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【国語科授業実践】生成AIの使い方を考える

Google for Education認定トレーナー&コーチの笠原です。

生成AIと学校の関係がかなり話題になっているここ数日ですが、自分も6月の授業は「生成AI」をテーマとした実践に取り組んでいます。

今日の記事ではその授業の概要をご紹介します。

デジタル・シティズンシップの実践として

自分は昨年末から1月の段階で画像生成AIやChatGPTなどを授業でも活用していました。特にChatGPTについては、日本語で使えるようになったタイミングすぐに以下のような実践をしました。

今年度に入っても「論理国語」の授業でこういう使い方などもしてみました。

これらの実践については、「生成AIがどのようなことをするものか」を体感するためには、それなりの意味があったように感じています。

しかしながら、この取り組みでは「とりあえず使ってみた」というレベルであり、本当に生徒たちは「生成AIの力やこれからの社会への影響について考えた」とは言いづらいと考えていました。

この数ヶ月で、生成AIに対する社会の反応が数多く出されています。ポジティブな変化であると考えているものからネガティブな面を強調するものまで、様々な論考を目にするようになりました。

そのような論点を眺めていると、授業の中で「使ってみた」というだけでは「生成AIと向き合った授業といえないのでは?」という考えるようになってきました。

また、今後、文科省が学校における生成AIに関する方針を出すことになっているそうですが、上から方針が降ってきた後では自分たちで考える余地がなくなるのではないか?という気持ちも持っています。

そのような状況を考えた時に、今、生徒たちに必要なことは「自分たちで生成AIの論点を考えることではないか」と考えるようになりました。

そこで考えついた単元が、「全国の大学が出している生成AIの活用指針を読み、それを踏まえて高校生版生成AI活用指針を考える」という授業です。

以下の苫野先生たちの本のように、ルールは与えられるものではなく、自分たちの現実に対して様々な論点を踏まえて、合意形成によって作っていくものだと体感してほしいと思っています。

ChatGPTのような生成AIは、まさにこれからの社会では生活から切り離すことが出来ないものになる可能性が高いものです。そのような道具が突然現れた時に、誰かかが判断してくれるのを悠長に待つのではなく、自分たちでまずは考える、合意形成にたどり着くということを経験してほしいと思うのです。

自分たちのことを自分たちで決める、新しいテクノロジーに対してどのように向き合うか主体的に考える、これらのことはまさにデジタル・シティズンシップの実践として重要なことだとも考えています。

単元の流れ

あまり詳細な授業については書くことが憚れるので書けませんが、単元の大枠を紹介します。

1.生成AIが生まれる前の文章を読み、社会の論点を理解する

教科書の文章は、検定を通す都合上、どれほど新しい文章だとしても数年のラグがあります。そのため、ChatGPTに代表されるような生成AIの話題については直接的に書かれている部分はほぼありません。

しかしながら、新課程の教科書には「人工知能に関する議論」や「情報社会の問題点」などについての文章は数多く掲載されています。技術的な側面からの説明文もあれば、政治的、社会学的な評論も数多くあります。

そのため、いきなり「生成AIについて考えよう」とするのではなく、教科書の文章について「自分たちが生成AIについて考える時に役立つ知識を読み取る」という課題意識を持って、まずはしっかりと読んで、まとめてもらいました。

教科書のページ数にするとだいたい40ページ超くらいを、目的にあわせて引用したり要約したりしてもらいました。

2.大学のガイドラインを読み進める

新しい学習指導要領で今年から始まった「論理国語」には「実用的な文章を読む」ということも指導に含まれます。しかしながら、この「実用的な文章を読む」ということは、かなり国語科教育の界隈では敬遠されている様子があります。何を教えたら良いかも難しければ、なぜ読まなければいけないのかということが難しいのでしょう。

実際、活用する予定もない情報を、授業のためだけに読み取る「実用的な文章を読む」という指導は非常に虚しいですよね。

そのような問題意識もあって、今回の単元では「生成AIの活用指針」という「実用的な文章」を「自分が活用するために読む」ということを行っています。まさに、目の前にある課題に対して必要な情報を読み解くという「実用的な文章を読む」という言語活動を行っています。

授業のてびきの一部

教科書の文章で「AIの論点」や「情報社会の論点」を理解した上で、大学の出している文書を読むと、少しずつ何が問題なのかということの輪郭が見えるようになってきます。また、逆に大学の出している文書を読むことで抽象的で分かりにくかった教科書の抽象的な文章の論点が理解できるようになることもあるようです。

学習活動の一部

読み取った内容ついては「情報」として活用するためにノートやCanvaなどを利用して、シンキングツールなどで整理していきます。

3.自分たちで活用方針を考える

ここまで情報をしっかりとインプット&整理をした上で、自分たちで「高校生版生成AI活用指針」を考えてもらいます。

ちなみに、活用方針を考えるときにはChatGPTに試しにお手本を聞いてみても良いとしていますが、ここまで自分で自分で情報整理をしっかりとしていると、ChatGPTの出力の程度だと「不十分だ」と思うようです。

4.完成した指針を解説するリーフレットを作る

これは振り返りのための課題です。構造化された長文である「活用の指針」をわかりやすい形に書き換えることで、自分たちが何を大切にしてきたかったのかを考えてもらう予定です(これかの授業の予定)

授業実践の感触

この単元をやってみた感触を紹介します。まだ、実践途中であるので、今後、少し考え方も変わるかもしれませんが、現時点で感じていることです。

第一に、生成AIについて考えるには圧倒的に知識が足りないことに難しさを感じます。生徒に限らず自分も専門的な理解はほぼ不可能です。そのため、単元としては一生懸命取り組むことが出来ていたも、成果物としては疑問が残るような可能性も十分あります。

第二に、生の素材を扱う難しさを感じます。仮に、明日に生成AIで大きな事件が起きて、世論の風向きが変わったときには、今、生徒たちが考えていることがご破産になる可能性は十分にあります。某メディアがかなり強烈にネガティブな情報発信をしているため、それを読んだ生徒が混乱している様子もありました。

第三に、生徒たちの様子を見ていると、人工知能や情報社会に関する議論はかなり知識としてハードルが高いものですが、興味があれば悪戦苦闘しながらも少しずつ取り組むことができるのだということです。予定調和に進まないことに難しさを強く感じますが、自分たちの課題だと認識した生徒たちの取り組みは非常に力強いものがあります。

夏に文科省から方針が出てしまえば、なかなか自由に考えることが難しくなると思っています。だからこそ、今のこの時期限定のこの単元で生徒がどのようなアウトプットを出してくるか楽しみであります。

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