「不安」という生き物

さあ、授業の時間だよ。今日は「不安」という生き物について教えるよ。
 
「不安」というのは色がなく、透明な生き物です。ペガサスやドラゴンなどが分類される「架空の生き物」ではないから注意してね。此処、テストに出すからね。
 
「不安」は主に心を持ち、社会という枠に生きる生物に寄生します。「不安」は寄生した生き物の心が発するエネルギーを主に主食としています。「不安」という生き物の凄いところは、エネルギーとして放出されているものを食べるだけでなく、エネルギーを放出するように差し向け、絞り出すところなんだ。「不安」に寄生された生物がどんどん疲弊していくのはこのせいだね。
 
「不安」という生き物は無色透明って先程言ったけど、寄生した生物を通し、色が現れるときがたまにあるんだ。これはまだ研究中の分野だから君達は覚えなくていいけどね。「不安」という生き物の本当の色は「黒色」なんじゃないかと言われているんだ。テストには出さないからさ、気になる人だけメモして。
「不安」という生き物は無色透明だから、明確な姿はまだ分かっていない。ただ、彼らには「舌」と「歯」が備わっていることが長年の研究の成果で分かっているんだ。「不安」に寄生された生き物が感じる不快感は、「舌で舐められたときに感じる不快感」と「咀嚼音で生じる不快感」と酷似しているんだ。
 
さて、「不安」にエネルギーを取られちゃった生き物はどうなるか。エネルギーがなくなるわけだから当然衰弱していくよね。挙げ句の果て、寄生された生物は「自殺」や「自傷行為」に走ってしまうことがあるんだ。そうなんだ、君達が思っている以上に「不安」という生き物は恐ろしい生き物なんだ。
でもね、「不安」の一番恐ろしいところは「生物を衰弱させる」ことじゃないんだ。「不安」の一番怖いところは「繁殖力」なんだ。「不安」はある程度まで膨れ上がると他の生物に胞子のようなものを撒き散らして子孫を残す。電子媒体を使用した場合、距離なんて関係なく増やせるところも恐ろしいね。
 
さて、「不安」の恐ろしさばかりを伝えて、君達はきっと震えていることだろう。だが心配することはない、そのための授業なのだよ。「不安」を追い出す方法はいくつかあるんだ。一つは社会の枠から出ること。二つ目はその不安を逆にエネルギーに変えてしまう方法を技術として身につけること。三つ目は強い痛みを与えること。この中で一番簡単なものは断然3つ目だね。百聞は一見に如かずっていうし、直接見たほうが君たちも覚えてくれると思って、今回特別に不安に寄生された生物を貰ってきたんだ。
 
おっと、そろそろチャイムが鳴りそうだ。この実験は次の時間に実験室で行おうか。では、解散。

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