会社で加入する生命保険は「課税の繰延」?
こんにちは。SKPです。
前回、個人の生命保険の課税関係について紹介しましたが、今回は法人(会社)の場合を紹介します。
令和元年に保険に関連する部分の法人税法基本通達が改正されました。これは「支払った保険料をどのように法人会計上処理するのか」の部分に改正があったものです。
中途解約した場合に解約返戻金(戻ってくるお金)がない、いわゆる「掛捨」と言われる保険は関係がないのですが、法人で加入している保険は、この解約返戻金がある場合が多く、保険会計・税務には大きな影響を与えています。
節税とうたってはいけない
この改正に併せて金融庁より「保険を節税とうたうな」とお達しがありました。この改正以前は、保険料が全額損金(全損)でも返戻率が90%を超え、短期的に税負担を抑え、返戻金で回収するといったものが多くあったのですが、改正により法人税法基本通達9-3-5の2が設けられ、保険の損金性が大きく変わっています。
※ 損金とは
法人税法上の経費のことを『損金』といいます。代わって法人税法上の収益のことを『益金』といいます。会社の経理で「経費」として処理をしていても、「損金」と認められない場合は、法人税を計算する上では経費となりません。つまり「損金」と認められなければ、いくら経費を使っても税金は減額できない、ということです。
改正前は保険会社・販売代理店の営業で「節税」という単語が独り歩きし、そういった保険商品に購入が集中し、「本来の目的と違うよね?」と指摘された結果と言えるでしょう。
保険の設計書(加入前の明細のようなもの)も以前は「単純返戻率」と税効果を考慮した「実質返戻率」が併記されていましたが、今は「単純返戻率」のみの記載しか認められていません。
元より保険には「節税の効果」はなく、本来ある効果は「課税の繰延」となります。これがどういったことか確認していきましょう。
具体例「課税の繰延」
5年間、退職金目的の保険に以下の条件で加入し、6年目で退職金を支払ったとした場合、加入した時と、加入しなかった時を見ていきましょう。
【条件】
・法人年間利益 1億円
・年払保険料/全損 1000万円
・単純解約返戻率 100%(5000万)
・退職金予定額 5000万円
・実効税率30%
毎年利益が1億円出ていて、それ以外に保険料という経費(損金)が毎年1000万円。差引利益に対して「30%」の法人税がかかる。6年目に解約して5000万円を受取り、その資金で退職金を5000万円支払う。という状況です。
具体的に数字で推移を見てみましょう。
6年間の合計で、最終的に法人税額とCF(現金の増減)の総額が同じなのがわかると思います。
今回の場合は保険料総額(支払うお金)と解約返戻金(返ってくるお金)、さらに最後に支払う退職金の総額が同じなので当たり前と言えば当たり前の結果です。
保険料を損金(経費)にしている以上、途中の法人税額は保険に加入した方が減少しますが、解約返戻金を受け取った時は「益金(収益)」として課税されます。
そのため「今、課税するのではなく後から課税」、つまり「節税ではなく課税の繰延」という言葉となるわけです。
実際は繰延ですらない?言葉と数字のマジック
今回は「支払う保険料」と「受け取る保険金(解約返戻金)」を一致させて計算をしましたが、厳密に言うと、繰延ではなく実際は資金面だけで言えば「損」をします。
今回の保険は「単純返戻率100%」と書きましたが、この保険を実効税率(30%)で『実質返戻率』に表記しなおすと「142.9%」となります。
これはつまり、支払保険料を経費とし、法人税の負担を軽減し、戻ってくる金額まで考慮すると、払った保険料よりも『42.9%も得をしている』という意味です。
そんな保険があると思いますか?断言しますが、そんなものはありません。そもそも解約時の単純返戻率が100%を超えるというものは「支払った以上に返ってくる=保険会社が損している」状態なので、ほとんどないと言っていいでしょう。
今回の例で仮に『単純返戻率が95%』だとした場合、6年目に受け取れる返戻金が5%分(250万円)減りますので、その分収入も減り法人税も減少します。
しかし、法人税の減少額は減った収入の対しての税率。つまり250万×30%=75万円ですので、差分の175万円は保険に加入していない時よりも最終的な資金が減少している、ということになります。
節税だからって…
よく「節税」だから、と言って経費・損金を使いたがる経営者さんがいますが、保険についても同様の落とし穴があります。『税額控除』ではない以上、「節税=法人税を減額させる」ためには、経費を使う・損金を増やすために、資金を拠出しなければなりません。
法人税として余分な資金を支払いたくない、というのも理解できる考え方ですが、そのために返って資金を減らしてしまう、というのは本末転倒となるため、注意が必要です。
課税の繰延にも当然メリットはあります。例えば、今期から数年間は利益が確定しているが、数年後からは利益が見込めないor減少することが分かっている。といった時や、法人税率が今後低下していくことが決まっている場合など、今課税されるよりも将来に課税された方が有利である時には、繰り延べて税負担を軽減するというのも手法の一つです。
また、保険に加入している以上、当初目的である「保障」を買うことができます。運用と保障の両立という意味で「保険」以上に適した商品はありませんので、資金的に損をしてもこちらで運用をする、というのも当然選択肢の一つとなります。
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