参加した。この記事では『神籬の兎』の制作過程の様子や表に出なかった設定などについて、作者のさゆと氏と当記事筆者のぽいぽいが座談会形式で当時を振り返る。

なお、座談会の主題はバトル百合小説アンソロジー『一蓮托生』に参加された各作者さまの作品感想。そちらの記事もぜひ読んで欲しい。いただいたFAも超絶嬉しかったので見てほしい。


『神籬の兎』について

さゆと(以下 さ):えっ、語るの? もう神籬についてはだいぶ語り尽くしたと思うけれど。

(筆者注:さゆと氏と筆者は『神籬の兎』完成時に反省会を行っており、既に大方の話題は語り合っていた。)

ぽいぽい(以下 ぽ):せっかくだしもう一度語ろう。noteに議事録まとめるためにも。

さ:そういうことなら。

ぽ:神籬はさゆと氏、本当に頑張ったと思う。色々死にかけてたにも関わらず、よくやり切ったと思う。でもその甲斐あって、すごく面白い作品になったと思う。すごく好きな作品。

さ:いえいえ、ぽいぽい氏にも協力してもらって、ほんとにありがたいです。スパルタだったけど。

ぽ:いやいや、さゆと氏の血反吐出るような頑張りの成果ですわ。スパルタなのは作品を面白くするためなので仕方ない。

さ&ぽ:(お互いに悪い笑みを浮かべる)

さ:改めて語りなおすとしたら、ぽいぽいさんは何を聞きたいの?

ぽ:人を修羅の道に突き落とす眼帯クールお姉ちゃん、蘭珠ちゃんの作者評価が知りたいです。うまく狙い通りに書けた?

さ:狙い通りに書けた! 嬉しい! 蘭珠ちゃんみたいなキャラ大好き!

ぽ:(業が深い……)以前「理解できないキャラが好き」って言ってたね。

さ:そう。例えば『citrus』の芽衣ちゃんとか、『ハーモニー』のミァハちゃんみたいなタイプね。好きなのに、私も理解できないからめっちゃ悩む。

ぽ:自業自得(笑)

さ:ぐうの音も出ない。

ぽ:主人公の琳ちゃんも可愛かった。

さ:琳ちゃんは、読者が応援したくなるキャラクターにしたかったの。だから絶対明るい子がいいなって思った。でも明るさとお姉ちゃんへの反抗心を掴むのは時間かかったなぁ、むしろ蘭珠ちゃんのほうがキャラの型がはっきりしている分掴みやすくて。実は第一稿では、お姉ちゃんに怒られた琳ちゃんは冒頭からすごく落ち込んでた(笑)

ぽ:そうだったねぇ。最終稿では絶妙なダウナー感に変わってた。

さ:今年頭ぐらいから別件で姉妹百合を書きたいと思っていて、それを元にようやく形にできたのが『神籬の兎』。ほんとに最初の時は「狩人の姉妹が、森の主を倒す」話だった。そこに自分の好きな中二全開の和風ファンタジーバトル要素や、BLEACHの護廷十三隊や鬼滅の刃の柱みたいな制度を加えて今の世界観ができたの。

ぽ:設定資料には、琳ちゃん蘭珠ちゃんが所属している「畿内二十二社庁」はかつて二十二社と呼ばれていた各地の神社群が禍津日(マガツヒ)に対抗するために新たに組みあげた組織とある。
 まず「畿内二十二社庁」の中に「大和支部」がある。支部の中に禍津日が現れたら前線に立って対応する「機動修祓部」と、常の侵食沼拡大防止と結界による防衛専門の「守護修祓部」があると。

さ:大和支部の機動修祓部隊長が蘭珠ちゃんで、大和支部の守護修祓部隊長が草鹿のおっちゃんだね。
 各支部は連絡は取りあっているけど、侵食沼である程度分断されてるから人の移動は少なさそう。作中では国土の4分の1が侵食されていることになっているけど、これは人が住んでいる面積と同じくらい。日本は国土の4分の3が山地だから、その逆と考えれば。

ぽ:全体に、作者が意図した通りに皆さま読んでくださっていて、嬉しいよね。参拝の場面も、描写の解像度が高いのがすごく良い。自分は旅や冒険シーンが大好きなタイプのオタクだからなおさら。

さ:私も好き。こっとんさんが仰ってくださったように(※1)、旅の風景は実体験を交えて書いてたの。
 例えばカワセミのシーンは和歌山に旅行に行ったとき、ミカン畑をお散歩中に見たのが元ネタ。森で鹿と遭遇するシーンは、知床でトレッキングしてるときに出会ったのを思い出して書いてた。奈良にも鹿はいるけど、奴ら野生というには図々しくて参考にならないからね。
 私の作品で解像度が高いシーンは間違いなく実体験が元になってる。

ぽ:神社参拝のシーンも?

さ:そう。最初の2つ(伊射鳴神社と瀧田神社)にはこれっていうモデルはないけど、今まで行った神社の記憶を切り貼りして書いたよ。数年前は神社やお寺に行きまくってたから。コロナが落ちついたらまた行きたいなぁ。

ぽ:そういえばさゆと氏が神社の名前を悩んでいるときに、旅のルートを調べてみたら奇跡的に神社が重なってて、その神社から作中の神社の名前が決まったね。

さ:『神籬の兎』はぽいぽいさんの協力なしでは完成しなかったよ。神社と組織の名前も考えてくれたし、私が心折れて投げたときには代わりに本文書いてくれた。だからさゆと作というよりは、sizukuoka(※2)作だと思ってる。
 書いてくれたのは姉妹が故郷の町に来るシーンと一茂のシーン。ただ一茂のシーンは私が「わかりやすいほうが良い」というぽいぽいさんのアドバイスを活かして、さらに書き直した。結局4回ぐらい変えたんじゃないかな、一番の難産だったね。ちなみに一茂があの口調なのは、ぽいぽいさんが書いてくれたバージョンの名残です。

ぽ:一茂好き。良いキャラしてる。他の方も好きって言ってくださるの嬉しいねぇ。

さ:嬉しい。でも百合で見たことないタイプだよね(笑)

ぽ:話は逸れたけど、最後の久留未神社にはモデルがあるって聞いたよ。

さ:山梨県の山だね。知り合いの人に連れていってもらう機会があって登ったの。七面山の「奥の院」というお寺が久留未神社のモデル。
 テレビ番組「ポツンと一軒家」で紹介されてた山だから、聞いたことある人もいるんじゃないかな。YouTubeでいい感じの動画見つけたから載せとくね。


さ:作中では片道2時間の山道になってるけど、ほんとは片道5時間ある。

ぽ:聖地巡礼の覚悟が試されるやつや。

さ:5時間登って、奥の院で一泊して、翌日降りると筋肉痛でよぼよぼのおばあちゃんみたいになった。

ぽ:それはなるね。

さ:参詣道には灯篭があって、下から順に1丁目、2丁目…で最後が50丁目になっている。灯篭の前には小さなお賽銭箱があるの。無事に登れるよう、手を合わせては小銭を入れていくのね。道中にはときどき祠や石が立っているんだけど「丁重に拝むとこの人なら助けてくれるかもって霊に頼られるから、何事もない顔で素通りしなさい」と教わる。
 今でこそ歩きやすいように階段が作ってあったり、危ないところは紐がかかったりしているけど、昔は参詣中に亡くなる人も多かったみたい。

ぽ:参詣のシーン、キャラクターが"地に足を着けた"感じがするのはそういう経験が活かされてたのねぇ。

さ:やっぱり経験したことは書きやすいね。

ぽ:さゆと氏は経験したことをフィルムに焼き付けて文章に活かす力があると思うから、そういうの活かした作品、もっと読んでみたいね。

さ:まあまあ、追々ね。
 あとは、大和支部の母体は大神神社(おおみわじんじゃ)ってことを言いたかった。『神籬の兎』は架空の奈良県桜井市が舞台なんだけど、そうしたのは琳ちゃんの呪装が因幡の白兎がモチーフだから。

ぽ:ふむふむ。因幡の白兎は有名な話だね。その兎を助けたのが、大神神社で祀られている大国主神(大物主大神)と。

さ:神器生大刀も大国主神の刀なんだよね。神話要素を取り入れたくて。
 ちなみに生大刀は現存してないから写真すら無い。神話にも「生きてるみたいな刀」としか書かれていない。かっこいい刀といえば天下五剣だけど、天下五剣は平安~鎌倉時代の刀に対して生大刀は神話の時代の刀。形状が違いすぎて参考にできない。(余談ですが今年頭に見た童子切安綱はめちゃくちゃかっこよかったです…)最終的に、現存する古墳時代の刀を参考に描写したの。
 一番参考にした刀は金銅荘環頭大刀といって、今でも御神体として祀られてる。こういう古いものがあるところは日本最高やなって思う。


ぽ:さて、そろそろ時間だけれど、さゆと氏からは何かありますか?

さ:そうですね……アレですかね。

ぽ:アレ、なるほどアレですか、では行きましょう。せーの。

さ&ぽ:「バトル百合はいいぞ!」

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※1 橘こっとんさんが書いてくださった『一蓮托生』の感想。

※2 sizukuokaはさゆととぽいぽいが結成している創作百合サークル。

バトル百合小説アンソロジー 一蓮托生 公式サイトはこちら↓

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